ウクライナ侵攻に伴う保険マーケットへの影響
ロシアのウクライナ侵攻が始まって間も無く一年を迎えようとしています。一日も早い終息を願うばかりですが、勿論保険マーケットにも大きな影響を及ぼしています。侵攻直後からロシアやウクライナにおける保険証券の調達は困難になり、グローバル保険プログラムにおいては、ローカル証券からマスター証券へカバーが移行を余儀なくされ、現地で十分な保険サービスを得る事が難しくなりました。
その後、欧米の再保険マーケットの動きに端を発して、多くの保険種目においてロシアリスク(及び周辺国)に対する免責条項が導入されるようになりました。種目により、また保険会社により、その適用範囲や定義が異なり、「何が免責となるのか」細部はまだ詰まっていない点もあると思いますが、マネーロンダリングの観点で、如何なる手段であれ、当該国に経済的なベネフィットが及ぶことは許さないという姿勢だということは理解できます。
ウクライナ侵攻に伴う種目別の損害推計では、昨年5月時点で航空保険分野でロシアに駐機するリース機体の接収リスクを中心に1.3兆円の損害見通しとの発表がありましたが、直近では1.6兆円規模と上方修正されています。次いで海上保険分野が0.7兆円、合計では3.4兆円の損害見通しとされています。自然災害による保険事故と異なり、本件は戦争危険のため損害額のほとんどは企業分野の保険になります。
日本の損害保険マーケットは約10兆円規模で、自動車保険が4兆円強、火災保険が2兆円弱ありますが、これに対して今回最も影響を受けた航空保険は主に航空機の運行を行う航空会社や航空機及びその部品製造メーカー、整備や修理を行う企業が加入していますが、グローバルでも0.5兆円規模のマーケットと言われています。つまり、世界中を走り回る車や、世界中に建てられた住宅やビルなどに比べれば、航空機の数は圧倒的に小さく、ニッチな保険マーケットだと言えます。
0.5兆円マーケットで単年度1.6兆円の損害が発生すれば、損害率は300%超、保険会社経費を加えたコンバインドレシオでは330%超となると思われます。航空保険では、ウクライナ侵攻前にもボーイング737Maxの相次ぐ事故や、航空エンジンの大規模トラブルの影響で損害率が悪い状態が続いていましたので、今後かなり長期に渡り影響があると思われ、航空機の利用者へ転嫁されるものと予想されます。
保険システムは保険マーケットを通じたリスクシェアシステムですが、マーケットサイズが小さく、リスクボラティリティの高い分野には資本の提供者が減っていく懸念があり、加入者からみても特定の保険事故の影響が自社保険料にダイレクトに影響し、リスクの平準化機能が薄れてしまいます。このリスクグループ単体でマーケットが存続しうるのか、今後は他の保険マーケットと統合せざるを得ないという議論も出てくるのではと思う次第です。
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