漫道コバヤシ 『特攻の拓』 佐木飛朗斗先生降臨! の感想

2023年7月27日、フジテレビONEの番組「漫道コバヤシ」にて『疾風伝説 特攻の拓』の原作者、佐木飛朗斗先生を特集した回を観た。
番組は『特攻の拓』の創作秘話や物語の真相に迫る話題で彩られており、先生が作品の裏話を語る貴重な場となった。

番組の終盤。佐木先生は特に印象的なエピソードを共有してくれた。
それは最終巻のクライマックス、B突堤の大乱闘に向かう拓が困難に直面している場面へ駆けつける風神雷神の名シーンを振り返る場面でのことだった。
この語りでは、ヒロシが小学生時代の拓との思い出が、どれほど彼にとって価値あるものであったかについて言及された。

要は、ヒロシにとってそれだけ、小学生のときに拓の存在がデカかったんだね。

でも〝一番肝心〟なのは‥‥ 拓は 「覚えていない」 もう。

しかも、自分は 『全然大したことではない』 と思っていることが、ヒロシには 『とても大きかった』 んだね‥‥

引用:
漫道コバヤシ:第97回『特攻の拓』佐木飛朗斗先生降臨!(2023-07-27)

佐木先生がヒロシのエピソードを大切に語る場面が心に深く残った。

ヒロシにとって拓と共に過ごした小学生時代の思い出は、生涯にわたって忘れられない出来事である一方、拓自身はそのことを覚えておらず、「全然大したことではない」と思っている。
この対照的な違いが、何とも言えない切なさを感じさせる。
先生の言葉は、私に多くの考察を促した。

このエピソードは、どんなに些細な出来事でも人と人との間に深い絆を築くきっかけとなることを示している。
そして、人間関係において同じ出来事でも受け取り方が異なることがどれだけ大きな影響を持つかを教えてくれる。

これは、ヒロシの家庭環境や生い立ちが彼独自の感性を形作る手がかりとなっていた。

引用:佐木飛朗斗・所十三『疾風伝説 特攻の拓』2巻(講談社、1991)p.15
引用:佐木飛朗斗・所十三『疾風伝説 特攻の拓』2巻(講談社、1991)p.15

第2巻で紐解かれるヒロシの小学生時代は、彼の多面性とその複雑な性格を理解するために非常に重要であった。
ヒロシは片親家庭で育ち、彼の母親は夜の仕事(水商売を示唆)に従事していた。
遠足の日に母から渡されたお金をお弁当ではなく、すべてお菓子に使ってしまったエピソードは、幼い彼がすでに自立と自己決定を求められていたことを物語ると同時に、まだ残る子供らしい無邪気さを映し出している。

小学校での彼の孤立は、過酷な環境に置かれていたことの象徴である。
ヒロシが一人でレジャーシートに座る姿や、顔の傷跡や絆創膏は、他の子供たちとは異なる厳しい生活を送っていた証拠であり、彼の孤独を表している。
これは、彼が周りとは異なる生活状況のために同年代の子供たちから避けられていたことを示唆している。

しかしながら、拓との過去を振り返るヒロシの言葉からは、彼が他者の行動に対してどれほど敏感で、人々の優しさや思いやりに対して深い感謝を感じる少年であるかが伝わってくる。
また、彼は自らの境遇を悲観せず、ある種達観しているかのように明るくたくましく生きている。
これらの描写は彼の内面の豊かさと複雑性を際立たせ、ヒロシが持つリアルな魅力を一層強調している。

ヒロシの途方もない明るさの裏に潜む深い孤独は、彼が「みんな俺のコト避けてた」と後に回顧するシーンにおいて、より深い哀愁を帯びて現れるのである(2巻 第7話)。

しかし、拓は違った。
拓はヒロシに対してただ一人、普通に接してくれる存在だった。

遠足で拓がヒロシに声をかけたのは、単に彼のお菓子を分けてほしいという単純な動機からだったが、その物々交換は相手との対等な関係を示す象徴的な行動であり、拓の純粋さが現れている。
周りの嘲笑に敏感であったヒロシにとって、拓の行動は偏見や嘲笑いのない純粋な交流として感じられたのだろう。
小さな交換が彼にとってどれほど大きな意味を持ったか。
ヒロシが「一生涯忘れねーぜ」と語るその言葉は、小学生時代の彼の孤独の深さと、彼がどれほど人とのつながりを大切にしているかを物語っている。
物語の中でヒロシの過去を描くことによって、読者は彼の多面性を知り、その行動に共感を覚えるようになるのではないだろうか。

拓がマブダチとして真に認められるには、何らかの試練や共有された特別な経験が伴うことが多いなかで、ヒロシは例外だった。
例えば、キヨシが拓を真にマブダチと認めたのは、ヒロシと自分のためにMPに果敢に立ち向かった拓の姿を見た時だった(2巻 第8話)。
しかしヒロシは、拓がまだ「強さ」を意識する前の、彼の内気で少し弱虫だが人々に対等に接する素直な性格を理解し、大切にしていた。
このことは、大きなドラマや共通の敵と戦うことだけが友情を築くわけではなく、相手の本質を理解することでも強い絆が築けることを示している。
ヒロシの背景が、彼が拓に示す深い友情と緊急時にも詮索せずあたたかく拓を支える姿勢に、より説得力と安心感をもたらしている。
久しぶりの再会でためらいなく拓をマブダチと呼んだヒロシの姿は、印象深いものがあった。
それは拓への長年の感謝と共に、小学生時代の記憶が彼の心に強く残っていることを示している。

基本的にヒロシたちは「拓ちゃん後方支援隊」を自称し、一歩引いた位置から拓を見守り、必要な時に支える態度をとっている(22巻 210話)。
親衛隊や特攻隊ではなく、後方支援隊というのが重要である。
この態度は、物語を通じて見えるヒロシの自立心と他者に対する尊重から生まれたものであると私は解釈している。
ヒロシの行動は、彼の過去や家庭環境に深く根ざしている。
彼は幼い頃から自立し、自らの選択で道を切り開く術を身につけてきた。
そして、他者を対等に見ることの価値を非常に重要視しているように感じられる。

物語においてヒロシとキヨシが拓を過度に保護せず対等な友情を保つ姿勢は、彼らが持つ友情の価値観が成熟したものであることを際立たせている。
互いの独立性を尊重し、同時に困難な時には支え合う、という健全なバランスに基づいている。
これは、時貞に対しても同様である。

特に、第14巻のヒロシと時貞のやりとりはこのことを色濃く示しているように思う。
「増天寺LIVE」が行われた日に、窮地に陥った時貞を救い出し会場へ導いたのはヒロシとキヨシだった。

引用:佐木飛朗斗・所十三『疾風伝説 特攻の拓』14巻(講談社、1994)p.130

その場でヒロシが時貞に放った、「勘違いすんな時貞!オレは暴れてーから暴れてんだよ!」という言葉は、彼が自分の行動の理由を周囲に依存しないことの表れでもある。
この言葉はヒロシの自立心を象徴しており、それでいて時貞のプライドを守りつつ、彼を支える手段としても機能しているのである。
時貞が憎まれ口を返しながらも口角を上げる反応は、ヒロシの態度が彼にとって心地よいものであることを示している。
このシーンは「漫道コバヤシ」でも取り上げられ、二人のやりとりの可愛らしさが照れ隠しに見えると評されていた。
また、佐木先生はヒロシと時貞がともにいじっぱりであることを指摘されていたのが印象的だ。

「増天寺LIVE」会場にたどり着いたヒロシとキヨシは時貞のステージを見守った。
ステージ上で生きる意味を見出した時貞を見たヒロシは、彼らだけで結成したばかりの「十七代 獏羅天」の解散を決意し、キヨシにその決断を告げた。
ヒロシは「拓ちゃん居るみてーだからココは楽勝だ」と言い残し、キヨシと共に会場を後にした。
この行動は、ヒロシが時貞と拓に対して持つ深い尊重と彼らの自由を願う心を映し出している。
ヒロシは友人の成功を真に願い、彼らが自分の道を自由に進めるように無理に押さえつけることなく、自然体で支えている。
チームを解散させる選択は、時貞が自分の道を自由に進むことを助けるためであり、彼の友情が単なる馴れ合いや一時的な結びつきでなく、個々を尊重し未来を重んじるものであることを強調している。
彼は時貞が自分の道を歩むこと、そしてこれから繋がれていくであろう友情の輪の片鱗を信じ、必要なときには支えると心に誓った。
彼の決断は、それぞれが自分らしく生きることを助ける姿勢を示しており、これは真の友情の理想ともいえる。

このように、ヒロシは周囲との関係性においても自分の価値観と行動原理に忠実であり、それが場面によっては他人との深い絆を形成する要因となっている。
時貞との関係においても、彼が行動を起こすのは時貞が「ひとりぼっち」だからという同情に基づく関係ではなく、自分の意思決定で再び時貞に寄り添うことを望んだ。
その対等な友情と自由で独立した精神性が彼の行動の根底にある。

ヒロシが自らの行動理由を自己決断し、キヨシがそれを忠実に支持する関係性は、彼らの友情におけるバランスを巧みに描き出している。
ヒロシの本質的な感性と情熱的な先導に、キヨシが慎重かつクールな視点を加えることで、二人の個性がうまく融合し彼らの間の調和が保たれているのだ。
このダイナミクスは、二人が共に困難に立ち向かう際に効果的なコンビネーションを展開し、物語の中での彼らの行動がスムーズに進行する要因となっている。
また、この一連のやり取りは彼らの揺るぎない強固な絆とお互いに対する深い尊敬を表しており、物語を通じて彼らの友情がいかに深いものかを読者に感じさせる。
ヒロシとキヨシの関係は、彼らが互いの強みを理解し、それを互いに尊重することでどんな状況でも一致団結して前進する力を育んでいるのだ。

最終巻でヒロシが「オレとキヨシはいつだって拓ちゃんの味方よ」と言った一連のシーンを振り返ったときに、佐木先生はヒロシの個性に焦点を当てた。
この事は、異なる背景を持つ人々でも互いを理解し尊重することでどれだけ強い絆を築けるかを示唆しているように感じられた。
劇的なエピソードはなくとも、日常の中での純粋な心遣いや理解がきっかけで、最も強固な絆を生むこともある。
この関係性は友情の本質を深く反映しており、読者に自己の人間関係を見つめ直す機会を提供している。
「漫道コバヤシ」でこのエピソードを追体験することで、『特攻の拓』のキャラクターたちのリアルな人間ドラマが浮かび上がり、作品の深みを再発見する機会となった。

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