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創作物と応募ネタ

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基本「」がタイトルに付いているのは創作物。小説とか自由詩とか。付いていない応募ネタも。
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#短編

「みらい」

 三ヶ月ぶりの婦人科で、青ざめたのが自分でも分かった。 「は〜い、今日はエコーと、癌検診ですね〜」  エコーだけかと油断していた。否、それだけでも昨夜から緊張して身を固くしていたのだ。それが、もっと痛い、癌検診も今日だって? 「荷物を置いて、お隣の検査室にどうぞ」  にこやかに告げる美人女医に逆らえるはずもなく、涙目で立ち上がった。エコーの冷たい器具も不快だが、癌検診は、擦り取られるから痛いのだ。しかも今日は寝坊して朝食を摂っていなかった。自業自得なのだがコンディショ

「指先ひとつで愛も死も」

 得体の知れない感染症に世界中が毒され、気の滅入る日々。「現場は無いけど、ご飯でも食べようよ」と千秋から美与子へ誘いがあった。半年ぶりの待ち合わせ場所は、二人が好んでよく食べているタイ料理のお店。 「ほら、ご飯きたよー。好きでしょ、カオマンガイ」 「……んー」 「またツイッター見てるの?」  呆れ顔で尋ねる美与子へ生返事をしながらも、画面から目を離さない千秋。 「推しからいいねが来ない……」 「そりゃあんたと違って四六時中見てる訳じゃないんだから」 「まあそうなんだけど

「夜はこれから」

憧れのバンドマンは円山町で女子大生の私を抱いた。「東京って怖い!」と当時は面白がってしまったものだ。定期的に会う訳でもないのに縁は途切れず、今夜も数年ぶりにまた杯を交わしている。好きでもないのに「オトモダチ」だったのはこの人くらいだなとぼんやり思う。行き過ぎたコミュニケーションの手段として、たまに一緒に寝ていただけ。それもすっかり過去の話だ。 「おじさん、繋がってるって何だろうね?」 「おじさんって何だよ、3歳違いだろ」 「あんたはおじさん、あたしはおばさん、現実見てよ」

「午前4時、開かない踏切」

カーテンの隙間から零れる灯りに、死んでしまいたくなる午前4時。明るくなってんじゃねえよ、と理不尽に毒づきながら布団に身を沈める。 「……3件」 先ほどまで確かに『明日』だった今日の、来客予定を思い返す。3件も飛ばすのは面倒だな。観念し、消灯。目を瞑る。 死ぬのは簡単だと思った。 日本で暮らす限りは諸々のしがらみによりハードルが高いと感じているが、単身ふらり所謂「秘境」にでも訪れれば、言葉もろくに通じないまま佇んでいるだけで受動的にも能動的にも死ねると何故だか突然確信し

「無花果の花」

母の日におけるカーネーションのように、父の日を象徴するものはあるのだろうか。 「姉ちゃん、」 「なーに」 「今日、学校で課題が出たんだけど。ゆたかさとは何か考える、っていう」 「ゆたかさ?」 嫌な顔をする美里に、しまった、と焦る宏人。 「好きじゃないのよ、その言葉。私たちがゆたかさと縁遠く育ったの、父親運が無かったせいなんだから」 「あいつの名前が『ゆたか』だったからだろ……。離婚してもう十年以上会ってないのか」 「あんた、そのおかげで来年から奨学金を借りなきゃ大学に行

うれしい〜! 読んでくださった皆様有難うございました🙏💫 精進します https://note.com/keepstayingmh/n/ncc6369c0d41f

「ふくみみ」

久々に顔を合わせた友人の耳には、重たそうなピアスが煌めいていた。 「実優ちゃんのピアス可愛いね」 「ほんと? 有難う! 智也に買ってもらったんだよ」 アイスコーヒーにミルクを滴らし、ストローをくるくる回せば氷がからころと響く。長い睫毛の彼女は結婚間近の幸せ真っ只中。 「そんな重たそうなピアスでさぁ、よく耳がちぎれないよね……」 「ちぎれた人なんか聞いたことないでしょ」 大きな笑い声を立てた彼女は、悪戯っぽい顔で私に囁く。 「舐めてくるの」 「えっ?」 「智也、私の耳

「鳴いて泣いて凪いで、」 #青い傘 企画小説

"あっ、いま大丈夫? 明日からの旅行なんだけど、熱が38℃から下がんなくて。自分の分のキャンセル料は払うから、ごめんねー!" やけにテンションが高い友人からの電話を受けたのは、金曜日の夕方だった。 「えっ?……いや、部屋とか二人で取ってたじゃん、どうすれば良いの?」 会社なのに大きな声が出てしまい、私は慌てて立ち上がると、こそこそと隠れる様に廊下へ出る。 "んー、ホテルにメールしとくよ。それで一人部屋代金とか取られたら、私に請求してよ。全然払うし!" 「いや、全然払うし、