「プレスの掛軸」にご注意

1980年代半ばに額縁屋や画材屋を通じて表装に出された掛軸が修復・シミ抜き不可能に陥るケースがあります。

当時、熱接着フィルムを糊の代わりに使って熱板プレスで接着する工法が登場しました。メーカーはこれを「近代表装」などの呼称でこれによって掛軸を早く安く出来ると売り込みまして、軸装の仕事をまとめて引き受ける工場も出て、額縁屋や画材屋・骨董屋が安く引き受けて流すというケースが出るようになりました。
(表具師はこれを「プレス軸」と呼んでいます)

しかしこの熱接着フィルム、紙本や絹本の繊維の中に入り込んで取れなくなり、しかも(特に初期のもの、おおむね21世紀初頭までのもの)はこれを溶かすのに有機溶剤が必要になるケースもあります。
そして有機溶剤を使うと落款の朱肉や一部の絵の具が溶けだしてしまうという致命的な欠陥があります。
ですが、書画に出来たシミを抜いたり仕立て換えたりするには一度裏打ちを外して紙本や絹本の状態にまで戻さなければなりません。

このため、当時に安いからという理由でプレス軸で仕立てられた掛軸が修復困難な状態に陥っております。
(最近の分は有機溶剤を使わなくても剥がせるものも出てきておりますが、見分けるのは難しいです)
(なお最初に「近代表装」と称してこれらを開発し売り出した「大弘」というメーカーは既に営業停止しております)

私共町の表具師は50年~百年で仕立て直すことを前提にした伝統的な工法を元にしております。
表装は町の表具師にご用命くださいませ。

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