ハチワレは貧乏なのか? ちいかわたちの重層的な生

ほら穴に住み、段ボールのちゃぶ台にふちの欠けた食器。むしろの敷布団に、年季の入った掛け布団という暮らしぶりからすると、ハチワレの生活を貧乏とみなすのも無理はないように思えます。しかし、私はその暮らしぶりを見た時の第一印象は、「学生時代の俺みたいだな」というものでした。私は学生時代に2年ほど一人暮らしをしましたが、カーテンがない部屋にちゃぶ台がわりの段ボールという状態からスタートしました。段ボールのちゃぶ台はさすがに痛みが激しくて後に小さいちゃぶ台を買いましたが、テレビ台は最後まで段ボールのままでした。学生だからお金がないのは当たり前で、特に貧乏だという自覚はありませんでした。ちいかわ族と同じように日々のバイトをこなして生活費や自分の好きなことに使えるお金を稼いでいたのも、ハチワレに学生時代の日々を自然と重ねて見る要因になっていると思います。

このように、ハチワレの暮らしぶり=学生時代の俺というまなざしを受け止めるものであるように、『ちいかわ』ではひとりのキャラクターの中に、人生のいろいろな年代の生が重層的に織り込まれていると感じます。最初は「なんかちいさくてかわいいやつ」という位置づけや、小動物のような愛くるしい見た目から、ちいかわ族をまずはなんとなく小さな子供のように思って見ることと思います。お絵かきを楽しんだり、花かんむりづくりをしたりと、未就学児に似つかわしい描写も数多くあります。

その一方、『ちいかわ』には肉親の描写がまったくないこともあって、未就学児というよりは、小学3年生くらいからの友達同士で好奇心の赴くままに遊ぶ時期の子供のように描写されることも多いと思います。お酒を飲むことにあこがれたり、英語の筆記体をかっこいいと思ったりするメンタリティもこの年頃のものではないでしょうか。お泊まり会をしあったりするのは小学生くらいからもすると思いますが、興が乗って夜に外にでかけたりしちゃうあたりには夜遊びする年頃が重ねられています。

資格に向けて勉強をがんばっていたり、家事を自分でやったりするところは学生や社会人の暮らしが入っています。いろんな食べ物が湧いてくる世界なので、飢えて死ぬことはないものの、ものを手に入れるためにはつらい討伐にも向き合う必要があり、渡世のつらさがそこにはあります。バイト先にオフィスグリコが設置してある生々しさが社会人のハートをがっちち掴みます。

ハチワレは自作の歌をギターの弾き語りで披露しますが、これも多くはハイティーン以降に見られる行動でしょう。ハチワレはちゃぶ台は段ボールでもギターは持っていたのでした。また、運良く多く報酬をもらえた際には前から欲しかったカメラを買いました。ちいかわやうさぎを喜ばせるためになんとかバニアを買ったり、カトラリーを買ったりもします。ちゃぶ台やふちの欠けた椀よりも、したいことにお金を費やすところも学生時代のメンタリティを思わせるところです。

『ちいかわ』はかわいいだけじゃなくてハードな世界とよく言われますが、世界の描き方が重層的であるばかりでなく、キャラクターの行動や内面も重層的に描かれていることが幅広い年代からの人気を得ている要因になっていると思います。

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