「アタック25」終了に見る視聴者参加型番組の"変質”とABCの狙い

 きょう、TV番組に関する大きな報道があった。視聴者参加型のクイズ番組として46年間に渡り放送し続けていた「アタック25」が秋をもって終了するというのだ。

「アタック25」今秋に放送終了(スポニチアネックス)
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6396852
 コロナ禍の中、視聴率以上に出演者の選抜に苦戦をしていたようだ。最近の出演者を見ても、タレント、それも全国区の人気者というよりは、制作局である朝日放送(ABC)のある関西地域のローカルタレントなどを引っ張り出して枠を埋めているような放送回が続いていた。コロナ禍が収まらない限り、何らかのテコ入れは必須だっただろう。4月から番組司会の谷原章介が帯番組である「めざまし8」の司会に抜擢された事も考えると、今回の終了は電撃的に決まったわけではなく、少なくとも年単位で検討されていたものと思われる。ABCが秋以降どのような番組編成を考えているか…はこのコラムの終わりあたりに言及するとして、同日、別のニュースサイトから気になる考察記事がアップされていた。

日テレ系「オモウマい店」好調の裏でテレビ業界が嘆く「普通の人にプロが負けてしまっている」問題(現代ビジネス) https://news.yahoo.co.jp/articles/af9c5a1c95b2774b589d83fb124666b71ffd82e6

「オモウマい店」は3月までの「火曜サプライズ」に変わって系列局の中京テレビが制作し全国放送している番組だ。名古屋で長くゴールデンタイムで放送しているローカル番組「PS純金」のスタッフが関わっていると聞く。ローカル局制作ならではの独特のゆるさもあるが、この記事で言及されている「一般人」の面白さというのも人気の1つであろう。この記事では他に「家、ついて行ってイイですか?」(テレビ東京)や「ポツンと一軒家」(ABC制作・テレビ朝日系)を類似番組にあげ、一般人(視聴者)が主役の番組の好調な人気の背景について考察している。

 これらの番組も言ってしまえば一般の視聴者がテレビに出演する「視聴者参加型番組」である。一方で「アタック25」もコロナ禍前は一般の視聴者が解答者として毎週出演していた。同じ視聴者参加型の番組でありながら、なぜこうも明暗が分かれるのだろうか。それは双方のテレビ出演に至るまでの「プロセス」にあるのではないかと筆者は見ている。具体的にいうと、前者の場合、局側が事前にリサーチして出演をお願いする【依頼型】。後者は広く市井から出たい人を募ったうえで参加する【自薦型】だ。そしていまテレビ業界でもてはやされている視聴者参加型番組は大半が【依頼型】だ。【自薦型】は「アタック25」が終了するともう残るはフジテレビの「99人の壁」とそしてABCでアタック25の前に放送している「新婚さんいらっしゃい!」ぐらいしか残っていない。(単発番組としては日本テレビの「高校生クイズ」「全日本仮装大賞」、TBSの「SASUKE」などがある)が、「99人の壁」は例の事件前後から【依頼型】とのハイブリッドにかじを切っており、いつ募集フォームが閉鎖されてもおかしくない状況だ。「新婚さんいらっしゃい!」は桂文枝がこけられる体力が続く限りは放送できるかもしれないが、いつ切られてもおかしくはないだろう。

 言うまでもなく昔の視聴者参加型のテレビ番組は多くが【自薦型】であった。「アメリカ横断ウルトラクイズ」や「ぎんざNOW!」「風雲!たけし城」「ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャー」、そして「笑っていいとも!」の曜日ごとのコーナーなど、多くの視聴者参加型番組がまずはがきを送って自ら参加をアピールし、抽選や書類選考を経てオーディションに参加、またはそのまま選考を経ずに番組に出演することが可能だった。故に参加者によっては時に爆発的な人気を獲得し、そのままTVスターになってしまう…なんてことも珍しいことではなかった。しかし、そのエネルギーは時に信じられない方向に暴走することもあり、予測不能な面白さがまた視聴者に受けていたのだ。

ただ、時代は徐々にそういった「暴走」を許さなくなっていった。スポンサーとテレビ局のパワーバランスや番組制作体制の構造の変化、そして何よりインターネットの登場で、それまで顕在化していなかったクレーマー的視聴者が番組作りに少なからぬ影響を及ぼすようになったことでテレビ局内にはいつしか「コンプライアンス(法令遵守)」という概念が最上位となり、制作側は過激な演出を抑え、出演する一般視聴者の暴走を未然に防ぐための仕組みづくりに迫られた。そこで考え出されたのが【依頼型】の視聴者参加番組である。いまや、「我こそは」と名乗り出なくても、局側がパソコンをネットに繋ぎ、適当なワードを検索サイトや口コミサイトに打ち込めば該当する人物、店が出てくる時代となった。「ポツンと一軒家」もGoogle Earthで日本地図を適当な場所で拡大して探す家を見つけている。もちろん従来の【自薦型】であってもそれなりに選考は行われていたが、「面白いか」よりも「演出側の意向にどれだけ従えるか」が重要視されるようになり、自由な発想でやってもらった上でできあがったものをどう面白くするかではなく、作る段階からある程度の方針のもと制作側がコントロールできないと番組自体が作れなくなったのだ。クイズ番組の解答者も予測不能な一般人よりも、ある程度空気を読んで暴れてくれるタレントたちがメインになっていったのもある種自然の流れだったかもしれない。

一方でこれまで【自薦型】の番組に応募してきたようないわゆる「出たがり一般人」は2000年代後半からそんなテレビメディアに見切りをつけ、そのエネルギーをインターネットが産み出した新たなメディア「YouTube」や「ニコニコ動画」に求めた。自分自身で演出・構成・出演までできてしまう手軽さと便利さでまたたくまに人が流れ、代表的な一般人は「YouTuber」と呼ばれるようになった。そして時を同じくして制約だらけのテレビ業界にうんざりしてきた視聴者や、プロの演出家たちも続々参戦し、今やテレビと遜色ない予算規模、広告料を稼ぐようになった。そして、テレビに出るにはまず自分で動画を作ってYouTuberとなることでアピールし、声がかかるのを待つという新たな流れもできつつある。

こうした大きな時代の流れの中で、旧来の【自薦型】による視聴者参加のテレビ番組はゆくゆくは淘汰されていくことになるのだろう。たしかに「アタック25」は愚直なまでにオールドスタイルのTVクイズ番組として半世紀ちかく毎週放送を続けてこれたことは称賛に値する。しかし今後そのような番組はYouTubeなどのネット配信を中心に、有志によって制作されていくのが最も時代に沿った生き残り方なのかもしれない。

さらに2020年頃からスポンサーの意向もあり、番組編成の大方針もこれまでのシニア層重視から若年層重視へとかじを切った。「アタック25」の裏番組として長年しのぎを削ってきたTBSが関東ローカルとはいえ長期間放送し安定した視聴率を得てきた「噂の東京マガジン」をBSに回し、「それ、SnowManにやらせて下さい」を始めた大きな原因はその方針変更によるものだと言われている。この番組は世帯視聴率的にはいまいちだが、特にネット配信のParaviでは視聴数ランキング1位になるなど、若年層の人気をごっそり奪っているという。この番組は30分番組のため、いまは番組が終わるタイミングでちょうど「アタック25」が始まる時間帯となる。ABC(テレ朝)としてはこの視聴者層が喉から手が出るほどほしいのだろう。だからこそ、今回半世紀に及んだ長寿番組を打ち切る決断を下したと思われる。後続の番組はおそらく、このような視聴者層を取り込める内容の番組になるに違いない。

ただ実のところ、ABCにはこの秋の編成でもう1つ狙っていることがあると思っていて、「アタック25」の終了もおそらくその一環なのだろう…と踏んでいるが、それはもう少し先。東京五輪が終わったあたりでまだ覚えていたら論じてみようと思う。

(参考資料)今の若者が支持する「意外なテレビ番組」の正体
「現役大学生が見ているテレビ」トップ20を公開https://toyokeizai.net/articles/-/415975

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