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【種牡馬辞典】Ben Brush系・Sardanapale系・Carbine系・Domino系・Plaudit系

Ben Brush

 <プロフィール>
1893年生、米国産、40戦25勝
<主な勝ち鞍>
1895年米シャンペンS(D7F)
1896年ケンタッキーダービー(D10F)
1897年サバーバンH(D10F)
<代表産駒>
Delhi(1904年ベルモントS)
Broomstick(1904年トラヴァーズS)
Sweep(1909年ベルモントフューチュリティS、1910年ベルモントS)
<特徴>
母Rosevilleはダート12F施行時代の1892年ケンタッキーダービー馬Azraの全姉で、本馬はダート10Fに距離短縮されたケンタッキーダービーの初代王者。快速種牡馬Lexingtonを4×5でクロスしており、四肢の短い馬体が特徴のスピード馬だ。種牡馬としてもBroomstick(1904年トラヴァーズS)やSweep(1909年ベルモントフューチュリティS、1910年ベルモントS)といった後継種牡馬を輩出し、1909年には米リーディングサイアーにも輝いたが、父系としては発展させることができなかった。

Sardanapale

 <プロフィール>
1911年生、仏国産、16戦11勝
<主な勝ち鞍>
1913年モルニ賞(T1200m)
1914年仏ダービー(T2400m)
1914年パリ大賞(T3000m)
1914年サンクルー大賞(T2500m)
<代表産駒>
Doniazade(1921年仏オークス)
Zariba(1921年モルニ賞、フォレ賞、1922年ジャックルマロワ賞)
Bahadur(1923年サンクルー大賞)
Fiterari(1927年仏2000ギニー、パリ大賞、ロワイヤルオーク賞)
<特徴>
2~3歳時に1914年仏ダービーなどフランスで16戦11勝を挙げたが、第一次世界大戦により競馬の開催が中止され引退を余儀なくされたフランス競馬史に名を残す名馬。小顔で、胴長脚長の長距離馬体型。前肢の繋が立っている点も特徴的であった。種牡馬としてはDoniazade(1921年仏オークス)やZariba(1921年モルニ賞、フォレ賞、1922年ジャックルマロワ賞)など牝馬の活躍馬を多く出し、Nashuaの母母SekhmetやRobertoの4代母Forteresseといった優秀な繁殖牝馬も複数頭出している。

Carbine

 <プロフィール>
1885年生、新国産、43戦33勝
<主な勝ち鞍>
1889年シドニーC(T16F)
1890年シドニーC(T16F)
1890年メルボルンC(T16F)
<代表産駒>
Wallace(1895年コーフィールドギニー、ヴィクトリアダービー、1896年シドニーC)
Amberite(1897年ヴィクトリアダービー、AJCダービー、コーフィールドC)
Spearmint(1906年英ダービー、パリ大賞)
<特徴>
ニュージーランドとオーストラリアで43戦33勝を挙げたオセアニア競馬史に名を残す名馬。父母ともにTouchstoneのインブリード馬であり、父も母父もBrown Bess牝系でもある父母相似配合。均整の取れた好馬体で芝5~24Fの幅広いカテゴリーで勝利を挙げた。種牡馬としてもオセアニアで成功を収め、鳴り物入りでイギリスに渡ったが期待ほどの成績は残せず。現在は代表産駒Spearmint(1906年英ダービー、パリ大賞)を通して、Sir Gallahad=Bull DogやNearcoの母系で底力を補っている。

-Spearmint

 <プロフィール>
1903年生、英国産、5戦3勝
<主な勝ち鞍>
1906年英ダービー(T12F)
1906年パリ大賞(T3000m)
<代表産駒>
Johren(1918年ベルモントS)
Spion Kop(1920年英ダービー)
Spike Island(1922年愛2000ギニー、愛ダービー)
Royal Lancer(1922年英セントレジャー、愛セントレジャー)
<特徴>
オセアニアの歴史的名馬Carbineがイギリスで出した最高傑作。脚元の弱さから僅か5戦で引退を余儀なくされたが、馬体は偉大な父とよく似ており、1906年英ダービーをコースレコードで制すなど素晴らしい走りを見せた。種牡馬としても1920年英ダービー馬Spion Kopを出すなどして成功。特に現代競馬においては名繁殖牝馬Plucky Liegeを出したことが何よりも大きな功績といえるだろう。同馬は母としてSir Gallahad=Bull Dog兄弟を輩出。さらにNearcoの母母Catnipも同馬の産駒であり、父系は発展しなかったが現代競馬に与えた影響は計り知れない。

Domino

 <プロフィール>
1891年生、米国産、25戦19勝
<主な勝ち鞍>
1893年ベルモントフューチュリティS(D6F)
1893年米メイトロンS(D6F)
1894年ウィザーズS(D8F)
<代表産駒>
Running Stream(1900年ジュライC)
Cap and Bells(1901年英オークス)
Commando(1901年ベルモントS)
<特徴>
「黒い旋風」の愛称で、本格始動初期のアメリカ競馬を支えた快速馬。胴の短い体形で距離には壁があったが、Lexingtonの3×4・4由来のスピードを武器に1600m以下では19戦18勝を挙げた。種牡馬としての活躍も大いに期待されたが、2年目の1897年に急死。ただ、種牡馬として残した20頭のうち8頭がステークス勝ち馬となり、最高傑作であるCommando(1901年ベルモントS)がそのサイアーラインを繋いだ。3代母がReel≒Judithの2×2、母母がReel≒Judithの2×3・3とBostonの3×3(War Dance≒Lecompteの1×2でもある)、母がLexingtonの3×3という代々強烈な近親交配を繰り返してきた牝系でもあり、本馬が子孫に伝えたスピード因子は現代競馬にも多大な影響を与えている。

-Commando

 <プロフィール>
1898年生、米国産、9戦7勝
<主な勝ち鞍>
1901年ベルモントS(D11F)
<代表産駒>
Peter Pan(1906年米ホープフルS、1907年ベルモントS)
Colin(1907年ベルモントフューチュリティS、1908年ベルモントS)
Celt(1908年ブルックリンH)
<特徴>
僅か20頭を残して急死した快速馬Dominoの最高傑作。父はLexingtonの3×4・4由来のスピードを武器に1600m以下で18勝を挙げ、本馬の母母GuennもLexingtonの3×3のインブリードを持つ。それに対して、母父Darebinはオーストラリアの中長距離の大レースを複数制したオーストラリア産馬で、本馬はDarebinの血を1/4異系血脈としてLexington系のスピードを昇華させた競走馬であったといえるだろう。種牡馬としても1907年米リーディングサイアーに輝くなど成功を収めたが、父同様に7歳の若さで死亡。それでも僅か27頭の産駒からPeter Pan(1906年米ホープフルS、1907年ベルモントS)とColin(1907年ベルモントフューチュリティS、1908年ベルモントS)という2頭のベルモントS勝ち馬が誕生し、Celt(1908年ブルックリンH)やUltimusといった名種牡馬も輩出している。

--Peter Pan

 <プロフィール>
1904年生、米国産、17戦10勝
<主な勝ち鞍>
1906年米ホープフルS(D6F)
1907年ベルモントS(D11F)
<代表産駒>
Pennant(1913年ベルモントフューチュリティS)
Prudish(1922年CCAオークス)
<特徴>
父父Dominoの所有者であり、父Commandoの生産者であり所有者でもあったジェームズ・ロバート・キーン氏の生産馬かつ所有馬。Commando産駒のステークス勝ち馬は10頭すべてがイギリス産牝馬の仔であったが、本馬も例に漏れずイギリス産の輸入馬であるCinderellaを母に持つ異系配合馬だ。競走馬としても種牡馬としても活躍したが、父父Dominoや父Commandoの活躍と比較すると物足りなさは拭い切れない。とはいえ、Peter Pan→Black Toney→Black Servant→Blue Larkspurのラインは素晴らしく、特にBlue Larkspurは父としても母父としても多くの活躍馬を輩出した。

-----Blue Larkspur

<プロフィール>
1926年生、米国産、16戦10勝
<主な勝ち鞍>
1929年ベルモントS(D12F)
<代表産駒>
Elpis(1945年CCAオークス)
Blue Grass(1947年ケンタッキーオークス)
But Why Not(1947年エイコーンS)
<特徴>
快速馬Dominoから繋がるスピード父系でありながら、1929年ベルモントSなどダート中長距離路線で活躍。胴や四肢が長く、顔も小さい中長距離馬体型であり、無駄な動きの少ない燃費のいいフットワークでもあった。Padua牝系のBlack ServantとBlossom Timeとの間に生まれ、本馬はPaduaを3×4でクロスした配合形。種牡馬としては牝馬の活躍馬を多く出した反面、牡馬には大物が生まれずサイアーラインは衰退。ただ、繁殖牝馬の父としては非常に優秀であり、Real Delight=Princess Turia姉妹を筆頭に多くの活躍馬の誕生に貢献している。

----Bimelech

 <プロフィール>
1937年生、米国産、15戦11勝
<主な勝ち鞍>
1939年米ホープフルS(D6.5F)
1939年ベルモントフューチュリティS(D6.5F)
1940年プリークネスS(D9.5F)
1940年ベルモントS(D12F)
<代表産駒>
Bymeabond(1945年サンタアニタダービー)
Better Self(1947年サラトガスペシャルS、1949年カーターH)
Guillotine(1949年ベルモントフューチュリティS、1950年カーターH)
<特徴>
名繁殖牝馬La Troienneの6番仔であり、同馬の最高傑作。1939年米2歳牡馬チャンピオン、1940年米3歳牡馬チャンピオンに輝き、種牡馬としてもまずまずの活躍を見せた。ただ、後世への貢献度という点では母方に入ってからの方が大きく、Never BendやDr. Fagerなどが本馬の血を現代に伝えている。2007年フィリーズマイルを制したリッスンは本馬を6×6・7でクロスしており、同馬の仔であるタッチングスピーチやサトノルークスなどが立ち肩で力のいる馬場を苦にしなかったことは本馬の影響を強く受け継いだ証といえるだろう。

--Colin

 <プロフィール>
1905年生、米国産、15戦15勝
<主な勝ち鞍>
1907年ベルモントフューチュリティS(D6F)
1907年米メイトロンS(D6F)
1907年米シャンペンS(D7F)
1908年ウィザーズS(D8F)
1908年ベルモントS(D11F)
<代表産駒>
-
<特徴>
2~3歳時に15戦全勝を挙げた父Commandoの最高傑作。父の産駒のステークス勝ち馬は10頭すべてがイギリス産牝馬の仔であったが、本馬も例に漏れずイギリス産の輸入馬であるPastorellaを母に持つ異系配合馬。父はLexingtonの4・5・5×5・5由来の米国的スピードが持ち味であったが、本馬は胴や四肢の長い馬体で1908年ベルモントSでも逃げ切り勝ちを決めている。種牡馬としては受精率が悪く期待ほどの成績を残せなかったが、Neddie~Ack Ackの系統が細々と繋がり、1994年にはAck Ack産駒のBroad Brushが北米リーディングサイアーに輝いた。また、母の全姉Verdigrisのラインは日本で発展しており、名種牡馬月友、1937年日本ダービー馬ヒサトモ、1991年日本ダービー馬トウカイテイオーなどが出ている。

--------Ack Ack

 <プロフィール>
1966年生、米国産、27戦19勝
<主な勝ち鞍>
1971年サンタアニタH(D10F)
1971年アメリカンH(T9F)
1971年ハリウッドGC(D10F)
<代表産駒>
Youth(1976年リュパン賞、仏ダービー、ワシントンDCインターナショナル)
Ack's Seacret(1982年サンタマルガリータ招待H)
Broad Brush(1986年ウッドメモリアルS、1987年サンタアニタH、サバーバンH)
<特徴>
初代エクリプス賞年度代表馬。父Battle JoinedはColin≒Verdureを4・4×4でクロスするArmageddonとBlue Larkspur系の母との間に生まれたDomino血脈を豊富に持った米国産馬だが、本馬の母はTurn-to×Princequillo×Sickleというヨーロッパ色の強い配合形であり、本馬は芝とダートを問わず10F以下で27戦19勝を挙げた。種牡馬としてもYouth(1976年リュパン賞、仏ダービー、ワシントンDCインターナショナル)やBroad Brush(1986年ウッドメモリアルS、1987年サンタアニタH、サバーバンH)など多様な産駒を輩出し、現在はBroad Brushが父系を繋いでいる。

---------Broad Brush

 <プロフィール>
1983年生、米国産、27戦14勝
<主な勝ち鞍>
1986年ウッドメモリアルS(D9F)
1986年メドウランズCH(D10F)
1987年サンタアニタH(D10F)
1987年サバーバンH(D10F)
<代表産駒>
Concern(1994年BCクラシック、1995年カリフォルニアンS)
ノボトゥルー(2001年フェブラリーS)
Farda Amiga(2002年ケンタッキーオークス、アラバマS)
<特徴>
Ack Ackの代表産駒であり、種牡馬としても1994年北米リーディングサイアーに輝いた最良後継種牡馬。3代母Hidden Talentは1959年ケンタッキーオークス馬だが、母母Turn to TalentはRoyal Charger≒Nasrullahを2×3でクロスした芝馬。母Hay PatcherはHoist the Flagを父に持ちダートで活躍したが、本馬の父Ack Ackは芝とダートで27戦19勝を挙げたオールラウンダーである。本馬自身はダートでのみ27戦し、代表産駒もダートの活躍馬ばかりだが、本馬の半妹ボブズディレンマが日本でトウカイワイルドを輩出するなど近親には芝馬も多い。もちろん、父父Battle Joinedや母父Hoist the Flag、Turn-toの3×3などから受け継ぐ米国的パワーやスピードが最大の魅力ではあるが、芝馬の資質も十分に兼ね備えていたとみるべきだろう。日本での代表産駒であるノボトゥルー(2001年フェブラリーS)やブロードアピール(2000年シルクロードS、根岸S)が見せた瞬発力はまさにその美点だったのではないだろうか。

Plaudit

 <プロフィール>
1895年生、米国産、20戦8勝
<主な勝ち鞍>
1898年ケンタッキーダービー(D10F)
<代表産駒>
King James(1909年メトロポリタンH)
Bringhurst(1913年米ホープフルS)
<特徴>
快速馬Dominoと並ぶHimyarの代表産駒。母CinderellaはLollypopの4×4という牝馬クロスを持ち、本馬以外にもHastings(1896年ベルモントS)などの活躍馬を輩出。さらに本馬は名繁殖牝馬Pocahontasを5×4でクロスしており、その血筋の良さに違わぬ好馬体、好実績を収めた。種牡馬としてはDominoのような成功を収めることはできなかったが、Plaudit→King James→Sting→Questionnaire→Free for All→Rough’n Tumbleとその父系を細々と繋いでいる。

------Rough’n Tumble

 <プロフィール>
1948年生、米国産、16戦4勝
<主な勝ち鞍>
1951年サンタアニタダービー(D9F)
<代表産駒>
My Dear Girl(1959年フリゼットS、ガーデニアS)
Flag Raiser(1965年ウッドメモリアルS)
Dr. Fager(1968年サバーバンH、ホイットニーS、ワシントンパークH)
<特徴>
Domino系と並ぶHimyar系の2大系統であるPlaudit系の名種牡馬だが、5代父King JamesはHimyarを2×3でクロスした近親配合馬であり、父父QuestionnaireはDominoを5×3でクロス、父Free for AllもDominoを6・4×6でクロスしている。さらに、本馬の3代母CushionはHimyarの4×4などLexingtonの血を豊富に持ち、母母Rude AwakeningはDomino=Correctionを4×4でクロス。結局のところ、本馬はHimyar→Domino、ひいてはLexington的なスピードが基盤となっており、さらに母父にフランス産Bull Dogを1/4異系血脈として配置したことにより米国的スピードを昇華させた配合形といえるだろう。現在はRough'n Tumble→Minnesota Mac→Great Above→Holy Bull→Macho Unoのラインが細々とその父系を繋いでいる。

-------Dr. Fager

 <プロフィール>
1964年生、米国産、22戦18勝
<主な勝ち鞍>
1967年ヴォスバーグH(D7F)
1968年サバーバンH(D10F)
1968年ホイットニーS(D9F)
1968年ワシントンパークH(D8F)
1968年ユナイテッドネーションズH(T9.5F)
1968年ヴォスバーグH(D7F)
<代表産駒>
Lady Love(1974年トップフライトH)
Tree of Knowledge(1974年ハリウッドGC)
Dearly Precious(1975年ソロリティS、スピナウェイS、1976年エイコーンS)
<特徴>
驚異的なレコードタイムを連発したアメリカ競馬史上屈指の快速馬。母AspidistraはDominoやBen BrushからLexington的スピードを豊富に受け継いだ繁殖牝馬で、本馬の半妹Ta Weeは本馬と同じく2年連続で米最優秀短距離馬に輝いた快速馬である。さらに本馬は代々Lexington的スピードを掛け合わせてきたRough’n Tumbleを父に持ち、フランス産Bull Dogを3×4でクロスすることにより異系血脈を取り入れた配合形も素晴らしい。まさにRough’n Tumbleの正統後継種牡馬といえる存在であり、種牡馬としても1977年には北米リーディングサイアーに輝いた。しかし、本馬は前年1976年に12歳の若さで他界。現在のRough'n Tumble系はMinnesota Mac→Great Above→Holy Bull→Macho Unoのラインが主軸となっている。本馬の名はFappianoの母父として見かけることが多いが、特にはIn Realityとの組み合わせでRough’n Tumbleらしさを継承。その中でもUnbridledは本馬の父母をともにクロスする配合形であり、直系ではないがDr. Fagerの血筋を後世に繋いでいる重要な種牡馬といえるだろう。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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