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賠償責任保険のてん補限度額の設定に関する一考

前回のnoteで書いた賠償責任保険は多くの企業が契約する代表的な保険契約ですが、第三者に対する賠償責任を担保する保険の為、その上限をいくらと見積り、てん補限度額を設定するのかは企業にとって大きな課題です。

個人の自動車保険に見られるような、「対人、対物無制限」という形で上限設定なしの契約が出来るのならば良いのですが、個人が自動車の運転に伴い負いうる賠償責任に比べて、企業が事故に伴い負いうる賠償責任はより高額かつ予測が困難であり、保険会社はてん補限度額を設定して引受を行います。

企業はいくらのてん補限度額の賠償責任保険を購入すれば十分か、という問いには答えはありません。つまり経営の意思決定の問題となります。その意思決定が合理的なものであるように事務局であるリスクマネジメント部門、リスクマネージャーは様々な角度から検討が必要になります。

  1. シナリオ分析による手法
    一つ目は多くの企業で採用される手法ですが、企業の製品やサービス、その展開エリアなどを考慮して想定事故シナリオを考え、その影響額評価を行った上でそれをカバーするてん補限度額を設定する手法です。保険会社や仲介者もリスクの洗い出しサービス、影響額分析サービスを行っており、最もポピュラーな手法といえます。

  2. ベンチマークによる手法
    もちろん上記1の手法で算出された金額を満足するてん補限度額を合理的な保険料水準で手配できれば良いのですが、もう一つの視点は同業他社と比べて過不足ない水準であるか、という点です。保険手配には当然保険料コストが必要であり、あらゆるシナリオに対応するため、幾らでも保険料払って良いという話にはなりませんので、対株主への説明責任も考慮が必要です。

  3. 保険マーケット引受可能額による手法
    高額なてん補限度額を必要とする企業の契約は、保険会社1社で引受を出来る金額では無い為、複数の保険会社、あるいは海外の再保険会社が引受を行います。つまりマーケット価格が存在する事になります。保険購入を保険会社の外部資本活用と捉えれば、仲介者の支援を受けマーケット価格で調達可能なてん補限度額がマーケットで合理的に調達可能な最大額となります。

  4. ロスデータから推計する手法
    マーケットの過去ロスデータに加えて、自社のロスデータも十分にある企業であれば、保険会社と同じく統計手法により、リスクカーブを作成して、再現期間毎の想定金額を算出する事が出来ます。企業の格付けや他のPMLの考え方を準用して100〜250年の再現期間の値を参照する方法もあります。

経営者は株主からの負託を受け、リスクを取って利益を還元する責任を負っています。ゆえに経営判断には常に不確実性が伴いますが、判断を先送りするわけにはいきません。合理的な意思決定支援もリスクマネージャーの重要な仕事となります。

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