保険引受審査: アンダーライティングとは
本日の日経新聞に「三井住友海上、政策株1.7兆円を2年で解消」との記事があり、これまで企業保険分野において重要な役割を担ってきた政策株の解消前倒しする事が報じられています。この中で、アンダーライティングの強化について以下の通り触れられています。
アンダーライティングとは一般に日本語では保険引受審査などと呼ばれ、保険会社がリスクの審査を行うようなニュアンスに聞こえると思いますが、その目的は「リスクアペタイトに基づく引受ポートフォリオの健全性確保、加入者間の公平性担保を通じた保険制度の安定的な維持」という事が出来ると思います。
前者「ポートフォリオの健全性維持」とは、引受をするリスクグループ全体のリスクの高低を適正に反映させていく事です。例えば、近年増加傾向の顕著な気象系の自然災害のリスクをカバーしている火災保険の料率アップなどはポートフォリオ全体の健全性維持の目的になります。
後者「加入者間の公平性担保」とは、引受をするリスクグループ内の加入者間においても、リスクの相対的に高い方と低い方が混在するので、これを適正に評価し、加入者間の公平性を維持します。自動車保険における等級制度などがこれにあたります。リスクグループはある程度纏まった数の契約数の集まる集団単位ですので、こうした個別調整を行わないと、リスクの相対的に低い方は「取り負ける」事になり、脱退していってしまいます。
つまりアンダーライティングとは一種のシェアシステムにおける公平性と持続可能性を担保するものと言い換える事も出来ます。身の回りでも、例えば「職場における飲み会の精算」もこれに近いと思います。年齢や職位(収入)、飲食の量や質、その他事情(アルコールは飲まれない方、途中参加の方など)を総合的に勘案して、参加者皆の納得感が得られる形で精算をするのも、公平性と持続可能性を担保するためです。
飲み会の精算ならば、ある程度勘案する項目は絞れますので、そこまで難しくないかもしれませんが、個々の企業で異なるリスクをアンダーライティングするのは容易ではありません。もちろん引受規定や試算ツールには既にベーシックな要素が含まれていますが、リスクのバラエティが多い企業リスクについては、上記飲み会で言う「その他事情」のウェイトが高まります。更には飲み会ならば調整するのは金額だけでしょうけれども、保険の場合は保険料だけでなく、引受可否、保険条件変更や引受シェア、レイヤーなど、様々な調整可能性があり、判断の幅が広がります。
多様なリスクを取り扱う企業保険におけるアンダーライティングの役割とノウハウはデータ利用やAIなどの活用が進もうとも、アンダーライターが異変を察知して、適正な判断を行うという機能が今後も残っていくと思いますし、企業保険を取り扱う仲介者や企業のリスクマネージャーにも求められる重要な能力の一つであると思います。