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無敗の皐月賞馬を追い詰めた馬 帝王の血を引くレーベンスティール

ソールオリエンス。今年の皐月賞馬。
観ていた人の度肝を抜く強烈なパフォーマンスをみせ無敗で皐月賞を制した。ソールオリエンスの新馬戦、彼にクビ差まで迫った馬がいる。

レーベンスティール。

父はリアルスティール、母父にトウカイテイオー。ノーザン系一口クラブ キャロットFの所有馬だが、生産は日高の広富牧場。日高軽種馬農業協同組合が主催するサラブレッド1歳市場「セプテンバーセール」の出身馬というキャロットF募集馬にして意外な経歴を持つ。レーベンスティールにはノーザンがセプテンバーセールで競り落とすほど光るものがあったと言えよう。

新馬戦の惜敗

たったあの僅かな差でソールオリエンスと全く別の道を歩むことになるとは。

デビュー戦惜敗後、レーベンスティールは12月の未勝利戦を勝ち上がり、クラシック戦線に照準を合わせ調整を進めるも、脚部不安により順調さを欠いたり、3月の自己条件戦の思わぬ敗戦など不運が重なり、夢の大舞台「日本ダービー」での再戦は叶わなかった。

条件戦敗戦後も、もちろんダービートライアル→優先出走権獲得→日本ダービーという選択肢はあったはず。しかし、田中博康先生は馬の状態やタイトな間隔、そして何より馬の将来性を鑑みて大一番はダービーではなく今秋の大舞台へと目標を再設定することを決断。ダービー2週前の自己条件戦から一歩一歩階段を登ることに決めた。

新馬戦で鎬を削ったライバルは無敗で皐月賞を制し、今では随分と先の存在になってしまったけれど、レーベンスティールは必ず彼が待つ舞台に立ち、新馬戦のリベンジを果たすだけの力を持っている馬だと信じている。

実数値が裏付ける怪物パフォーマンス

5/14 1勝クラス 東京 芝1800m。
鞍上にダミアン・レーンを迎え、秋の大一番に向け再出発。結果は5馬身差の見事な快勝だった。

1走前の中山での敗戦では、極端な不良馬場で逃げ有利の特殊なコースバイアスだったこともあり、無理をせずとにかく馬に負担をかけないように戸崎Jが乗ってくれたように見えた。あくまで個人的な憶測に過ぎないが、今回のレーンJも田中先生から今までの経緯の説明があり、極力馬に負担をかけないように乗ってくれるよう指示があったように見えた。

考え得る限りの最高のリスタートになったのではないか。余力残しながらもあのパフォーマンス。そして5馬身差という見た目だけでなく、彼が刻んだラップの実数値を紐解くと改めてとんでもない馬なんだと期待が高まる。

2023.5.14 東京5R 3歳1勝クラス 芝1800m

レースラップタイム
・12.5-11.3-12.1-12.7-12.8-12.7-11.6-10.8-10.9

レーベンスティール ラスト3F 個別ラップ
・33.0 (11.3-10.8-10.9)

東京芝1600m以上で上がりラスト2Fを10秒台連続で駆け抜けた馬はほとんど記憶にない。これは古馬、条件戦、オープン戦、重賞、G1あらゆる条件で探してみても思いつく馬は以下3頭のみ。

2021年 ヴィクトリアM グランアレグリア
・32.6 (10.9-10.8-10.9)

2018年 府中牝馬S ディアドラ
・32.3 (10.8-10.7-10.8)

2018年 アイビーS クロノジェネシス
・32.5 (11.2-10.7-10.6)
✳︎前半56.5 後半52.2 前後半4.3秒差の超スローペース

ソールオリエンスと追い比べた新馬戦も脅威的な加速ラップで上がり最速をマークしているが、今回の数値の裏付けで将来が本当に楽しみになった。

リベンジは菊の舞台

改めてレーベンスティールの血統表を見てみよう。父はリアルスティール。母系の祖父はトウカイテイオー。

この2頭はともにダービーに出走し、競走後にレース中での骨折が発覚しているという共通点がある。
✳︎リアルスティールは4着、トウカイテイオーは優勝し無敗で二冠達成

その後リアルスティールは故障明けにトライアルレースを挟み菊花賞へ。菊の舞台に駒を進めることができたものの惜しくもキタサンブラックの2着に敗れている。
トウカイテイオーは年内休養を余儀なくされ、菊花賞への出走は断念。父シンボリルドルフとの親子二代無敗での三冠制覇の夢は絶たれた。

無冠に終わった父、そして志半ばで三冠目の夢を絶たれた祖父のため、レーベンスティールには是非菊花賞を目指して欲しい。

もしソールオリエンスが無敗のダービー馬となり、秋の最大目標を三冠目の菊花賞に定めるのなら、その三冠を阻止できるのはレーベンスティールだと思う。ソールオリエンスの父は菊花賞馬キタサンブラック。菊花賞はレーベンスティールにとって、まさに二代揃ってのリベンジの舞台なのだ。

最後に

デビューからここまで脚元の状態と常に向き合い、時に思うような調整過程を辿ることはできなかったけれども、体質の強さも競走馬にとって大事な要素。体質の強さがあって、ようやく稽古を積むことができる。いくらポテンシャルが高くてもレースに出走しなければ意味を成さない。体質、実力、運。何か一つでも欠けてしまえば勝てないのが競馬の世界。

春、無冠に終わった未完の大器が無事に歩みを進められるよう願うばかりだ。

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