失敗の教訓(大富豪から垣間見た支配者の実態)
9月に入りまだ暑い日が続きますが、夏になると思い出す事が
あります。
ちょうど5年ほど前の夏だったか、私は当時ある会社のトレーニング
機器を受託して主に中東方面への売り込みしておりました。
その機械は水を使うもので、結構大きなものであり水のタンクも
合わせるとかなり重量も量も大きなものでした。
当時その様な機器は世界に類似品がそれほどなく、デザインが結構
斬新だったので、中東の王族やお金持ち連中の目に留まり、あっと
言う間に一台1,500万円くらいもする機器が、20台くらい販売できた
のです。
私は一台売っていくら貰うと言うコミッション契約で仕事をしてい
たので、勿論売れれば売れる程実入りが良くなるわけです。
順調に契約が完了して販売が進んだまではよかったのだけど、さあそこ
からが色々と大変。先ず販売契約をした中東の大富豪が、兎に角
早く一台を入手したいとプレッシャーをお掛けになる。
機器は受注後、日本国内で製造に入るため、いくら早くよこせと
言っても限界がある。
そのお金持ちはGCC諸国と言われる、UAE、オマーン、バーレーン
サウジアラビア、クエート、カタール諸国の中でもトップクラス
で、知らない人がいないと言われるくらいの大富豪。
粗相をするわけにはいかないので、メーカーにお願いをして超特急で
先ず一台を製造してもらいました。
そして、なんとか一台の製造完了に漕ぎ着けたのだけれど、今度は
その機器を夏の間、その大富豪オーナーがバカンスをクルーズ船
で地中海を周遊しているところまで運べとのご要望。
地中海と言っても広しで、船はあっちこっちへ周遊しているので、
ピンポイントでご指定場所に着けるのは至難の技。
マルタだスペインのバルセロナだ、いやフランスのニースだと、あれこれ
担当者と打ち合わせをしているうちに、最終的にちょうど日本の
お盆時期に、モナコへ着けろと言う事になったのです。
それから、航空便にて確かフランス経由でモナコへ着ける手配をして、
コロナ以前の平和な時代であるから、休暇で多くの人が海外旅行に
出かけるお盆時期に、なんとか航空券を合わせて手配をして、技術者
2名を伴いモナコへ旅立ちました。
フランスのニースを先ず経由して陸路モナコへ。
普通はカーレースF1の大フアンでもない限り、わざわざモナコと
いう国に出かける事もなかったでしょう。
そしてモナコ公国へ入国。
噂には聞いていたけど、タックスヘイブンと言われ、お金持ちが
税金をなるだけ収める事を回避できる国。
国全体は歩いて回れるくらいの小さな国でしたが、街の雰囲氣は
いかにもお金持ちや、観光客が優雅にバカンスを過ごす、落ち着いた
佇まいの街です。
そしていざ港に停泊しているクルーズ船へ向かい、そしてその
クルーズ船に乗せるべく機器も到着している事を確認。
そして事前連絡を取り合っていた船長と初対面。
船長は確か東欧のスロベニアの方。
船はその中東大富豪が夏の間地中海でバカンスを過ごすために
存在して、船長以下、フィリピン、ネパールやあらゆる国から
その船を動かし、大富豪が日々お楽しみになるために様々な
仕事をするために集結したスタッフの方々が存在する。
記憶は定かでないけど、確か20〜30名くらいはいただろうか、
そのスタッフの方々は船内で寝食を共にして、夏の間を過ごし、
そしてバカンスの時期が終われば、また各自国へ帰っていくの
であったかと記憶しています。
そして船長や技術系のスタッフの方々と、いざ機器の取り付け
をやるべく、打ち合わせを船内にて開始。
打ち合わせを続けていくうちに、うーんちょっと待てよという
事に氣ずいてきた。
船は確かに大きく、何十人もの人が寝泊まりできる豪華クルーズ船。
当然、なんの疑いもなく機器が取り付けできる場所があるということを
前提として販売を行なったわけです。
しかし蓋を開けると、どうもその大きな機器を設置して、
大富豪オーナーが安全にトレーニングする為に確保できる場所が
見つからない。
これはまずいと皆の顔が曇り出してきました。
だけど思えば、少なくとも機器がどのくらいのサイズのものであるか、
事前に全て情報はこの会社の担当者を通じて送っている。
よくそのサイズ等を精査すれば、設置が可能なものかどうかは
わかりそうなものなのです。
だけど既に後の祭り。
大富豪オーナーは首を長くして我々の機器の入荷をお待ちになって
いたわけです。
そしてなんとか設置できるいい方法がないかと模索したが、
遂に見つからない。
さてどうするか?
いよいよこの顛末を船内でお待ちになっている大富豪のオーナーに
お伝えしなければならない。
デッキでメインのスタッフと私達が待っているところへオーナーが
現れました。
当然船長か機材責任者からオーナーに説明すると思いきや、なんと
全員さ〜と後ろの方に引き下がり、あたかも私に説明しろと。
それはないだろう? あんたらはいつもオーナーと接しているし、
英語力も私より上。
それなのに、日本から遠路はるばるやって来て疲れている私に責任
を押し付けると言うのか?
もうこうなったら腹を括るしかない。
大富豪オーナーの方へ挨拶をして、あの〜すみません、色々と検証した
のですが、安全に配慮して設置する場所を検証した結果、
どうしても見つからないのです。
どうしましょうか?
私は恐る恐るオーナーへそうお話ししました。
大富豪オーナーとは言え、敬虔なイスラム教徒の国の方。
もしや粗相があれば、鞭打ちの刑に遭うのではないか!
だから皆んなさっさと逃げて、私にうまく責任を擦りつけた
のだろうか?
様々な憶測が頭によぎる。
そして一通り大富豪オーナーに説明を終えた後、オーナーは
こうおっしゃいました。
どうしても設置できないのであればしょうがない。
大体、何故事前にクルーズを訪問して打ち合わせをして、設置する場所の
打ち合わせをしなかったのだ。
そうしておけばこんな事にはならなかったのだ。
設置できないのであればしょうがない。UAEの方へ送っておきなさい。
国へ戻ってから使う事にする。
やれやれ、どうやら鞭打ちの刑には合わずに済んだ様です。
それにしても、確かに我々もそこまで確認することを怠ったことは多い
に反省すべき事。
しかし、その前に買い手として事前に情報をシェアしているサイズや
スペックを会社側で前もって検証しておいてくれればこんな事にはなら
なかったのです。
ここでわかった事は、早い話大富豪オーナーが命じられた事は絶対的
な事。 設置できるとかできないとかは関係のない話。
先ずは最前を尽くして、オーナーが喜ばれる様に最短で入手する事が
部下達にとっては最優先事項であるわけです。
その後の事は後の事。
設置できない責任は日本人へ押し付けようと事前に打ち合わせをしたか、
しなかったか?までは定かではないけど、事前にクルーズに設置するのは
厳しいですよと誰も言わない。
裸の王様にその洋服は素敵です。とは言っても洋服を着てください。
お恥ずかしいですよ。とは誰一人言わなかったという事なのでしょう。
パンデミック以降、おそらく優雅なクルーズ旅行もできてなかった
でしょうけど、この様な時代になって何故かこの時の事をよく思い
出します。
大富豪オーナーに対するほどの事はなくとも、この2年半日本で起こった
出来事も似たり寄ったり。
つまり上司やお上から上位下達で伝わった事に疑問を持たない、また
疑問があってもそれは間違いではないですか?と言うものがいない。
もう少しそうではなく、王様裸は醜いです。洋服を着てください。
と言える人が多かったら、こんな酷い世の中にはなってなかった
のではないでしょうか?
それにしても、今でも記憶にあるのは何不自由ないが、腰痛を治すため
何がなんでも機器が欲しいと言われた、大富豪オーナーの顔が
どことなく寂しそうだったかなあ。
まあ何はともあれ、事なきを得て鞭打ちの刑にされる事もなく、
数日間はモナコで羽を伸ばして帰国の途に着いたのでした。
だけど、この時の教訓を生かす時間もない間に、この半年後
さらに醜い事態に巻き込まれるのでした。
それは第二弾でお伝え致します。
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