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ルートイン開発訴訟の争点(その5)

本来は、土地利用基本計画の立地基準に適合していない開発行為を、「ただし書」を適用して市長が例外的に許可する。その場合の判断基準は『「開発行為等に関する立地基準」の運用に関する指針』(平成26年11月、篠山市)の「3.開発行為等に関する立地の基準に適合しない場合の個別判断」に定められています。本件開発行為の許可は、この「指針」の判断基準に整合しているでしょうか。

今回は、市民への説明と合意形成について考えてみます。

事前協議に先立つ事業者による説明会

開発許可手続きを定めた丹波篠山市まちづくり条例では、事業者は、開発許可の事前協議に先立って、「地域住民」(今回の開発では「事業区域の隣地境界線から水平距離300mの範囲において、住所を有する者、事業を営む者、土地若しくは建物を有する者及び当該地域を代表する者」)に対して、「開発行為等の概要について説明しなければならない」としています。

このため、事業者は平成31年2月に、地域住民向けの説明会を2回開催したのですが、これには何点か問題がありました。
1)事業者は説明が必要な対象者(住所を有する者、事業を営む者、土地若しくは建物を有する者)について十分な調査を行わず、自治会に依頼して回覧板を回しただけなので、対象者に十分な周知ができていません。特に「事業を営む者」、「土地若しくは建物を有する者」には案内が届きませんでした。
2)日時を特定した1回だけの説明会ですから、開催を知っていても都合で参加できなかった「地域住民」も多かったと考えられます。
3)不思議なことに、説明が必要な9自治会のうち、4自治会だけを対象として説明会を開催しました。

そして、説明会に出席した住民が特段の反対意見を述べなかったとの事業者からの報告を根拠として、市は「地域住民は賛成している」と判断しているのです。

事前協議申出後の市による事業説明会

まちづくり条例では、開発許可の「事前協議があったときには」、市は「市民を対象とした説明会を開催」し、事業者は「これに協力しなければならない」としています。

本件開発行為の事前協議申出書は平成31年3月25日に提出され、これに伴い、令和元年5月14日に市が主催する市民説明会が開催されました。そのなかで、建築基準法や景観条例等への適合性について説明があったのですが、一番大切だと考えられる土地利用基本条例に基づく立地基準への適合性(立地基準の原則に適合していないこと)については、市からも、事業者からも説明がありませんでした。

私は、その場で立地基準違反であることを指摘しました。そして、質疑応答のなかで、立地基準については、市民に対して(市議会に対しても)、一切説明がなされて来なかったことが明らかになりました。私は、翌日までに意見書をまとめて提出することを告げ、翌日の5月15日に意見書を提出しました。

立地基準に適合していないことを伏せたまま、市民に対して重要な事項を説明しないまま、市は「市民への説明は終わっている」と主張していたのです。その点について、私は意見書のなかで、まちづくり条例に基づき、再度、市民説明会を開催して説明するよう要請しました。説明会が開催されないので、何度か市役所の窓口に要請に行きました。私も世話人のひとりとなって設立した市民団体「丹波篠山の美しい風景を創る市民の会」も、7月8日付で市民説明会の開催を求めました。

そして、本当に驚いたのですが、市は、私と市民団体の市民説明会開催の要請を無視したまま、市民に対して立地基準について説明をしないまま、9月3日に事前協議の回答書を交付したのです。

市が市民説明会を開催したのは10月2日でした。これは、まちづくり条例に基づく市民説明会ではなく、任意の説明会です(正規の市民説明会には事業者が参加することになっていますが、この会には出席していませんでした)。事前協議が完了した段階では、市民の意見を事前協議の回答書に反映されることができないので、説明会の意味がないのです。

10月2日の市民説明会は紛糾しました。建築面積が問題となっている案件で、建築面積の計算が間違っている始末。事前協議を受け付けた3月の段階では市長が立地基準のことを理解していなかったことも明らかになりました。それでも指摘を受けたのだからもう一度考え直せば良かったのです。立地基準に適合しないことを気づかないまま、2年以上に渡って開発許可に関する協議や手続きを進めてきて、もう後戻りできないと考えた、というのが実情でしょう。

指針への整合と法的な瑕疵

さて、指針に「配慮事項⑤ 地域住民の意向への配慮」があり、「当該開発行為等について、周辺住民や近隣住民等の地域住民に十分に説明し、地域住民の理解と積極的な賛同が得られる開発行為等であること。 」と規定されています。指針との不整合は明らかです。

ただし、上に書いたことは、この指針の判断基準に照らしてどうかという範疇ではありません。まちづくり条例に基づく手続きそのものに瑕疵があったということになります。


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