北海の魔獣あざらしさんと、グレーさん

北海の魔獣あざらしさん、というキャラクターがいる。
私が知ったのはLINEのクリエイターズスタンプからで、友人から送られてきたのが最初だったと思う。
それでいきなり一目惚れしたとか、そんなに劇的なものではなかった気がする。
でもいつの間にか、めちゃくちゃ好きになっていた。すぐにスタンプを買い揃えたし、それ以降新作が出る度に喜び勇んで買っている。
こういう可愛らしいキャラクターものにこんなにもハマったのは初めてだった。

いつだったか、東京と大阪のごく一部の店舗でガチャガチャの先行販売があった。
個人活動していらっしゃるイラストレーターさんのキャラクターの人気がどれほどのものなのかさっぱりわからず、即完売してしまうのかどうかが全く読めない。
入荷時間まで調べまくって…結局どうしたんだったかなぁ。夕方にちょっと仕事を抜けて行ったような気がする。
そうしたら既に先客が数人いた。グッズの先行入荷日、平日のこの時間に狙いに来る人が複数人いる…!という中々の衝撃。
お互い遠慮がちに譲り合いながらいっぱい回した。やっぱりお互いに遠慮がちに控え目に、欲しいやつの交換なんかもした記憶がある。

その後も色んなグッズが出たり、コラボカフェが開催されたり、作者であるグレーさんの個展が開催されたりと色々なことがあって、時には新作グッズの予約時の回線越しに、時にはコラボカフェや個展の現地でまじゅらーさん(あざらしさんファンの愛称)の存在を感じる機会があったが、不思議と皆さんちょっと控え目で、優しくて、穏やかな人が多かったように思う。
ファンは鏡だと言うから、グレーさんの人柄だろうか。

Twitterにグレーさんの個人アカウントがあることに気付いたのがいつで、いつフォローしたのかも定かではない。
購入履歴によると初めてスタンプを買ったのは2015年5月11日だったので、少なくとも6年以上はファンなようだ。
ちょっとシュールなギャグセンスと、何故か関西弁のおっちゃんぽいあざらしさんのイメージ、お名前からして当初は何となく男性かなと思っていた気がする。

初めて直接お会い出来たのは多分、2017年10月あざらしフェスタの時だったと思う。
この日発売のあざぼん2と、再販されたあざぼん(イラスト集)がどうしても、どう~~~~~しても欲しくて、大阪から普通に遠征して行った。
笑えるくらいの雨だったのを覚えている。
女性であることはもうこの頃には知っていたけれど、細身の綺麗なお姉さんで、このお姉さんからあのシュールなギャグが生み出されるのか…と思ったことも覚えている。

私はそもそもいわゆるバンギャという生き物で、軽率に遠征するタイプではあったものの、ライブ以外で遠征までするのはあざらしさん関連だけだ。
そして推しに手紙(ファンレター)を書くタイプでもあったので、この時も手紙を書いていたし、全部Evernoteで書いてから手書き清書するようにしているので、この時の手紙のデータも残っている。
読み返してみた。あざらしさんを生み出してくださったことへの感謝と、30を過ぎて可愛いキャラクターものにハマるとは思っていなかったけどグッズを集めたりするのがとても新鮮で楽しいこと、初のコラボカフェには私にあざらしさんを教えてくれた友人(愛媛住み)と弾丸遠征で行ったことと、
持病について詳しいことはわからないので無責任なことは言えないけれど、という前置きの後に、「ご快復を心よりお祈りしております。」と、記してあった。

その日は、休みの日だった。ずるずると夕方まで寝ていた。
起きると、友人から連絡が来ていた。ニュースを見たか、と聞かれる。
何の?と聞くと、訃報だと言われた。悲しむなと思って、と。
誰のだよ、と思いながらTwitterを開いた。トレンドに、名前があった。



ツイートを見た直後の私のツイートは、「ちきしょう」「こんちくしょう」「なんでだよ」「なんでなんだよ」だった。
何よりもまず、悔しかった。あんなにも優しくてあたたかい人が助からない世界が。祈る以外本当に何も出来なかった自分の無力が。

悲しくて悔しくて辛くて寂しくて悲しくて寂しかった。
初めて泣きすぎて過呼吸になりかけた。
こんなにも悲しいものかと思うくらいにひたすら悲しかった。
辛い。つらい。なんで。どうして。

よりにもよって、翌日は年に一回あるかないかの休日出勤だった。
眠れそうにもなかったのでそのまま夜中に出来るとこまでやって朝を迎え、翌日の昼過ぎには終わらせて、その後少し寝た。

数日間は本当にずっと泣いていた。
右を見ても左を見ても上を見ても下を見ても涙が出る。
泣いても泣いても泣いても何も楽にならない。

悲しくてさびしくて、ふらふらと痕跡を探しにTwitterを検索してしまう。
思い出に少し触れてはまた泣いてしまう。
Twitterを眺めていると、同じような気持ちを抱いている人が結構多かったなと思う。
言ってしまえば、いちイラストレーターといちファンというだけなはずなのに、自分でも驚くくらいに悲しい、と。

訃報を聞いてからもう2週間たつのに、今もまだ悲しい。
意識して少し心を遠ざけておかないと、ほんの些細なきっかけでまだ泣いてしまう。
いちファンである私がこれだけ悲しいのなら、ご遺族の悲しみはいかばかりかと思う。
私がこんなにも悔しくて理不尽で辛いと思うなら、グレーさんご本人のお気持ちはどれほどだっただろうと思う。
もう苦しい思いをしないですむことだけは唯一良いことだろうかと思ったりもするけれど、どれだけ苦しくても懸命に生きようとしていたグレーさんにそれも失礼なのかなとも思う。

あざらしさんのスタンプで一番最初に惹かれたところはあのちょっとシュールなギャグセンスだったけれど、それとは少し違うベクトルで、「おいちゃんがついとるで。」のシリーズがとても好きだ。
あのそっと寄り添ってくれるような温かみは、これまでに見たスタンプ以外の漫画や一枚絵、どの作品の根底にも共通して存在しているように感じる。
そしてそれは、グレーさんご自身にも同じように感じた温もりだ。

私は本当に運良く、何度も個展でお会いする機会があった。
事前に知らされていた在廊される日に目掛けて遠征することはもちろんだったけれど、ライブで都内へ遠征するのに合わせて個展にも伺うと、偶然その日も在廊されている、ということが何度もあった。
グレーさんに関しては本当~~~にもっていた。
いわゆる派手髪と言うやつで、襟足が真っ赤だったり青かったりしていたので覚えてもらっていて、見る度に髪の色が違う、と笑ってくださっていた。
いつかまた会いに行ける日がきたら、派手髪にして行かなきゃなと思う。

絵の学校に通って学んだことのある友人が、個展に一緒に来てくれたことがある。
一枚一枚の絵を見ながら、どの絵も理論的に構図がめちゃくちゃに素晴らしい、ということを教えてもらった。
これを感覚でやっているなら本当に天才なので、きっちり勉強してきた人であってほしい。逆に。とまで言っていた。
まだギャラリーエルシャダイが移転して広くなる前で、在廊されていて普通にその会話を聞いてらしたグレーさんが褒められ慣れないのか、「オ、オカーチャーン!」と怯えて鳴いてらしたのもめちゃくちゃ覚えている。いや、ネタじゃなくて。マジで。可愛かった。

コラボカフェも、開催ごとに少なくとも一回は行った。どうしても都内へ行く予定が立たず、静岡であったライブに行くのに合わせてまず都内へ向かいカフェに行った後、静岡へ移動しライブに行ってその日の内に大阪へ帰る、みたいなこともあった。
そして前述の通り派手髪で見るからにバンギャだったので、ゆるっと可愛いあの空間に私の見た目は完全に浮いていたのが我ながらめちゃくちゃ面白かった。髪色が派手なこともあって人目を引くことには慣れていたので全く気にしてはいなかったが、ガチャガチャを回して席に戻ると、回してる後姿写真に撮られてたよ、と友人に言われたこともあった。顔面が写ってなければ別に構わないけども、撮ってどうするんや。

個展でたくさん描かれていたような賑やかな絵もとても好きだけど、毎月フリー配布してくださっていた壁紙絵でよく見られた、グレーさんの静物画がめちゃくちゃ好きだ。
果物の凹凸や、植物の枝の付き方がとても正しくて、プロのイラストレーターさんに向ける言葉ではないかもしれないけれど、「可愛いだけじゃなくてまず本当に単純に絵が上手いんだよな…」と見る度に思っている。

これから先、ずっと。
月の初めが来る度に、あぁもう配信壁紙はないんだな…と思うだろうし。
もう来年以降のカレンダーも出ないんだな…と思うだろうし。
エイプリルフールになればもうまなてぃーさんが泳いできてくれることもないのか…と思うだろうし。
もう新しい絵が描かれることはないんだな…と思うだろう。

今も寂しいし、それを考える度に泣いてしまうけれど。
今だってこれを書きながら泣いているけれども。
これが時間でしか癒えないことを、知っている。
いまだに信じがたい。嘘であればいいのにと思う。
何度も何度も何度も喪失にぶち当たりながら、あざらしさんとこざちゃんとずっと一緒に生きていくので、それしかないのはわかっているので。

自分の気持ちを一区切りさせたくて書いた。
読んでくれた方がいらっしゃるなら、取っ散らかっていて申し訳ない。

グレーさん、ずっとずっと大好きです。
グレーさんが生み出してくれたみんなに寄り添ってもらいながら、私はこれからも生きていきます。
愛しています。ありがとう。本当に。

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