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雑誌『ゲンロン』

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雑誌『ゲンロン』に掲載されている論文や小説の感想です
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2023年7月の記事一覧

出来事から発せられる複数の波ーアレクサンドル・エトキント「ハードとソフト」を読んでみた

ここのところロシア関連文献を読んでいますが、今回はロシア文化史家アレクサンドル・エトキントの「ハードとソフト」(平松潤奈訳 『ゲンロン7』 2017年 収録)を読んでみたいと思います。これは大量虐殺の記憶についての論考です。世界的に健忘症が進んでいる今、たいへんアクチュアルな議論になっているのではないかと思います。 ハードとソフトそもそもテキストがそれ自体ハードとソフトの相互依存関係でできています。目にみえるイメージとしての文字と目にみえない意味によって成立しています。話し

銀河帝国の誕生ーマルレーヌ・ラリュエル「運命としての空間ー地理と宇宙をとおしたロシア帝国の正当化」を読んでみた

ウクライナ戦争、ロシア現代思想関連文献を読みつづけています。 今回はフランス人歴史家マルレーヌ・ラリュエルの2013年の論文「運命としての空間ー地理と宇宙をとおしたロシア帝国の正当化」(平松潤奈訳 『ゲンロン7』2017年に収録)を読んでみます。 ラリュエルはナショナリスト的言説の構築物たる帝国(ユーラシア主義)と、空間(地理と宇宙)の関係を明らかにすることをめざします。 そのために三つの構築物(ナラティブ)を分析します。 1)古典的ユーラシア主義 1920年代〜30年代

ふたつのタタールスタンー櫻間瑞希「国境を超えた結束と分断の狭間で タタール世界から見るロシア」を読んでみた

ここのところロシア関連文献(政治、思想、サブカル)ばかり読んでいます。今回はロシアの周縁?に当たるタタールスタン共和国からウクライナ戦争を考える論考「国境を超えた結束と分断の狭間で タタール世界から見るロシア」(櫻間瑞希 2023年 『ゲンロン14』に収録)を読みたいと思います。 地域と民族、ふたつのタタールスタンロシア連邦は83の連邦構成主体から構成されていて、タタールスタン共和国はそのひとつです。タタールスタン共和国はタタール人の民族共和国。ロシアにおいてタタール人は民