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「金盥」MemoryBookー5

これまでの「MemoryBook1〜4」は下記へお願いします。


前回<MemoryBookー4>のラスト5行

そのまま飛田さんは教室を飛び出してしまいました。
教室中は大騒ぎ。
残された壇上でポカンとしている先生とそね子ちゃん。
さて、この騒ぎ。どう収集しましょうかね。
ーーーだから目立つのは嫌だったのに。(by さとし)


「し・し・しずかにぃ〜!!」
山田先生は大きな声で言っているつもりだったのですが
教室の生徒には聞こえないようで、さらに頭に血が登った先生は
今度は精一杯の大声で「教室にもどりなさぁ〜い!!」

「センセぇ〜、ここ教室ですけど」

教室中はさっきより大きな笑い声と冷やかしに溢れてしまいました。

文学青年の山田先生は落ち込んでしまって放心状態。
転校生のさとし君は我関せずで自分の席に向かっている。
そね子ちゃんは・・・トイレでしょうか?
飛田さんを探しにいったのでしょうか。

その日は雲ひとつない真っ青な空の冬日。

「ハイ!!」
普段なら自分から大きな声など出さないさとし君
教室中に響き渡る声で手をあげました。
「しずかにしずかに!!」
山田先生は声を張り上げて教壇の机をバンバン叩きながら
「清家君、なんですか?」

「先生、ダルマストーブの上になんで金盥が乗っているんですか?」

すると教室中、また皆で大笑いの大騒ぎ。

文学青年の山田先生はもう静かにさせるのを諦めたのか
清家君の近くに寄ってきて
「あのな、清家。・・・それはな・・・」
(後日のさとし談:「なんだこの先生。もう呼び捨てかよ」と思ったそうで)

と、その時
ガラガラガラと教室の扉が開きました。

あれま!
飛び出していった飛田さんとそね子ちゃんが
クラス全員分の牛乳瓶が入ったカゴを仲良く運んできたところでした。

「牛乳、温っためるよぉ〜!!」
飛田さんの大きな声が響き渡ります。

「おぉ〜〜〜っ」
男子生徒は手を叩きながら喜んでいます。
皆、暖かい牛乳は好物のようです。

そうなんです。
寒い地方なのでストーブの上の金盥でビン牛乳を温めるのが
午前中の大イベントでした。

と、今後は教室の後ろの扉が
とてつもない大きな音で開きました。

「何を騒いでいるんだ!!!!授業中だろ!!!
 山田先生はどうしたんだ!!!」

今度は職員室まで聞こえるような大きな騒ぎに
怒り心頭の教頭先生でした。

「とにかく全員、席につけ!!
 山田ぁ〜!!!
 なにやってるんだ!!!
 飛田も牛乳を温めるのはやめて席につけ!!」

それでも男子の悪ふざけは止まりません。
教頭先生の怒っている姿をマネするもの
ストーブの近くでは
何本か金盥のお湯に浸かった牛乳瓶を心配して
転がしている奴もいます。
女子は飛田さんとそね子ちゃんの
恋のさやあてを予想してきゃぁきゃあ。
山田先生は口をパクパクさせながら
情けない顔をして教頭先生を眺めているだけ。

とにかく、のんびりした時代だったようです。

さて次回は、少しだけ時間をさかのぼって
そね子ちゃんと飛田さんが、さっき学校の廊下で交わした
密約のお話です。

・・・・次回へ


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