アネモネ


     アネモネ


カランコロンと音を立て入口が開く。
「慧悟、いつもの」
常連の亮太郎は店がオープしてから毎日通ってくれる、毎回アイスコーヒーを頼んでタバコをニ本だけ吸って少し無駄話をして帰って行きまた次の日には店にやってくる。

アネモネが出来てから三年がたつ。
亮太郎はいったい何杯のコーヒーとタバコをこの店ですませていったのだろうか。
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」

アネモネは私が一から物件を探してやり始めたわけではない。

四年年前に書いた小説が芥川賞に選ばれ
私は一躍時の人なった
美容師が書いた処女作がまさかの芥川賞である、世間は騒ぎ朝のニュース番組にも何度か出演しが三回目で加藤浩次にビンタをして急遽降板になった。
映画化もされた。
 その時一度だけ菅田将暉に会った。
 主題歌は後輩の米津が作ってくれた。
 そこそこの興行収入を得た。

美容室でも働いていたが色々と忙しくなったため、未練もなくすぐに辞めた。
残ったお金でゆっくり喫茶店でもやろうと思い近所の老夫婦がやっていたガーデンという喫茶店を買取りアネモネという名前にした。
食べ物は主にナポリタン、きのこのパスタ、後はホットサンドとサンドイッチ
メニューが少ない割に常連客がついた
タバコが吸えるようにしたのがこの店の流行った理由だと思う。
ここまで喫煙者を迎え入れる店も昨今では少なくなってきた。
 ただコーヒーはしっかり豆を選び、豆を挽き自信を持って提供している。

朝は早くなり帰るのは早くなった

妻は三十九歳と、やや高齢ではあるがお腹の中に新しい命を宿している。
もう安定期に入ったので少し安心している。

アネモネは一人でやっているが何とか家族3人を食いっぱぐれなく生活出来るほどの稼ぎも安定してきた。

妻がまた、仕事に復帰すれば、もう一冊本でも書いてみようかと思う。

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