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#001 ヴェロックスの新馬戦を振り返る

小倉の夏開催が幕を開けた。

この時期になると、あの馬の新馬戦を思い出す。

ヴェロックス。僕の一番好きな馬だ。

2年前の小倉記念の日、彼はデビューを果たした。

今回は彼の新馬戦を振り返ることにした。


馬も人もいないパドックは静まり返っていた。

次の組の周回まであと数十分はある。

適当に日陰を探して腰掛けた。

競馬新聞を広げ、数多に並ぶ小さな数字と睨めっこ。

「この馬すごい動いてるな」

注目の的はヴェロックス。調教時計に惹かれた。

この時点ではただそれだけだった。


競馬新聞と対峙してる間に人が集まりだした。

僕も最前列へ移動した。

いよいよ若駒たちがパドックに姿を現した。

みんなまだまだ線が細い。

周囲をキョロキョロと気にする仔もいれば、嘶いている仔もいる。

こうした様々な場面が、まさしく今新馬を見ていると実感させられる。

一方、この中から翌年のクラシックを盛り上げる馬がいるかもしれない、なんて事を考えるとワクワクする。

ヴェロックスが目の前にやってきた。

現在ではすっかりメンコは必需品のようだけれども、この頃は素顔のまま周回していた。

一族の特徴的な流星が実に美しかった。

その見事な流星はトウカイテイオーやキタサンブラックを彷彿とさせる。

「この子ももしかして」

そう期待を膨らませ、パドックをあとにした。


真夏の小倉。

雲一つない透き通った青空の下、陽射しに照らされた芝がギラリと輝く。

本馬場入場。

入場曲に背中を押され、若駒たちが綺麗に列を成して行進してきた。

ヴェロックスは一番最後にやってきた。

厩務員さんに連れられ、ゆっくりと内ラチ沿いまで誘導される。

溢れんばかりのはやく走りたいという気持ちがみてとれた。

リードが外され、満を持してキャンターに入った。

スタート地点に向けて一完歩ずつ力強く駆けていった。


12時20分。スタートが切られた。

ヴェロックスはまずまずのスタート。

金子オーナーの勝負服をターフビジョンで追う。

先団後ろにポジションを取り、向正面に入っても楽に追走しているようだ。

第3コーナーから第4コーナーで徐々に加速。

直線に入る頃には既に先頭を飲み込む勢いだった。


8馬身差の圧勝劇。

立ち込める陽炎を切り裂くように、彼は僕の目の前を風の如く過ぎ去った。

「ダービー」

興奮冷めやらぬ僕の脳裏にダービーの文字が過った。

来年のダービー馬は彼に違いない。この馬を追いかけよう。

あまりの衝撃に圧倒されている人、興奮気味で会話をしている人、馬券の結果に一喜一憂している人… 色んな思いが交差する人混みの中、僕はそう心に決めた。


2019年5月26日。

ロジャーバローズがダービーを制するまで、僕はヴェロックスがダービーを獲ると信じ抜いた。ダービー馬にはなれなかったけど、ヴェロックスを信じ続けて本当に良かったと思った。

この先、再びこのような馬に出会えるのか。その時を待つのも、競馬の醍醐味だと思う。

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