マガジンのカバー画像

創作物と応募ネタ

23
基本「」がタイトルに付いているのは創作物。小説とか自由詩とか。付いていない応募ネタも。
運営しているクリエイター

#一次創作

「金木犀に秋を感じる程の情緒で生きていきたい」

 待ち合わせる店までは電車だと却って遠回りなようで、見慣れぬ道をGoogle MAPで確かめながら歩いていく。すれ違いざま、犬は英語で躾けられ、ベビーカーの少年は坊っちゃんカットで笑っている。数年経てば整えられた襟のシャツと膝小僧の出るパンツを履いて近くの私立学校に通うのであろう。一様に塀が高く年季を感じる家々を横目に、高級住宅街と名高いのも頷けるなとひとりごちてみる。金木犀の匂いと銀杏の臭いが混ざり合う道。台風一過の夏日でも秋は逃げたりしないのだ。  知らない街では目に映

「滴」

 お風呂、一緒に入りましょうか。  1ヶ月ぶりに会う彼女の方からそんなことを言うものだから、「うん、いいんじゃない」なんて無表情を保ってみせたが、全然隠れてませんよ、と余裕綽々で言われた。 「知ってると思いますが……私はすこし、のぼせやすいので」  変なことしたら、わかってますよね?  なぜか後半は心の声。"無言の圧"に怯えながら、先に身体を洗い湯船に身体を沈める。その水音を合図に彼女が風呂場へ入ってきて、身体と髪を洗い始めた。 (……風呂場の鏡って、ほんとすぐ曇る

「戻り梅雨」

 夏風邪をひいたのは、梅雨明けしたくせに湿っぽい日々の続く或る日のこと。鼻水が出始め、徐々に喉が痛くなり、37.5℃くらいの熱が出る。折角の土日が潰れてしまいそうな苛立ちを解熱剤と一緒に飲み込んで、水分と睡眠を摂れば1日で治る「いつもの」パターンだろうと気を鎮める。  長らく遠距離を続けた彼とようやく籍を入れる気になったのは、寂しさを連れて帰ってくることに疲れたからだ。居心地の良い実家を出そびれたまま三十路を迎えようとしているが、気のおけない地元の友人たちがこぞって同級生や