道路に長ねぎ落ちてた

夜20時、すっかり明かりの無くなった町でそれは燦然と輝いていた。

買い物に向かう途中、飛ばしていた自転車からでもはっきりとその姿は捉えられた。瞬時に長ねぎだと理解した。黒いアスファルトの舗装された道路の上で、その白い部分がくっきりと浮かび上がっていた。

いったいいつからここにいるのだろうか。どのくらい持ち主を待ち続けているのだろうか。もっと人に踏まれないような端の方に移動させてやろうか。そんな考えが去来しつつも目的の店の閉店時間が迫っていたので私はその場をあとにした。

一時間くらい買い物をした帰り道、そいつはまだそこにいた。
ご主人はいまどこで何をしているのだろう。ほんとは今日の晩ご飯のために買ってきたのではないのか。だとしたらもう既に長ねぎの不在に気づく頃合いだろう。気づいたとしてもまさか道端に落ちているとは思いもよらないか。

そもそも一体どういう状況であの長ねぎは落ちたのだろうか。自転車のかごから?行きの私みたいに自転車を飛ばしていてぽろっと落ちてしまった?うしろのかごに入れてたら落ちてしまっても気づかないかもしれない。
いやでも本人は気づかなくても周りの人が気づくだろう。いや、誰かが気づいても声をかけるのが間に合わないくらい飛ばしていたのかも。

待てよ、誰も「落ちた」とは言っていない。もしかしたら誰かが意図して「置いた」のかもしれない。だとしたらなんのために?どうしてわざわざ人の通行の邪魔になる場所に?長ねぎを不特定多数の人に見てもらうメリットとは……?

事件が迷宮入りしそうになったころ、テレビから隣国のニュースが流れてきた。政権批判のために国民たちが長ねぎを掲げていると。

……いや、まさか、な。


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