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台本/0:0:3/京都の魔 鬼

京都の裏の意味での掃除屋が入りびたる事務所は、また異なる掃除も携わっている場所。今は石材屋となっているが、鬼の伝説ゆかりの地、宴の松原(えんのまつばら)跡で、伝説を模した儀式跡にあらわれた鬼退治をすることになった。

飛鷹:しっかし妖怪退治の依頼ねえ。
法師:妖怪やあらへん。化け物や。妖怪いうんは明治以降やで。あとちょっと勉強が必要やな。
飛鷹:化け物の勉強とはまた嫌な話だな。
法師:簡単に覚えとったらええわ。お化けは出てくる場所が決まっとる。相手を選ばん。宵と暁に出ることが多い。
飛鷹:ほうほう。
法師:幽霊はむこうから現れて逃げても追いかけてくる。決まった相手を狙う。出るのは丑三つ時や。
飛鷹:なるほど。
法師:ま、目安やけどな。当てはまらん場合も多いけど迷ったら当てずっぽうよりましやから覚えとき。
飛鷹:で、今回の事件は『宴の松原』でいいんだな。
法師:そやね。
飛鷹:えらく軽く言ってくれるが、結構な危険度がありそうな内容だな……こんないつも通りで大丈夫なのか?
法師:鬼に喰われて手足以外残らんかっただけやろ。
飛鷹:それのどこが『だけ』なんですかねえ……初っ端から鬼の相手なんて気が重いな……。
法師:場所は上京区出水通千本西入ルの石材屋裏やね。
飛鷹:普通に街中でバラバラ死体の再現までするたぁ手が込んでるな。
法師:まあ実際に手足が落ちとったわけやのうて、今回見つかったのは形代やったんやけどね。それでも現状は放っておかれへん。あと注意せなあかんのは、ああいう化け物は見えるもんにしか見えんことやね。派手に暴れるならいっそのこと異界に囚われた方がええかもしれんけど、その分、鬼の領域になるから厄介にはなるやろな。
飛鷹:そのあたりは臨機応変に、というところかね。しかしここのところの京都の不安定さとこの術者が関係あるかは不明、と。
法師:わざわざ平安時代の『宴の松原』を再現してるところ見ると怪しいわな。何を起こしているかはバレやすいけど、原型に近い分、見立ても楽で効果も強力やしな。
飛鷹:と言ってるうちに到着したんだが……紙切れ……これか?
0:形代の欠片を拾った瞬間、欠片が生の腕に変わる
飛鷹:おいおいおい、紙切れが千切れた腕に変わったぞ……これはどっちが本当なんだ?
法師:残念ながら腕が本物やな。後で百十番、警察呼ばなあかんわ。
飛鷹:ということは、鬼はとっくに出てきてるってわけか。
法師:被害が広がる前に退治せんとな。というわけで人払いと結界に集中するわ。あとは頼むで。
飛鷹:気分は桃太郎ってな。札を巻いた銃ってのも見慣れんなぁっと!危ない!
0:二人は見えない鬼のひと薙ぎを避ける。
飛鷹:熊みたいにでかいのは分かったが、また賽の河原のときみたいに姿が見えないのかよ、ハードモードすぎないか?今回は運良く避けられたが……。
法師:こっちには文明の利器があるやろ、はよ銃で仕留めてしまい。
飛鷹:見えないものに当てるほど人間辞めてないんで、もうちょっと待ってくれますかねえっ!地面砕けてるよ、そりゃ手足以外なくなるわ!しっかし油断ないねぇ、左右にぶれながら走り寄ってヒットアンドアウェイとか!正直!知能は!舐めてたわ!(三発発砲)
法師:おお、プロらしく数発で始末できたやん。さっすが。
飛鷹:まだ動きが人間に近かったからな。
法師:で、残りはどうするん?
0:あたりが内裏の風景に変わる。
法師:風景が松林に変わった。もう異界に取り込まれたなあ。あそこに見えるのは内裏の武徳殿やな。丁寧に風景の再現までされとる。この松林で相次いでバラバラ死体が見つかったっちゅう話やけど。
飛鷹:おいおいおい、一匹でも厄介なのにあと何匹いるんだ?
法師:そんなおらんはずや。さっさと札を使ってしまい。
飛鷹:その方が良さそうだな。札を貼り付けてから撃つだけでいいんだっけか。……よし。
飛鷹:(M)徐々にぼんやり見えるようになった鬼たちを確認して、飛び退き、狙い撃つ。燃え上がる銃身の札。そして鬼に突き刺さる弾丸はその力を発揮し、命中の瞬間に爆発的に広がった炎が渦を巻いて鬼を捻るように吸い込む。それを数度繰り返し。退治にはそれほど時間がかからなかった。
飛鷹:元の路地に戻ってこれたな。全滅したか。鬼ってのは近代兵器に慣れていないのか?それなりに威力のある銃器なら対応できそうではあるが……。
法師:今みたいな餓鬼のなりそこないみたいなんやったらそんな考えることないやろけど、常に現世に出てきとるようなんは人間と変わらん対応してくるやろね。
飛鷹:あの身体能力で頭を使って動かれたら、いくらなんでも一人じゃどうにもならんのだが。
法師:そういうのは表立って事件起こすような間抜けやないから気にせんでええよ。今回みたいに使役したりおびき寄せたりできるもんでもないしな。
0:スーツの人影が現れる。
酒呑:そうそう美味い飯にありつけるわけでもあらへんしな。
法師:いうてるそばから来よったわ……。
飛鷹:おいちょっと洒落にならないんだが。これ現代にいていいやつじゃないぞ多分。
酒呑:よしとけ。様子がおかしかったから一応見に来ただけや。こんなままごとに付き合うてもなんの得にもならん。
法師:そやろな。平安京の再現なんかしても今更何の得にもならんはずなんやけど、鬼が関わっとったみたいやから意見が聞けてちょうど良かったわ。
酒呑:そこらの野良鬼がどんだけ暴れようが知ったこっちゃないわ。つまらんことで目をつけられても面倒や。度が過ぎるようやったらこっちで始末しとった。
法師:えろう腰が軽いんやね。
酒呑:懐古主義なんか目論見があるんか知らんけど、迷惑やからな。まあそっちで動いてるんやったらそれでええやろ。
0:スーツの人影、立ち去る
飛鷹:なんなのさっきのスーツの……いや、鬼なのはわかる。けどさっき始末したのとは全く違うぞ。全く銃を向けられる気もしない。
法師:大江山のやな。
飛鷹:酒呑童子かよ、京都どうなってんだ。何も起きてなくても魔境と化してるぞ。
法師:でも分かったやろ。それなりの分別もあるし、こんな単純な呼び出しに応えるようなもんでもあらへん。
飛鷹:十分に理解したよ。とりあえず事務所に帰るか。
0:事務所
飛鷹:ただいまっと。
法師:ちょい待ち、なんか嫌な予感がしよる。
0:待たずに開ける。
酒呑:おう、邪魔してるで。
飛鷹:何でいるんだよ……。
法師:さっきぶりやね。酒呑童子。で、あの後なんかあったん?気まぐれで来るにしても居心地ええ場所ちゃうやろ。
酒呑:ああ、そっちに丸投げできるなら情報共有をしといたほうがええ思うてな。
法師:丸投げされるやろうとは思うてたけど元締めが直接なんて行動早いなぁ。
酒呑:最近の言葉でふっかるとか言うんやろ。ええやん、最近は退屈やからな。楽しみ以外で自分で動くのも悪ないわ。
法師:どうせ今晩飲む酒探しのついでとかやろ、勝手に飲んどるそれ、結構高いんやからな。
酒呑:味はまあまあやな、茨木あたりが好きそうや。
法師:鬼の酒の好みなんか聞かされても困るわ。本題に入ってくれはる?
酒呑:そやなぁ。今回の件、犯人は京都の住人、それもど素人の『都崩し』やわ。
法師:はぁ?
酒呑:要するに自殺やね。
法師:まあ、そういうことになるか。
酒呑:歴史上であった異界絡みの事件を再現して、現在と過去の境を曖昧にする。起点を設けて歪みを順に起こすことで都市規模の崩壊と異界化を起こす。なんとまあ迂遠な自殺やろな。死なば諸共やろか。
法師:なるほどなぁ。それやったら人間にしかできひんな。飛鷹君、犯人は人間やで。最悪の事態やのうて良かったな。
飛鷹:話が見えないんだが、とりあえず相手があの化け物まみれとかじゃなくて良かったよ。
法師:いや、化け物の相手もせなあかんと思うけどな。
飛鷹:結局当初とやることは変わらないってわけね。そんなこったろうと思ってましたよ。
法師:一番厄介なところが手え引いてくれてるんがわかったんやから喜んでええんとちゃうかなあ。
飛鷹:要するに自殺とは?
法師:こんな規模の術が発動したら、その場にいたら死ぬし、その場にいなくても魂が術に引きずられて死ぬやろ。
酒呑:ということで、あとは任せた。あんまりこっちが首突っ込んでええことないしな。解決できても渋い顔しよる連中がおるし。
法師:今は切った張ったの時代とちゃうからな。
飛鷹:切った張ったじゃないのかぁー。
法師:あの程度で切った張ったなんて言ってたらこっちの鬼が遊びに来よるで。
飛鷹:謹んで、お断りいたします。
法師:しかし過去の有名な事件の再現となると、そこそこ絞れるなぁ。今回のも起点の一つやろ。しばらくは京都の魔窟廻りと洒落込まなあかんかもなぁ。
飛鷹:心霊スポット廻りよりタチが悪いな、おい。
法師:心霊スポット廻りも大概やと思うで。今回は人間が原因やわかってるけど、霊の場合は原因わからん上に最初に言った通りついてくるからなぁ。
飛鷹:どっちも大概だった……!
法師:悪いもんは比べるもんやあらへんで。五十歩百歩いうてな。
飛鷹:ところで事件を再現するなら相手の目星もつくんだろ。他にはどんなのがいるんだ。
法師:それがなぁ、平安京のは百鬼夜行言われれるくらいでなぁ。
飛鷹:百鬼夜行っていわゆる化け物の行列みたいなもんだろ?絵巻にもなってる。
法師:そういうこっちゃな。
飛鷹:そういうこっちゃって?
法師:沢山居過ぎてもうわからんことが多いんよ。百鬼夜行に遭遇した、結果はこうなった、というのが多くてなぁ。後から鬼のせいとか言われとるんや。
飛鷹:鬼の前でよくいうな。
酒呑:なんかあったら何でも鬼のせいにされて難儀やわぁ。
法師:まだ酒飲んどったんか。
酒呑:ええやん、飲みさし置いて帰られんのも嫌やろ。
法師:瓶ごと持っていってええからはよ帰れ。鬼が居着いてるとか縁起悪うてかなわんわ。
酒呑:お、そんならこいつももらってくで。
法師:がめついのは鬼やからかあんさんやからかどっちやろな。
酒呑:どっちもに決まっとるやん。ほな、また機会があったらよろしゅう。
法師:二度と機会がないことを祈っとりますわ。
0:酒呑童子、帰る
飛鷹:一つ、疑問なんだが。
法師:なんや?
飛鷹:酒呑童子と言ったら俺でも知ってるような大物だ。それが動くほど大事なのか?
法師:大事になるかもしれんからどうにかしようってところやな。まったく、どこのどいつがこんな方法を見つけてやっとるんやろ。

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