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【種牡馬四季報】NAR 2023年の種牡馬リーディングを振り返る

競馬オタク・坂上明大が
四半期ごとに国内外の種牡馬事情を解説していきます。


~リーディングサイアー~

シニスターミニスターが前年の3位から2つ順位を上げてNARリーディングサイアーの座に初めて輝いた。ミックファイアの南関東クラシック三冠(羽田盃、東京ダービー、ジャパンダートダービー)制覇は記憶に新しいところだが、それ以外でもJBCクラシックを制したキングズソード、TCK女王盃とエンプレス杯を制したグランブリッジなど上級クラスでの産駒の活躍が目立つ1年だった。

昨年1位だったエスポワールシチーは順位を1つ落として2位にランクイン。JBCスプリントとさきたま杯を制した兵庫の雄イグナイターは今年も現役を続行するようで、次走以降の動向に注目したい。JRA所属馬ではあるが北海道スプリントCのケイアイドリーも昨シーズンは地方の交流重賞を中心に使われており、今年も交流重賞での活躍に期待。南関東所属馬ではスマイルウィがさきたま杯2着、テレ玉杯オーバルスプリント2着と気を吐いており、今年は大目標であるかしわ記念制覇に向けて調整されるようだ。

前年2位のパイロもエスポワールシチーと同様に順位を1つ落としての3位。かしわ記念と帝王賞を制した稼ぎ頭メイショウハリオは2024年も現役続行を表明しており、今後もパイロ産駒を牽引する存在として目が離せない。その他では、ホッカイドウ競馬三冠馬のベルピット、東京記念、埼玉新聞栄冠賞、マイルグランプリと3走続けて2着に好走したランリョウオーなどが続く。

4位ホッコータルマエは前年9位からの躍進。スパーキングレディーCを制したレディバグ、雲取賞、黒潮盃、戸塚記念を制したヒーローコール、フジノウェーブ記念のギャルダルなどが主な活躍馬だ。また、ルーキーズサマーC(1着賞1200万円)のアムクラージュ、ネクストスター佐賀(1着賞1000万円)のウルトラノホシなど今後の活躍が楽しみな明け3歳馬も続いており、今年はさらに順位を上げる可能性が高いだろう。

5位ヘニーヒューズの産駒ではニューイヤーC(1着賞1200万円)とクラウンC(1着賞1500万円)を制したポリゴンウェイヴや楠賞(1着賞2000万円)のボヌールバローズの活躍が目立った。JRAのダート部門では4年連続首位を獲得しているだけに、地方所属馬が少ないなかでの5位は十分に評価に値する成績だ。12位には後継種牡馬であるアジアエクスプレスもランクインしており、日本を代表するStorm Cat系のラインとして今後もダート路線を牽引してくれるだろう。

NARの上位種牡馬は高齢馬が多く、特に上位7頭中6頭が19歳以上という点は決して無視できないポイントだ。今後数年で勢力図がガラッと変わる可能性が高く、今後の動向から目が離せない。

~南関東・リーディングサイアー~

南関東限定の種牡馬リーディングでも首位に立ったのはシニスターミニスター。以下4位まではNARリーディングと全く同じ並びとなっている。

その他では、7位にオルフェーヴル(NAR11位)、10位にアジアエクスプレス(NAR12位)がランクイン。オルフェーヴル産駒はウシュバテソーロの川崎記念、東京大賞典、日本テレビ盃の1着賞金が大きく、出走数や勝ち星の数は決して多くはない。反対に、アジアエクスプレス産駒は浦和のエンテレケイアが上級クラスで堅実に稼いでいるが、グレードレースで勝ち負けするような馬は南関東では出ておらず。パワーヒッターのステイゴールド系オルフェーヴル、アベレージヒッターのヘニーヒューズ系アジアエクスプレスといったところか。

ちなみに競馬場ごとのランキングでは、大井がシニスターミニスター、川崎がホッコータルマエ、船橋がパイロ、浦和がエスポワールシチーと全場で異なる種牡馬が名を連ねている。

~2歳・リーディングサイアー~

2歳リーディングサイアーは新種牡馬モーニンが獲得。初年度の種付け料が50万円(2024年度は150万円)とフェブラリーSの勝ち馬としては安価で、父ヘニーヒューズの産駒がモーニン以外にもアジアエクスプレスやワイドファラオ、アランバローズなど日本のダート競馬へ高い適性を示していたことから生産者としても付けやすかったことが背景として考えられる。2歳の出走頭数70頭、出走回数334回はいずれも1位で、産駒の多さとStorm Cat父系らしい仕上がりの早さが2歳リーディングサイアー獲得の大きな要因だったといえるだろう。

2位マジェスティックウォリアーは2022年の21位から順位を一気に上げる大躍進。東京2歳優駿牝馬(1着2000万円)のローリエフレイバーを筆頭に、平和賞(1着賞1300万円)を勝ったカプセル、チバテレ盃(1着賞600万円)のバハマフレイバー、若駒盃(1着賞180万円)のミトノウォリアーらの活躍が目立った。

3位ダノンレジェンドは2021年生まれが4世代目。今年から各地で新設された高額賞金レース・ネクストスターを2勝(金沢:ダヴァンティ、門別:トラジロウ)しており、今後の活躍にも大きな期待が持てる種牡馬の一頭だ。

4位ホッコータルマエは2022年首位から順位を3つ落とす形に。とはいえ、浦和の2歳重賞・ルーキーズサマーCのアムクラージュ、ネクストスター佐賀のウルトラノホシなど役者は揃っている印象で、こちらも明け3歳になっての巻き返しに期待したい。

5位ベストウォーリアは初年度産駒がデビューした2022年の3位から2つランクダウン。ただ、父マジェスティックウォリアーの約1/3の種付け料であることを考えると5位でも十分に健闘しているといえるか。クルマトラサンが大井のゴールドジュニア(1着賞1200万円)を制し、産駒初の重賞勝ち馬も誕生。高齢である父を超える日もそう遠くはないだろう。

7位パイロ、9位シニスターミニスターもA.P. Indy系種牡馬。両馬は産駒の活躍から人気が高まり地方での出走が減ってしまったが、その分繁殖牝馬の質は高くなっている。A.P. Indy系種牡馬は日本の血統プールとも合うため、新たなA.P. Indy系、特にTapit系の種牡馬の導入にも期待がかかる。

全日本2歳優駿のフォーエバーヤングを出したリアルスティールは10位。出走数が極端に少ないことから順位自体は低いが、中央でのダート成績も非常に良いことから、頭数が集まればさらなる活躍が期待できるディープインパクト系種牡馬かもしれない。ちなみに、サンデーサイレンス系種牡馬のトップ10入りはリアルスティールの1頭のみだ。

~リーディングファーストシーズンサイアー~

2歳リーディングサイアーを獲得したモーニンが2位以下に大差を付ける形でこの部門でも戴冠。2位に3倍以上の差をつける収得賞金2億1049万円を稼ぎ出しており、2023年のNARにおける新種牡馬部門はモーニン一強だったと言っても過言ではないだろう。とはいえ、出走数200走を超えたのも当馬しかおらず、モーニン以外の種牡馬の人気が少々低かったことも事実だろうか。

2位エピカリスは川崎の鎌倉記念勝ち馬で全日本2歳優駿でも3着に健闘したサントノーレの孤軍奮闘ぶりが目立ったが、ほかに上級クラスでの活躍馬は出せず。

3位アポロケンタッキーも金沢ヤングチャンピオン(1着賞金300万円)のリメンバーアポロが重賞タイトルを手にはしたが、産駒全体としては決してアベレージが高いとはいえない。

ファーストシーズンサイアーTOP10のうち内国産馬は3頭のみ。日本血統が確立していくなかで、種牡馬には新たな血の導入に力を入れているようだ。

~リーディングブルードメアサイアー~

2021年、2022年と2位だったキングカメハメハが初のNARリーディングブルードメアサイアーに輝いた。ウシュバテソーロの東京大賞典、川崎記念、日本テレビ盃での勝利が大きかったのは事実だが、それ以外にもリメイクが盛岡のクラスターCを制しJBCスプリントでも2着に好走。地方所属馬からもポリゴンウェイヴがニューイヤーCとクラウンCを勝つなど3000万円を超える賞金を稼ぎ出した。

2位クロフネは2022年首位からの陥落。とはいえ、2年連続収得賞金10億円超えは立派の一言に尽き、交流重賞ではテリオスベルがブリーダーズゴールドCを、リュウノユキナが東京スプリントを制している。交流重賞以外の高額賞金レースまで広げれば、カイルが大井の金盃を制するなど約2800万円を稼ぎ出し、高知のガルボマンボはだるま夕日賞、二十四万石賞、黒潮マイルチャンピオンシップを制して約4000万円もの賞金を稼いでいる。川崎のルーチェドーロも全国を転戦しながら名古屋の東海桜花賞や笠松グランプリを制するなど2600万円超の習得賞金を稼いでおり、タフに走り続ける彼らには頭が下がるばかりだ。

3位にはフジキセキがランクイン。1着賞金1000万円を超える高額賞金レースを制したのは盛岡の岩手県知事杯OROC(1着賞金1000万円)をアトミックフォースが制したのみだが、大井のマンダリンヒーローが雲取賞、黒潮盃、戸塚記念、ダービーグランプリと4つの重賞で2着に入り3000万以上の賞金を稼ぎ出した。

10頭中5頭がサンデーサイレンス系、2頭がRoberto系、2頭がフレンチデピュティ系、1頭がKingmambo系。これらを父に持つ繁殖牝馬に合う種牡馬が今後覇権を取ることになるだろう。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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