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司法試験令和6年刑法

司法試験の受験、お疲れ様でした。

刑法の問題のみ解いてみました。

【ポイントになりそうなところ】
設問1
・設問1の負傷は、脅迫行為から生じていないので、強盗傷人とすることは難しい?
・事後的奪取意思後の脅迫の程度?
・本件財布の強盗につき承継的共同正犯は不成立?
→占有取得時点(強盗の既遂時点)は、甲のポケットに甲が本件財布を入れた時点であると思われるので、それ以後に本件財布を受け取っているのは、行為後の事情にあたる?
・甲に暗証番号の取得について2項強盗罪の共同正犯は不成立?
→因果性がなさそう?→共謀の射程は否定?
・暗証番号は財産上不法の利益になる?
・暗証番号を良い間違えたが、不能犯であり財産上不法の利益を得たとはいえない?
・本件カードの財物性?
・ATMで誤った暗証番号を入力する行為は不能犯?
・暗証番号の入力時点で「窃取」の実行行為性は?
→クロロホルム判例により肯定する方向?

設問2
・主観的違法性?客観的違法性?
①「急迫性」における積極的加害意思はどっち?
→「急迫性」自体は客観面の判断なので、実行行為者基準にするのが親和性高い?しかし積極的加害意思は本当に実行行為者基準にするべき?
→共犯基準にした場合の結論?
②「防衛するため」防衛の意思における積極的加害意思はどっち?
→防衛の意思は主観面の判断ではあるものの、通常、その文言からも行為者基準にするのが親和性高い?しかし積極的加害意思は本当に実行行為者基準にするべき?
→共犯基準にした場合の結論?

※制限従属性説を踏まえると、従属的立場にない共同正犯と従属的立場にある狭義の共犯(教唆と幇助)とでは、違法性の判断を誰基準にするのか結論が変わりうる、という考え方を取っても良いと思います。
この場合ですと、甲は違法性阻却なし、丁は正犯の丙にならい違法性阻却されるという結論になります。


※一部省略してありますが、概ね理解できる内容かなとは思います👮
【以下解答例】

設問1
1甲がAの頭部を殴った上、転倒したAの腹部を何度も蹴りつけた行為(以下「暴行行為」。)は、A(「人」)という人の身体に向けられた不法な有形力行使であり「暴行」(208条)にあたる。
そして、これに「よって」Aの「身体」に肋骨骨折という生理的機能障害を生じさせたから「傷害」したといえ、故意(38条1項本文)もあるから、傷害罪(204条)が成立する。
2次に、抵抗する気力の失われたA自ら上着ポケットから面前に差し出した本件財布を、甲が、自分のポケットに入れた行為に強盗罪(236条1項)が成立しないか。
甲は、上記暴行行為の時点では、Aから本件財布を奪う意思を有しておらず、Aが本件財布を差し出したことでにわかに財布を奪取する意思を持ったにすぎず、財物奪取に向けられた「暴行」や「脅迫」が存在しないため、強盗罪は成立しないとも思える。
もっとも、既に先行行為によって反抗抑圧状態にある者に対しては、その反抗抑圧状態を継続させるに足りる不法な有形力の行使または害悪の告知をすれば、たとえこれが軽微なものであっても「暴行」または「脅迫」にあたる。
本件では、甲は特殊詐欺グループを率いており組織内での力は最も強く、他方でAは同じグループの一員にすぎないから、立場的に甲よりも弱い。さらに、乙は甲から本件暴行という肋骨骨折するほどの激しい暴行を受けて地面に転がっている上、当時は午後8時で夜であり、公園には他に人が居なかったことから、他人の助けを求めることもできない状況にあった。
そのため、Aは、甲に対して畏怖し、抵抗を諦めるに至っている。
そして、このような状況や立場関係にあるAに対して、直前まで本件暴行を加えた甲が「この財布をもらっていくぞ」と財物奪取のために1メートルもの至近距離で見下ろす形で言い、実際にもAは反抗していないことからも、甲の発言は、反抗抑圧程状態を継続させるに足りる害悪の告知といえ、「脅迫」に当たる。
そして、現金六万円等在中の財布という「財物」をAの意思に反して甲自身のズボンのポケットに入れた以上「脅迫」によって「強取」したといえる。
なお、本件暴行行為から生じた傷害結果については、「脅迫」に「よって」生じたものではないたて、強盗傷人罪は成立しない。
不法領得の意思及び強盗の故意もある。
よって、強盗既遂罪が成立する。
3乙が本件カードを本件財布から抜き取って持ち去った行為の盗品等無償譲受罪(256条1項)または占有離脱物横領罪(254条)の成否
まず、盗品等無償譲受罪は甲からの交付時における盗品性にかかる故意が認められないため、成立しない。
次に、占有離脱物横領罪の検討をするが、本件キャッシュカードはAの物であり「他人の物」である。また、甲の手元を離れている上、Aにも返還されていないから「占有を離れ」た「物」である。
さらに、キャッシュカードは、単なる磁気情報が記録された物品であり財「物」とは言えないようにも思えるが、ATM等で預金口座内の現金を引き出しする経済的機能を有しているため、財「物」といえる。
そして、本件キャッシュカードを用いて事後的にATM機から預金を引き出ししようと考えて持ち去っていることから、不法領得の意思の発現れがあり「横領」したといえる。故意もある。
したがって、占有離脱物横領罪が成立する。
4乙が、倒れているAの面前に本件カードを示しつつバタフライナイフの切っ先をAの眼前に向けながらAから暗証番号を聞き出した行為の強盗既遂罪(236条2項)の成否
まず、暗証番号については単なる情報にすぎず「財産上不法の利益」には当たらないとも思える。
しかし、「財産上不法の利益」とは、経済的に価値のあるものであれば情報も含まれると解する。
そして、キャッシュカードの暗証番号は、ATMでキャッシュカードとともに使用することで口座名義人本人による使用とみなされて預金口座内の現金の払い出しが可能となるものであり、経済的に価値のある情報である。
したがって暗証番号は、「財産上不法の利益」にあたる。
しかし、本件では暗証番号は間違ったものを教えられていることから、そもそも「財産上不法の利益」を得る現実的危険が存在せず、実行行為性を欠き、不能犯とならないか。
不能犯は、未遂犯(43条)との区別をするものであるから、行為時に存在した全事情を基礎に客観的危険があったか否かにより判断するのが原則である。
しかし、全て客観的に判断してしまうと不能犯となる範囲が不当に拡がってしまうため、事後的科学的にみて〜。そこで、修正された客観的危険説〜。
本件では、Aは暗がりのために本件カードと別のキャッシュカードを見誤り、別のキャッシュカードの暗証番号を答えてしまった。
そうだとすれば、Aが正しく本件カードの暗証番号を答える現実的危険性はあった。
したがって、不能犯とはならず、「財産上不法の利益」を得る現実的危険があるものとして、実行行為性が認められる。
次に、上記行為が「脅迫」や「暴行」という「前項の方法により」「財産上不法の利益」を得たといえるか。
「脅迫」は相手方の反抗抑圧程度の害悪の告知をいい、「前項の方法により」とは、「脅迫」または「暴行」が財産上不法の利益取得に向けられ、これにより、「財産上不法の利益」を得ることをいう。
本件では、他に人の居ない夜の公園内で、既に肋骨骨折して弱って転がっているAの眼前という人体の枢要部に向けて、バタフライナイフという殺傷能力の極めて高い凶器を近づけて「死にたくなければこのカードの暗証番号を言え。」と迫り、本件カードを聞き出した。
これは、Aが乙の要求に応じなければAに生命身体への危険を予期させるものであり、Aの反抗抑圧程度の害悪の告知といえる。
したがって、「脅迫」という「前項の方法」にあたる。
そして、これにより、暗証番号という「財産上の利益」を得た。
なお、暗証番号はAが答えているため処分行為があり、2項強盗は未遂になるようにも思われるが、1項強盗の均衡から、処分行為があろうがなかろうが、反抗抑圧程度の害悪の告知たる「脅迫」を受けている以上は任意の処分とはいえず、未遂とはならない。
したがって、暗証番号の取得に関する強盗既遂罪が成立する。

ATMの管理者に対する窃盗未遂○
実行行為性のうち暗証番号の入力が実行行為性は認められるか?
→不能犯の点は2項強盗で検討したとおり○
→暗証番号の入力は、クロロホルム判例の規範を踏まえて肯定。
 

設問2

丙 不可罰
 客観的構成要件○
 正当防衛○
 ・急迫性○
 ・不正の侵害○
 ・自己の権利に対する侵害○
 ・防衛するため○
 ・やむを得ずにした行為○

甲 暴行罪
事実6により現場共謀○→共同正犯○
違法性阻却(正当防衛)☓
→客観的構成要件該当性、違法性は実行行為者を基準に判断されわ共犯はこれらに従属するのが原則である。
しかし、違法性の実質は結果無価値のみならず社会倫理規範違反という行為無価値も含む。
そうすると、個々人ごとに判断されるべき主観的違法性については社会的相当性の有無という行為無価値の判断と密接に関わる。
そこで、主観的違法性は実行行為者に従属せず、共犯者を基準に判断される。
ここで、あらかじめ急迫不正の侵害を予期してその機会に乗じて反撃する意思は積極的加害意思として客観面の「急迫性」を欠くとされる。
たしかに「急迫性」そのものは客観的違法性であるものの、積極的加害意思がある場合の「急迫性」の否定は主観面をも踏まえたものであり、行為無価値の判断と密接に関わる。
そのため、積極的加害意思については、主観的違法性として、共犯者を基準に判断される。
本件では、〜。
したがって、甲には、正当防衛は成立しないため、第一、第二殴打行為にかかる暴行罪が成立する。

丁 暴行
客観面の幇助行為○
違法性阻却(正当防衛)☓
「防衛するため」という防衛の意思については、その文言からしても、専ら実行行為者の主観面の判断であると思える。
しかし、積極的加害意思は、行為無価値の判断と密接に関わる。
そのため、積極的加害意思は、主観的違法性として、共犯者を基準に判断される。
丁は、丙の第二殴打行為が、Cによる暴行を契機としてなされたことを認識しておらず、丙がもっぱらCに対して加害する意図でなしているものと誤解して声援による幇助を行った。
そのため、積極的加害意思のもとに声援を送った丙は、防衛の意思が欠ける。
したがって、本件では、正当防衛が成立しない。
よって、第二殴打行為にかかる暴行罪が成立する。

以上

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