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#2初めての猟と料理

気がつくと僕はまた原始時代にいた。

「おい、お前!」
「今から猟に行くぞ。
そろそろ獲物が罠にかかった頃だ……」

「あ……は、はい」
「武器貸してやるから、手伝え」

僕は髭の男に従う。
しばらく歩いたところの草原に
罠が仕掛けてあるという。

しかしいつまで経っても草原に着かない……。

「はぁ、はぁ……結構歩くんだな……」
「文句を言うな! 生活が懸かってんだ」

僕の足は棒になった……。

ようやく草原に着くと罠が仕掛けてあった。
木と縄だけで作った罠だった。

餌を食べに来た
イノシシウサギを取るための罠だ。

餌に近づくと扉が閉まり、
出られなくなる古典的な罠。
そこには大きな猪がいた。

ブヒブヒブヒ!
僕たちを見ると猪は暴れだした。

「おい、頭を叩け!
脳震盪のうしんとうを起こすんだよ。絶対に逃がすな!」

バコ! バコ! バコ!
でかい石で頭を叩きつける。

ブゥブゥブゥ!
さらに暴れだす猪。

初めての猟に僕は呆然として恐怖すら感じた。
そして結局……僕は何も出来なかった。

檻に入っているとは言え、
暴れた猪は本当に怖かった。
タックルされたら怪我では済まないだろう。

「お前、何年生きてきたんだ? もう成人してるだろ!」
髭の男にまた怒鳴られた。

…………。

……猪は、ようやく静かになった。
「よし革を取れ、血抜きをしろ!」
石包丁を渡される。

え???
僕はマジで言葉が出なかった。

石は研いであったが現代の包丁と違い
すこぶる切れ味が悪かった。
一生懸命切り込むが、全然切れない。

獣の血抜きはスピードが命だ。
男は僕の手際の悪さに痺れを切らしてしまった。

「もうお前、退いてろ! 俺がやる!」
「え……? は、はい……」

次は猪を二人で家まで運ばなければならない。
体重はおおよそ80kgぐらいあったと思う……。

二人でなら一人あたり40kgの計算だ。

「これをさっきの家まで運ぶんですか……?
無理を言わんでくださいよ……」

僕は気の遠くなるような声で答える。

「じゃあ、今日の飯は無しになるぞ! いいのか?
せっかくいい獲物が取れたんだ! ご馳走を無駄にする気か?」

僕たちは2人で80kgの猪を運ぶ。
先程の長い道のりを必死で戻る。

現代人の僕にとって
 “運ぶ” ということの難しさを無理やりに思い知らされる。

そして僕の筋肉はくたばってしまった……。
「はぁ、はぁ。昔の人はすごいな……」

家に戻ると男の奥さんらしき人が待っていた。
毛皮で胸と腰を隠しているだけだ。
毛皮のブラとミニスカートでのようだった。

(うわ! エロい……)

彼女は土器を作っていた。
縄で模様がついている。
やはりここは縄文時代なのだろう……。

「俺の家内は器用だから土器づくりが上手いんだ。
いい女だろ?」

髭の男は奥さんの自慢話をしながら紹介してくれた。

「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったです……。
僕は浮月茂って言います」

「勝也だ」
「美樹よ」

「しっかし……ウヅキシゲルって長い名前だな。
ウヅキって呼んでいいか?」

「はい、大丈夫です」
(ああ、この時代はまだ名字がないんだ……)

「ところでお前は、
もしかして料理の方はできる……なんてなァ?」

「はい。料理なら出来ます!」
僕は即答する。

「あら。料理のできる男なの? 素敵だわ~」
美樹さんがやけに褒めてくれた。

「けっ! 料理ができるからって、それがどうしたってんだ?」

勝也さんは不貞腐れていたように思う。
どうもこの時代、料理ができる男はかなり珍しいらしい。

僕は猟はできなないけど料理ぐらいはできるつもりだ。
母親に反抗して自炊していた甲斐があったな……。

さっきの猟は世話になりっぱなしだったので、
ここは僕が腕を振るうことにする。

ここは軍隊のような酷いところだ。
 “男は筋力が全てじゃない” ってところを見せてやる!
こうなったらからにはトコトンやってやるからな!

調理道具は土器。
調味料はなかった。

水を雨水の貯め池から取って来る。

「この肉は焼くか……。
ただ茹でただけじゃ不味いしな……」

土器でできた調理板で焼く。
ジュージュージュー。

「お前、マジで料理できるんだな……。
うちの美樹より上手いぞ。男のくせに珍しいやつだ……」

なんて言われた。

味のない猪の焼き肉はあまり美味くない。
でも力仕事の後の料理は絶品に感じられた。
食わなきゃ体力的にやってられない。

僕は後片付けの時に
火事にならないようにと……種火を消した。
消してしまった……。

ん???

「お前、何てことをしてくれたんだ!」
「は?」
「種火がどれだけ貴重なのか知らないのか!」
「あぁ、そうか……」

なにもない状況から火は生まれない。

「あの……火打ち石とかありますか?」
「ねぇよ。あれは高級品だ……」

木の棒の摩擦熱で起こすしか無いようだ。

「お前が消したんだ。お前がつけろよ!
それも夜までに……だ! でなきゃ俺たちはここで死ぬぞ?」

勝也さんは火おこし器を持ってきた。
ああ、ヤバい……。
死にそう。助けて……。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

物理学の知識を持っていても無駄だった。
僕の手は豆だらけになった。

!!!

僕は起床とともに激しい筋肉痛に見舞われる。

(え?今から学校!?)

「もう今日は休もう! 体力的に限界だ……」
でも……母親になんて説明しよう……。

僕は母親に言い訳じみたことを言ったが……。

……しかし結局母親は休ませてはくれなかった……。
やはり学校との二重生活は体力的に苦痛を極めていた。

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