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雑誌『ゲンロン』

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雑誌『ゲンロン』に掲載されている論文や小説の感想です
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#上田洋子

開戦前にバルスを仕込むー上田洋子「ネットとストリートの戦争と平和」を読んでみた

ここのところ小泉悠のウクライナ戦争関連書や雑誌『ゲンロン』のバックナンバーに掲載されているウクライナ戦争に関する座談会やロシア現代思想関連論文を読んでおりましたが、一段落したので、最新刊の『ゲンロン14』(2023年3月)を読みはじめました。魅力的な鼎談や論考が多々ありますが、今回もウクライナ戦争に関する論文があるので、まずはこれから読みたいと思います。 今回読むのはロシア文学者でゲンロン代表の上田洋子の論考「ネットとストリートの戦争と平和 ロシアの反戦アクティヴィズムにつ

分業は疎外も連帯もうむーボリス・グロイス「アメリカの外ではスーパーマンしか理解されない」を読んでみた

ボリス・グロイスを読みます。前回は論文でしたが、今回はインタビューです。 タイトルは「アメリカの外ではスーパーマンしか理解されない」。上田洋子訳で雑誌『ゲンロン1』(2015年)に掲載されています。 グローバリズム崩壊インタビュアーはロシアの状況を問い、グロイスは答えます。 世界中(ロシア含む)で同じ事態が起こっている。 冷戦が生んだグローバリズムは崩壊しようとしている。トルコではオスマン語が再導入され、中国では孔子に熱狂し、イスラム世界では預言者時代のイスラムへ回帰してい

平等は不死の夢をみるーボリス・グロイス「ロシア宇宙主義」を読んでみた

ロシア現代思想関連書を読み続けています。 ナショナリストのドゥーギン(プーチンの脳と呼ばれている)、コミュニストのマグーンを読んだので、今回はリベラリストのボリス・グロイスを読みたいと思います。読むのは、「ロシア宇宙主義ー不死の生政治」(上田洋子訳 雑誌『ゲンロン2』2016年に収録)です。 ロシア宇宙主義ここでの宇宙とは調和がとれ、秩序がある状態であるコスモスを主に指していますが、宇宙旅行の宇宙の意味も含んでいるようです。そしてロシア宇宙主義とは、スティーブ・ジョブズなど

敗者は記憶を書きかえるー座談会「歴史をつくりなおすー文化的基盤としてのソ連」を読んでみた

前回までのあらすじ ウクライナ戦争のロシア側の開戦動機を調べています。 特に開戦が2022年2月だったのはなぜかという謎を追っています。 前回は、2022年2月にはロシア内のウクライナ侵攻賛成派からのプーチンへの圧力が強くなってきて、プーチンは自身の身を守るため侵攻せざるを得なくなったのではないか、という仮説を立てるところまでたどりつきました。 また、謎を追っていたら新たな謎がでてきました。 ロシアはかつての日本のように徹底的に敗北させられるのが良いという識者の意見があり

ウクライナ戦争の動機を考えるー座談会「帝国と国民国家のはざまで」を読んでみた

前回までのあらすじ 戦争に巻き込まれるのはまっぴらごめんということで、ウクライナ戦争を題材にして回避策を見つけることができないかと考えたのでした。まずロシア軍事・安全保障の研究者、小泉悠の著作を二つほど読みましたが、回避策を考えるにも、そもそも2022年2月に開戦しなければならなかったロシアの動機がわからないということでした。小泉は「自分の代でルーシ民族の再統一を成し遂げるのだ」といった民族主義的野望のようなものが動機なのではないかと考えるのですが、しかし2022年2月に開戦