PINK FLOYD / Is There Anybody Out There: Wall Live 1980-81
ネタのない時に不定期で連載するこのシリーズも9回目になりました。これまで数々のプログレバンドを取り上げてきましたが、いよいよ登場してもらいましょう。Pink Floydです。プログレ界の皇帝、あるいは仙人的存在、あるいは孤高のプログレバンドなどと揶揄されるこの音楽集団は、1967年にイギリスで結成されました。以後、数々の名曲、歴史に残るアルバムを発表し続けて、今なお、世界の音楽シーンに大きな影響力をもっています。私がこのバンドと出会ったのは、Yes、King Crimsonと聞いてきてプログレマニアを自称していたところに、Pink Floydを聞いた事もないのにプログレを語るなど笑止千万と言われまして、早速、いつものレコード屋へこずかい握って買いに行ったわけですよ。当時は今みたいに情報過多な時代でなかったんで、何の予備知識もなく、売り場でアルバムジャケットを見て買うのを決めたんですが、今思えばよくやったよなあ、月2000円の小遣いで2500円のアルバム、1枚買ったらもうお金ないじゃん、そんな思い切りのいい事ができたのも若さ故でしょうか、とにかく、そんな勢いで買ってきたのが、あの名盤”The Dark Side of The Moon”でした。その時は、このアルバムがランキングでギネスを保有するほどのアルバムとは知らず、ジャケットがかっこ良かったんで買ったんですが、聞いてみて、そりゃあもう天地がひっくり返ったような感動の雨霰でした。おお、これが真のプログレなのか、YesもKing Crimsonも、これに比べたら歌謡曲じゃないか。のめり込んだ私は、その後、”Wish You were Here””Animals””The Wall”とむさぼるようにアルバムを買い求めていくのです。こうして、立派なネクラプログレ少年になりましたとさ。めでたしめでたし。
PINK FLOYD / Is There Anybody Out There: Wall Live 1980-81
さて、そんなPink Floydですが、ライブアルバムは69年発表の”Ummagumma”のほか、ウォーターズ脱退後の88年発表”Delicate Sound Of Thunder”があります。が、私が今回取り上げるのは、やはりPink Floydとして大成功をおさめた”The Wall”のライブアルバム、2000年発表の”Is There Anybody Out There? : The Wall Live 1980 - 1981”です。ネクラプログレ少年時代に部屋に籠って聞きまくってたアルバムの、見たくても見れなかったライブ、その音源が、ようやくCD化されたと知って、タワレコで見つけた時即買いでしたね。速攻で聞きましたね。Pink Floydのライブショーはすさまじいと言う話だけは聞いていたので、想像はしていましたが、期待以上にぶっ飛ばされました。音源だけでこの迫力、これを会場で体感できたらどんなに良かったかと思ったもんです。残念ながら無様に空中分解し、泥沼の訴訟問題を絡めて、皇帝とまで称された孤高のバンドの栄光の歴史は晩節を濁しまくりましたが、この黄金期に生で見ておきたかったなあ。
ところで、それ相応の大人になった今でも、当然ながら、たまに思い出したように聞いているんですが、最近ちょっと思った事があります。それは、実はPink Floydはプログレじゃないんじゃね? ってことです。何をもってしてプログレッシブ・ロックと称するのかは、いろいろな分析がありますが、私が思うに、プログレとは中二病だと思うんですよ。中二病ってあれね、「思春期の少年少女にありがちな自意識過剰やコンプレックスから発する一部の言動傾向を揶揄した俗語(wikiより)」この言葉を知った時に、まさしく、プログレの世界観じゃんと思いましたもんね。だってそうでしょ、「魔女が平面を取り除き、あなたの夢をも食らう」だの「私はここにいる、そしてそこにいる、どこにでもいる」だの歌詞を見ても、あるいは海から来たやんちゃなタンクが悪さをして神様に怒られてまた海に帰っただの、サンスクリットだかなんだかの教典に基づく人間の儀式だの、今思い返したら赤面しそうな内容の歌ばっかりです。しかし、その点から考えると、Pink Floydはちょっと違うんですよ。”The Dark Side of The Moon”が人間の一生を描いたアルバムだというのは有名な話ですが、ここですでに「金」「時間」に振り回される人を皮肉る、あるいは批判する姿勢が見て取れます。そして”Wish You were Here”では、ヒットしたアーチストがいい気になってる姿を、自分たちに重ねて批判し、それを精神破綻したシドへのメッセージとしてします。”Animals”は完全に資本主義への批判で、”The Wall”もわかりあえない人と人とへの批判でした。何の事はない、初めから最後まで、強い社会批判がテーマになっているではありませんか。これはどういう事でしょう。さて、ここでもうひとつ、定義を考えましょう。ではロックとは何か? いろいろな説がありますが、私はロックとは体制批判であると思うのです。何もかも社会が悪い、などとのたまうガキの話ではなく、 五木寛之も言ってましたが、 巨大とはそれ故に悪である、その巨大なものへの反骨精神、それがロックだと思うのです。となると、Pink Floydは偉大なプログレロックバンドではなく、純粋なロック、そのロックバンドとして実に偉大であった、ということになるのです。反骨精神、歳をくっても忘れたくないですね。
この記事は2012年12月に書いたものを転載しました。
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