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台本/0:0:4京都の魔 縁

京都の裏の意味での掃除屋が入りびたる事務所は、また異なる掃除も携わっている場所。明らかに普通ではなく顔色の悪い通行人を連れ込んだことから事件にかかわってしまう。
法師以外は特に方言である必要はない。

鳥居:そんな!横暴な!ここは先祖代々受け継いできた土地なんだ。立ち退き料をいくら上げるといわれてもそんな簡単に手放せるものじゃない。大体、近所の土地だって売りに出されいていたわけじゃないだろう!……そんな強気でいられるのも今のうちだけ……?警察ももう呼んだんだ!契約書にサインしない限りお前たちにこの土地が渡ることはない!
0:裏庭
鳥居:子供のころからお世話させてもらっている祠もあるんだ、ここを取り潰すなんて考えられない。掃除よし、水よし、干菓子よし……今日はお酒もお供えしておこうかな、何かあれだけで済んだし。さて、仕事にならなくなったけど、今日は掃除をするか。玄関を特に綺麗にしておかないとな。盛り塩もしておくか。
0:場面転換・異音とサイレンサー付きの銃声が一発、歩行音の後に二発
飛鷹:(M)今回の仕事も早く終わったねぇ。この静かな京都の裏道で確認中のファイルケースに挟まった合計十六ページに書かれた害虫名とその特徴、写真をゆっくり眺めて、閉じるのが俺のルーティーン。ああ、今回も完璧だ。処理班はもうすでに動いた後。石畳は艶やか。京の町は今日も綺麗だ。完璧……とはいいがたいか、銃を使っちまったしな。
飛鷹:さてさて、俺の仕事はここまでだな。一服……は喫煙所を探さんとなあ。喫煙者には生きにくくなった、とは思わないのが俺なんだがな。吸う場所が決まるのは結構、大体マナーが悪い奴が多すぎるからな。なんで吸い殻入れの横に捨ててあるのか理解できん。ゴミも害虫もクリーンにだ。
無:お疲れ様です、法師さんも褒めてましたよ、綺麗な仕事ぶりだって。
飛鷹:げ、あいつまだ法師って名乗ってんのか。というかいつから見てたんだよお前、見てたんなら人払いくらい手伝ったらどうだ。結構経費かかるんだぞ、あれ。
無:いえ、周りの人がそう呼んでいるだけで本人は特に気にしていないみたいです。それと他人のお仕事を奪うのは経済に悪いと思いまーす。できる人が全部やっちゃったら、それを仕事にしている人の仕事がなくなっちゃいますよ。それこそ法師さんが全力で飛鷹さんの仕事とっちゃったら飛鷹さん事務所のお掃除くらいしかできなくなりますよ。
飛鷹:事務所の掃除は仕事じゃないのかよお前らは。
無:やだなあ、法師さんが掃除なんてするわけないじゃないですか。地下室にたまってる呪い札の山、見ます?
飛鷹:いらんいらん。そもそもあの呪い札は安いからって趣味で買ったようなもんだろうが。やろうと思えば自分でも作れるくせに。
無:知ってます?物を作るのって労働なんですよ。
飛鷹:知ってるわ。そんで法師がまともな労働しないことも思う存分、血肉に染み渡るくらい知ってるわ。
無:あ、それ言っておきますね。
飛鷹:ごめんやめて。
無:まあ法師さんが仕事しないのは労働と対価が見合ってないからっていつも言ってますけどね。
飛鷹:そりゃそうだ、やることなすこと規模がでかすぎるんだよあいつは。だから俺らみたいな仕事が成り立ってる。
無:やってることがあれですもんねー。
飛鷹:法師なんてもんじゃないだろあれは。物怪って言われた方がしっくりくる。
無:もう、そんなこと言っちゃだめですよ。
0:人がぶつかる。
鳥居:あっ、すみません……。
飛鷹:いえ、こちらこそ。
無:ほら、そんな仕事以外はぼーっとしてるから人にぶつかったりするんですよ。
飛鷹:ちょいと、お前さん、大丈夫かい?顔色が悪いなんてもんじゃないぞ。
鳥居:いえ、おかまいな……く。
0:倒れる。
無:あー、また行き倒れ拾ったー。
飛鷹:普通人間が行き倒れるなんて思わんだろ!……ん?なんでこんな路地裏で?
無:本当ですねぇ。
0:事務所
法師:ここは病院やありまへんえ。気分の悪い人を連れてくる場所ならいっつも怪我してはるあんさんの方がよう知ったはるやろ。
飛鷹:というかわかってて言ってるでしょ。こいつどう見てもまともな気配をしてない。なんかやばいもんがついてるんでしょ。
法師:野良猫に餌やるタイプやからなぁ。しゃあないね。ついとるよ。とっておき、とは言わんけどあんまりようあらへんな。二、三日、いうところやろか。
無:へー、けっこう長持ちするんですね、この状態で。
飛鷹:お前ら人の心無いのかよ。
法師:あるから問答無用で放り出してへんのやろ。そんくらいわかっとき。結構ええ行いしたはるみたいやし、小さいけど沢山ええもんが守ってくれとるんやな。
無:本当だー、狐とか色々いるね。
飛鷹:で、根本的な解決は?
法師:できんな。これは偶然についたもんやあらへん*呪《しゅ》やから元を断たんと何度でもくるわ。そうなったらどうにもならん。
飛鷹:やっぱ厄介ごとかー!ファイル一覧の害虫駆除で終わってスッキリした日だと思ったのに!
無:飛鷹さん拾ってくるの上手いからね。
飛鷹:うるさいわ。
鳥居:う……ん。
無:ほら起こしちゃった。
飛鷹:俺のせいなの?
鳥居:あの、ここは……あ、先ほどの……ということは、介抱していただいたようで、ありがとうございま……す。
飛鷹:いいよいいよ、顔色はまだ悪いから水でも飲んでな。
鳥居:はい……ひとごこちつきました。ここは、その、事務所、ですか?私がいうのもなんですし、変なことをいうようですが、今の私を受け入れるのはあまり良くないと……。
無:あれ?この人、状況理解してる?
法師:みたいやなぁ、少なくとも何をされとるかはわかってはるみたいや。
飛鷹:ってことは、その、なんだ、あー、言いにくいな、『呪われてる』って理解しているのか?
鳥居:……はい。でも、皆さんにご迷惑をおかけするようなことでもありませんので……。
法師:いくら払える?
飛鷹:は?
法師:いくら払えるんや、あんた。
鳥居:この、呪いをどうにかできる、ということですか……?
法師:そうや。
鳥居:……正直、わかりませんが、私の今の全財産と土地の権利書をどうにかすれば、億はいくと思います……!
法師:のった。
無:わー。はやーい。
飛鷹:全部ぶんどるのかよ、鬼か。
法師:生活再建できる分くらいは残してもええよ。それにあんた、鳥居って名字やろ。で、誰が鬼やて?
飛鷹:え、誰でしょうね?
無:飛鷹さんだよー。
0:騒ぎをよそに
鳥居:え、あの、鳥居ですけど、なんでわかったんです?
法師:社員証をちょいとな。
飛鷹:さらっと漁るな!
法師:まあまあ、しゃあないやん、身元不明のようわからんのがいきなり原因不明で死んだら疑われんのだれやの。
飛鷹:う、それは、まあ確かに。
無:頭回らないね、飛鷹さん。
飛鷹:くっそ、毎度だけど余計な一言がむかつく!
無:はげろーはげろー。
飛鷹:うがー!
法師:まあ、あっちはほっとき。真面目な話、こんな呪いを受ける原因なんかあったん?
鳥居:呪いを受ける原因というか、私、今、地上げにあってまして。
法師:ほーん、京都で地上げか。
鳥居:私の土地は四方に囲まれてまして、本来なら売れるような土地でもないのですが、近頃になって突然、ガラの良くない連中が出入りし始めて。私もその時売ってしまえば縁はなかったのかもしれませんが、先祖代々祠の面倒を見ていて、みたまうつしをするのも手順がありますし、理由も理由で……。
法師:信心深いんやねぇ、今時珍しい。
飛鷹:交渉はもうしたのか?
鳥居:いえ、交渉という交渉もなく、嫌がらせが始まりまして。あと、あまり言葉が通じない節があって、中国系が無理やりまとめて買いにきていると言った感じなんです。
法師:なんや言われのある土地やったりするんか?
鳥居:いや、私にはよくは……。あ、でも祖父には鳥居元忠の子孫だとかは言われていましたね。
法師:それは使えるなぁ。
鳥居:使える?
飛鷹:うわ、碌でもないこと思いついた顔だ。
無:顔だー、今回も僕の出番?
法師:そうなるかな、準備だけしとき。
無:わかったー。
法師:まあまずは嫌がらせからやね、嫌がらせには嫌がらせで対応していこか。
0:翌日
鳥居:あの、このなんですか、この赤い文字がびっしり書かれた赤い札……家が覆われてるんですけど。
無:呪符っていうんだよー。
中国のお札だよー。在庫いっぱいあったからこの際全部使っちゃおうって。
法師:まあ、信じひんもんには効果ないけど、こんなん一晩で一面に出て来たらだれでもいややろ。部屋の中にお札がバラバラに貼ってあるようなもんや。効果のほどは少々といったところやけどな。専門違うし。
鳥居:効果あるんですか……。
法師:一応触らんときや。ああなるから。
飛鷹:ぐうおぉぉぉぉ腹がぁぁぁぁ……。
法師:これだけでは不十分やな、親分のところに行って話し合いの席につかせんといかん、こっからは持久戦で、この家に住むで。
鳥居:え、本気ですか?
法師:札さえ触らんかったら大丈夫や。
0:数日後
鳥居:こんにち……(殴られる)ぐっ!
飛鷹:おうおう、挨拶だなぁ。いきなり殴るってのは法治国家では犯罪なんだぞ?今からでもブタ箱に直接連れて行ってやろう(法師に蹴られる)きゃいん!
法師:ちょっと黙っとれ。あんたが取引先の石田さんか、ちょうどええわ、こんなとこで話し合いするのも嫌やろ。京都らしく寺ででも涼みながらお話しするんはどうや?鳥居さん、別に構わんやんな。話し合いはどっちにしろせなあかんことやし、向こうの大元が出て来てくれるんやって。
鳥居:はい、その、そこまでお任せしてもよろしいんでしょうか。
法師:料金のうちや、まかせとき。じゃあ、場所は養源院、血みどろの決着をつけるには趣味がええところやろ。あ、『関係者全員連れて来いや』、やないと話にならんで。
飛鷹:お、おい、ちょっとまて、お前本気か?
無:飛鷹さんはだまっててねー。
0:養源院
法師:やあやあ皆さんお揃いで。夜ともなると迫力が増しますなぁ。中に入らない人は、飛鷹くんとおはなしでもしていておくれやす。
0:奥に進む
法師:こんな質素な寺を選んだのもちょっと理由がありましてな。この寺、伏見城攻防戦で千人、最後には自刃した*板敷《いたじき》を天井にしてますんやわ。だからあちこちに血痕や手形、一ヶ月も放置された体の形、そんなもんが残っとりましてな?徳川家臣の鳥居元忠が戦略上の囮としてわざとに石田三成に敗れた場所を解体して利用した寺なんですわ。
0:飛鷹、ゆっくりと入ってくる。
飛鷹:法師さんよ、外は始末したぞ。
0:無、どこからともなく現れる。
無:じゃあ、中のお掃除だね。
飛鷹:相変わらずどっから出てくんのかわからんなお前。
法師:石田さん方、ここでお話をしたかったのは説得しようとしたわけでも対案を出そうとしたわけでも、諦めたわけでもないんやわぁ。そんな大勢連れて来て脅しに来てるあんたさん方が納得するのは、ただただ条件を飲むだけ。でもそれならこんなところで『話し合い』なんかする必要あらへん。だからなぁ、あんたらに消えて欲しいな、と、そう思たんですわ。
鳥居:え、どういう、ことですか……?
飛鷹:鳥居さん、今から何も見ず聞かずでいたほうがいいぞ。触媒だからあんたはここにいなくちゃならん、逃げようとしても俺が逃さんからな。
無:もう手遅れだよ。
法師:幸い、お二人同士に因縁はなくとも見立てということはできましてね。石田であるあなたがいくら屈強な護衛を連れて来ていたとしても、鳥居さんがここにいる限り、石田であるあなた方が千人の血肉に残された遺志に引きずられず現世に留まることなどできへんのやわ。『気安く呪いなんか使った自分を呪え。』
0:翌日事務所
飛鷹:おはよう……辛気臭いな。
法師:ああ、辛気臭くもなるわ。あの土地を売らんでもようなった分、分割払いを提案して来てな。これ以上ないほど完璧な書類で。もちろんボーナス払いも含めて。
飛鷹:結局億単位で入るんだろ。いいじゃないか、嘘をつかれたわけでもなし、即金でと言ったわけでもなし。
法師:(飛び起きて)気づいてたんかおまえ?即金やなかったことに。
飛鷹:今時、大手からの依頼ならともかく、個人からの依頼で普通即金で払えなんてブラックジャックみたいなこと言わんだろ、あの程度の案件で。
無:やっぱり飛鷹黙ってたー。
飛鷹:ええ?俺が悪いの?

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