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提訴の理由

2019年10月28日(月)、神戸地方裁判所に丹波篠山市を提訴しました。篠山城下町のJRバス跡地におけるホテルルートイン建設について、開発許可の差し止めを求めるものです。

丹波篠山市には、全国でも稀で先進的でキメ細かい土地利用コントロールを定めた条例があります。平成26年に施行された土地利用基本条例です。その条例に基づき定められた土地利用基本計画において、城下町では、建築面積が1,000㎡以上の商業・業務施設の建設を原則として認めていないのです(これに対して、今回の開発計画の建築面積は1,550㎡)。「原則」ですから例外規定はあるのですが、例外を認めるような積極的な理由は見当たらず、市の決定は裁量権の逸脱または濫用に当たる、と原告の私は主張しています。

旧山陰街道がカギ型に折れ曲がりながら篠山城下町を抜けていくのですが、その角々に配置される寺院が比較的規模が大きな建物で、他は小規模な町屋、武家屋敷などが粒立ちして城下町の空間が構成されています。ですから、寺院のサイズを超えるような高さ(基準では12m)、建築面積(基準では1,000㎡)の建物は土地利用秩序の面でも、景観形成の面でも認めていません。

開発予定地

JRバス跡地の開発は、丹波篠山の未来に関わる重要な問題であり、拙速に開発手続きを進めることは適当ではありません。他の開発案としては、①城下町のフリンジ駐車場(外縁部で観光の駐車需要を受け入れる)として修景整備する案、②沿道景観に配慮した適正規模の施設整備として一定規模の駐車場も確保する案、③周辺の土地建物も含めた再開発事業として城下町の東ゲートゾーンを整備する案などが考えられます。

これらの案に、最近閉鎖した市の宿泊施設「ささやま荘」の再生事業も組み合わせること、ユネスコ創造都市としての拠点機能を組み入れることなども含めて多面的に検討するべきです。ビジネスホテルクラスの料金の宿泊施設が必要なのであれば、これらの活用案のなかで実現が可能でしょう。

基準を超える大規模な施設を例外的に認めるケースとしては、町並み景観の向上に寄与するような分節化されたファサードのデザインが採用されている場合、斬新であっても城下町の未来を拓くようなクリエイティブなデザインである場合などが考えられます。

こうした多様なアイデアを、市民や専門家も交えて相当の議論をして、計画を練り上げていくのです。城下町全体のなかで、この場所にどのような価値を植え付けるかということも考える必要があります。それが、美しい町を創るということです。

城下町開発構想

それが今回は、高さ制限は守っているものの、建築面積が基準を超えています。屋根形状や色彩などについて景観配慮を行なっているものの、大規模でのっぺりとした壁面、経年変化でみすぼらしくなる材料の使用、隣接する重要伝統的建造物群保存地区の街並みを超える高さ、といった計画内容になっています。

そして市は、まちづくり条例に定める市民参加の手続きを経ず、市民説明会の開催要請を無視し、まちづくり審議会等における専門家の反対意見を無視して、開発許可の手続きを進めてしまいました。もう、裁判でしか開発を止めることが出来ない状況になっています。

105室の客室に対して敷地内の駐車場は50台の計画であり、周辺環境への配慮が不十分ではないか。開発予定地は、現在、イベント時の駐車場として利用されているが、これが無くなると城下町全体のフリンジ駐車場の配置バランスが崩れるではないか。そのことは都市計画マスタープランに整合しないではないか。

近隣に、市の第三セクターが指定管理で運営する「ささやま荘」があって、この8月末に指定管理期間の途中で閉館したのですが、この施設の再生と一体的に検討するべきではないか。総合計画にも宿泊特化型ホテルを誘致することを支持する記載はないではないか。

そもそも拠り所とする観光ビジョンが策定されていないではないか、どのような観光地にしたいのか、どのような顧客をこの町に招きたいのか、そしてどのようにして町の未来を描くのか。

例外規定適用の際に用いる「運用指針」と、上述のような疑問点とを照らし合わせると、市が今回の開発計画を例外規定適用とすることは裁量権の逸脱または濫用であると考えます。

さて、提訴から2週間が経ちました。四面楚歌かと思いきや、私の周りの人たちは私の行動を好意的に受け止めてくれています。観光で城下町を訪れた方にルートイン建設の話をすると、「有り得ない」「もったいない」と言って、大変驚かれるのだそうです。

これを読まれた方は「これだと勝てそう」と感じられると思いますが、実は、一般に、裁判において行政の裁量権の幅はとても広く捉えられていて、この手の行政訴訟はほとんど勝ち目がないのです。このマガジンでは、この訴訟の意味や消息を読者の皆さんにお伝えしていきたいと思います。

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