ちょっぴり怖い話(行進)

これは同じ職場の友人から聞いた話です。

彼は、都心から快速電車で1時間弱の駅に住んでいました。
駅の近くには小さな商店街がありましたが、商店の多くは廃業していて、いわゆるシャッター商店街になっていました。

彼が住んでいたのは、その駅から10分ほど歩いた、大きな国道に面した場所に建つマンションでした。

仕事で遅くなったとき、人通りがまったくなくなったシャッター商店街をひとりで歩きます。
もとは商店街でした。
人がたくさんいるイメージを想起させる街並みに、人がまったくいない状態だとなぜか心細くなります。

早く部屋にたどり着きたくなり、自然と歩く速度がはやくなります。

商店街を抜けて国道に出る道に曲がった途端、眼の前に不思議な光景が広がりました。
国道の横断歩道を、何人ものサラリーマンが向こう側に渡っていくのです。
なぜサラリーマンに見えたかというと、みんながスーツを着ていたからです。

歩行者の信号は赤でした。
その信号は、夜の10時を過ぎると、押しボタン式に切り替わり、横断したい歩行者がボタンを押さないと青になりません。

赤信号のままで、数人のサラリーマンが国道を渡っていきます。

その横断中のサラリーマンを、スピードを出した乗用車やトラックが、減速もせずに走り抜けていきます。

嫌なものを見てしまったと思い、彼は国道には出ずに、シャッター商店街に戻りました。
そして遠回りをして、自分の部屋のあるマンションまでなんとかたどり着きました。

その日以降、その角を曲がることはしなくなったそうです。

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