ユメグラ60分ワンドロ企画 魔法少女編 その景色の先に

もういいわ!やめてやるわよこんな所!

まただ、また私はやってしまった
些細なことでケンカして、所属してたバンドを辞めて
また次の所へ行ってはケンカして、その繰り返し
その繰り返しの果に、親ともケンカして、家出同然で飛び出してきた
やりたいことをやるために

ただ叩きつけて歌うことしか出来ない私はまた次の場所を探す
ステージで歌ってなきゃ生きてる心地がしない
今ある感情を頭ごなしな歌詞で群衆に叩きつける
ただそれだけ

ステージの上では魔法が掛かったかのように
なりたかった私に、本当の私になれるような気がする
みんなに夢と魔法を振りまくようなものではないけれど
嵐のような音を纏い、自然と出る言葉に従って

行く宛なんてない、でも居場所が欲しい
ただの我儘だってわかってる。

練習中だったスタジオを飛び出し、夜風に当たりながら歩く
追いかけてくる気配もなく、後悔もない
駅前の駐輪場に停めてあるエストレヤに乗り、帰り支度をする

駅前では路上で演奏してる奴らはいくらでもいる
どれもこれもパッとしない、ただそこにいて音を出してるだけ
何か感じるような物はなかった

ふと、一人の女の子がいた、なぜかその子が気になってしまった
ただそこに座って小さく歌っていた
年は同じくらいだろうか、小さい声でもしっかり心の奥まで届くような聴かせるような歌声
ただ有り余る感情を叩きつける私とは違う
私には出来ない歌い方
自然と声をかけていた どうしてだかわからない
君、すごいねと
キョトンとした顔をしていた
そりゃそうだなと、見ず知らずの人に急に声を掛けられては皆同じ反応をする
あなたも歌うの?と聞かれたから素直に
私も歌うけど、君みたいな歌い方は出来ないかな
もっと暴力的な感じだもの

ふふっと小さく笑ったその子は、会話も周辺の雑踏も物ともせず
また歌い始めた、懐かしいポップスだったので
私も合わせて鼻歌まじりで気がつけば歌っていた

楽しいねと小さく聞こえた
ただ私は笑顔で返事をした
さっきまでケンカしてたとは思えない、澄み渡るように穏やかな気持だった
一時間ぐらいだろうか、その場で空を見上げながら二人で歌っていた

連絡先も交換せずに名前も聞かずに、解散した
女の子は歌声とは相反するフレームレスのVツインサウンドを奏でて去っていった 祖母から引き継いだ年季物らしい
別れ際に交わした会話は「えげつないの乗ってるね」とだけ

背中を見送り、エンジンを掛け、走り出す
トコトコと奏でる音に合わせて、女の子のように歌ってみようとするも
やはり無理だった。まるで魔法みたいな歌い方
おそらく私には二度とできないだろうなと

殺風景な六畳間に帰り、キーを置き、体を軽くシャワーで流し、ベッドに食べられる

今まで感じたことのない開放感
知らなかった歌い方、またどこかで逢えるだろうかと期待を胸に
頭まで食べられてそっと眠った

よく無愛想と言われるが、これでも接客業でバイトをしている
駅前の飲食店だけど、あまり客と絡まないような所なので個人的には助かっている
昼間はバイトをし、夜は音楽を、そんな暮らしを繰り返してきた
学校は、辞めてしまった。教師とケンカして辞めざるを得なくなったのが正しいのだけれど

いらっしゃーせー おすきなせきどーぞー
けだるげな声で接客をする、馴染みのないが知ってる声が帰ってきた
昨日は楽しかったよと 件の女の子だった
この辺に住んでるのだろうか
ちいさく会釈だけ返して、オーダーを取り戻る
また会えるだろうとは思っていたけども、こんなに早く会えるとは思っていなかった
オーダーを提供するついでに少々小話をしていた
年はひとつ上、学校は卒業しているようだ

その日の夜、出会った同じところでまた歌わないかと言われた
特に予定もなかったので二つ返事でOKしてしまった
なんだか自分らしくないなと思いつつも、女の子の魔法のような歌い方に興味があった

今日はあなたの歌を聴かせて というのが女の子のオーダーだ
こんな駅前で私の歌い方で歌ってしまえはただの迷惑になる
でも、無性に歌いたかった、ステージはないけども
ステージの上と同じようになりたかった自分になれるかどうかはわからない

歌い慣れた自身で作った曲を少し恥ずかしがりながら歌ってしまった
それでも自分にできるのは女の子のように聴かせるような歌ではなく
駅前に集まった群衆に叩きつけるような歌だった
女の子を横目でみると、楽しそうに笑っていた
だったら、、、、と私はステージ上と同じように羞恥もなにもかなぐり捨てて
歌い続けなければ生きてはいけない、そんな歌詞をを歌った
どうやら女の子には刺さったようだ
先程まで隣でにこやかに笑うだけだった女の子に火をつけてしまったのかもしれない
小さく聴かせるような歌声から打って変わって、広く、強く周りの注目を全て集めるかのように歌い始めた
私の曲を、1コーラス分だけしか聴いてないはずなのに、ほぼ完璧に
駅前の一体を魔法が掛かったかのように、少女たちを包み込む群衆

負けじと私も叩きつけた、彼女に向けて、群衆に向けて
ふと気づいたんだその時に
ステージじゃなくても、ステージ上と同じ魔法があるんだって
女の子に気付かされたような気がした
そのために今日誘われたんじゃないかとまで勘ぐってしまう程に

群衆が退いた後、女の子に何処かのバンドや事務所に所属してるのか聴いてみたら、完全にフリーだった
もう私の気持ちは変わらなかった、賽は投げられたんだと
女の子に、組まないかと持ちかけた

数秒間が空いた後に、笑顔で縦に頷いた

二人でなら、どこでも、どこまでも
ステージの魔法を届けられるんじゃないかと
なりたい自分になれるステージの上の景色から見る
魔法少女に







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?