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#6恋の病と神経衰弱

― 朝 学校にて ―

「出席取るぞ~」
担任の先生が出席簿をとる。

「珍しいな、緒方が休みか……。
風邪でも引いたか……? 後で電話でもしとくか」

志保が今日学校を休んだ。
彼女は学校をサボるようなタイプじゃない。
俺は少し心配になった。

しかし高校生活は多忙極まる。
ホームルームが終われば嫌いな数学が始まる。
そっちの嫌悪感のほうが強かった。

― 昼休み ―

俺は友達と一緒に学食に行く。
飯を食ってると、クラスメートに声をかけられた。

「日向先生が呼ばってるって、クラスの女子が言ってたぞ」
「はぁ……、お前、日向先生と仲良すぎ……」

「また保険の先生の特別授業かよ……。
日頃から、仮病使ってるって有名だぞ。お前……」

「なに、お前には緒方がいるだろうに……。
日向先生まで狙ってるのかよ」

「お前は狙撃範囲広いな~。
モテる男はやることが違う……」

クラスの男どもは首をすくめる。

「そんなんじゃね~よ。
呼ばれてんだろ? じゃあ、俺はもう行くから……」

俺は急いでカレーを流し込むと保健室へ向かった。

――――――――――

保健室では日向先生がため息を漏らしていた。

「あの、何か用ですか……先生」
「あぁ、春平くん、探してたわ。
志保ちゃんのことなんだけど……」

「え~と、今日は欠席してますけど……」

「ええ、ちょっと病気をこじらせちゃったみたいで、
……さっき電話があったわ」

「え、こじらせたって、大丈夫なんですか?」

「う~ん……、
私が上手くアドバイスできなかったのが原因だけど……
まあ、恋の病というか、愛の病というか……」

「???」

「春平くん。最近、志保ちゃんと
うまくコミュニケーション取れてる?」

「最近忙しくて、
あまり取れてないですが……何か?」

「ごめんなさいね。まぁ……、
女のエゴみたいなものなんだけど……」

「???」

「ちょっとかまってあげてくれる?
ちょっと最近悩んでるみたい」

「はぁ……えっと今日、
帰りにお見舞いに行ってみます」

日向先生の言い方は要領を得ないし、
分かりづらかった。

「用件は、それだけですか?」

「ええ、それだけよ。
志保ちゃんのことお願いね」

俺は恋の病と聞いて、
なにかの重い病気じゃないことに安心した。

― 放課後 ―

志保のことのお見舞いに行かなきゃいけない。

(日向先生なにが言いたかったんだろう……。
……女のエゴ?)

俺は部活を休み足早に志保の家に向かった。

ピンポ~ン。

チャイムを鳴らす。
返事がなかったので。扉に手をかける。
鍵はかかっていなかった。

「松田です。おじゃましま~す。
志保~。大丈夫か~」

志保が2階からゆらりゆらりと降りてきた。

なんかすごくやつれて見える。
薄いピンクのパジャマ姿が哀愁を誘った。

(夕方までパジャマを着たままなんて……
まるで、病人みたいじゃないか!)

「春平? ヤダ……どうしたの」

「どうしたじゃないだろう。
今日学校休んだだろ。お見舞いだよ」

「嬉しい……。で、でもどうして?」

「心配だったから……」
ちょっと照れくさくて、口をモゴモゴさせる。

「お前のこと ”好き” ……だから、
ちょっと心配になっただけだよ……」

「嬉しい……」

志保は泣きだしてしまった。
目が少し赤くなる。

「今日、どうしたんだよ。日向先生も心配してたぞ。
まあ……その……、 ”恋の病” にかかったんだって?」

「ヤダ……先生がそんなことを……」

彼女は曖昧に笑う。
でも涙は止まらなかった。

「ま、まぁ少し疲れちゃって……」

「疲れただけで、そんなにやつれないぞ。
飯ちゃんと食ってるか?」

「まだ食べてない……。
今日は……お腹空かないから……」

「空かないって……、
もう夕方だぞ。お前、本当にどうしたんだ」

「もう一回、お前のこと “好き” って言って……」

俺はオウム返しに言葉を返す。
「お前のことが “好き” ……」

「あ、ありがとう。もう大丈夫だから……。
心配かけたね……。もう帰っていいよ……」

「か、帰っていい……?」

こんなにもやつれた志保を見て、
俺はここでのこのこ帰るわけにはいかない。

「……っていうかお粥ぐらいは食べたほうがいい。
上がってくぞ! いいな?」

強引に彼女の家に上がる。
今日の志保を見ていたら余計に心配になった。

「米と、おかか梅……くらいはあるだろう?
俺が作るから! 黙って食っとけ」

普段から炊事はしないけど、
それくらい俺でも作れる……!

「台所、借りるぞ!
え~と、米を研いで……っと。
鍋はこれでいいか……」

志保はなにも言わずに泣いていた……。

――――――――――

そしてお粥ができた。
俺の特製、白粥!
そしておかか梅を冷蔵庫から取り出す。

「よし出来上がり。
まあ、なんだ……食っていけよ」

志保はうんって言ったっきりで、
彼女は黙って口をつけた。

目は真っ赤だった。

「美味しい……。すごい美味しい……」
「な、腹減ってたんだろ? 一体どうしたんだ」

「ちょっと以前のエッチが忘れられなくて……
最近の春平、忙しそうだったし……」

今度は志保が口をモゴモゴさせる。
すごく言いにくそうだった……。

「恋の病か……、どうせ俺がかまってくれないんで、
 “嫌われた~” とか思ってたんだろ。馬鹿だな。
そんなわけもないし、悩むことでもない」

志保は顔を赤くして俯いた。
これが無言の肯定というやつだろうか。

「あ~もういいよ。帰る。あ~損した。
こんな馬鹿なヤツに飯なんか作ってやるなんて……。
皿ぐらい自分で洗えるだろ」

俺は玄関に向かう。ドカドカと向かう。

「お邪魔しました~。明日は学校来いよ!」

玄関の戸を締める。
そして俺は帰路についた。

(もう少しくらい長居すべきだったかな?)
あとになってから、ちょっと後悔した。

しかしながら改めて思った。
『志保ってかわいいヤツだな……』と。

― 後日 春平 ―

志保は何事もなかったかのように
元気を取り戻した。

その上、いきなり「トランプしようか~」
なんて言い始めたし……。

「???」

俺は警戒心を強める。が……ときすでに遅し。
俺は神経衰弱でコテンパンに負けることとなった。

「どうせ俺は馬鹿だ。何度でも負かせ」
そう強がりを言ってカードをめくってまた負ける。

くそぅ。元気にしなきゃよかった……。
と、強く後悔した。

「はぁ~」

どちらが神経衰弱してるんだか……。
俺は悪態をついた。

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