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ルートイン開発訴訟レポート(1)

令和2年7月16日(木)に、神戸地方裁判所で第4回の口頭弁論がありました。これまで、原告からは訴状を含め5通の準備書面と104通の証拠証明書を提出。被告からは答弁書を含め4通の準備書面と17通の証拠証明書が提出されていますが、今のところ際立った反論はありません。次回の第5回口頭弁論は10月1日に予定されています。

私たち原告は、本件開発に伴う建築物そのものが丹波篠山の良き資産となるものではない、城下町の町並みや景観の価値を高めるものではない、そもそも条例で定めた立地基準に違反している、これを特例で認めれば歯止めが効かなくなる、未来に影を落とす、従って開発を認めるべきでないと考えています。

具体的な計画内容としても、駐車場不足(客室数105室とスタッフ50名に対して敷地内に41台しか計画されていない)や交通混雑、市の第三セクターが営業してきた「ささやま荘」が廃業したことや旅館・ホテル業の経営不振による廃業が続いていること等々、これらに対する分析や評価が何ら実施されていないので、特例を適用する条件が整っていないと主張しています。

しかし、このレポートでは、こうした条例違反かどうかという弁論を離れて、これまでの書面準備のなかで分かってきたことを、皆さんにお伝えしたいと思います。市の行政運営の基本姿勢に関することです。

1.基本合意書が存在していた

平成30年4月9日に、JRバス・ルートイン・市は3者間で基本合意書を締結しています。「ホテル建物建設等のために……許認可の取得に向けて相互に協力する。」と約束しているのです。事業者が「開発行為等事前協議申出書」を提出したのが平成31年3月25日ですから、開発手続きに入る1年前に市は開発を許可する意向を固めたようです。

被告(丹波篠山市)は、本件開発はルートインから申し出があったもので、市が誘致したものではないと主張していますが、ルートイン会長の申し出を喜んで、市は開発許可に前のめりになったのです。

実際に市長自ら、手土産持参で何回も長野や東京のルートイン本部を訪問しています。固定資産税の減免、水道代の減免などの優遇措置を講じることも約束しました。これらは民間の開発申請を粛々と審査する行政が行う態度ではありません。

こうして「開発ありき」の姿勢となった結果、都市計画法や建築基準法に抵触する計画内容の容認、市条例で禁止されている市有地の無償譲渡、そして私たちが提訴しているまちづくり条例違反(手続き違反)、土地利用基本条例違反(立地基準違反)に至りました。

2.市長は立地基準違反であることを理解していなかった

基本合意書を締結した時点(平成30年4月)で、市長は、本件開発が土地利用基本条例に違反すること(立地基準に不適合)を気付いていませんでした。事業者が開発行為等事前協議申出書を提出した時点(平成31年3月)でも知りませんでした。令和元年5月の市民説明会で、私が立地基準違反を指摘したのですが、その報告を受けて市長は初めて知ったようです。
(担当部局は当初より気付いていましたが、いずれ市長が特例で認めることだと忖度し、意見しなかったとのことです。)

ここで初めて気付いたのであれば、この時点で軌道修正をすれば良かったのです。しかし、ここまで積極的に誘致を進めてきた経緯から、被告は強引に開発許可手続きを進めてしまいました。

3.隣接する住民の声さえ聞いていない

私たち原告のところに、住民の方から意見が寄せられるようになりました。条例で定められた近隣住民(開発地から15mの範囲)の方々です。現時点で、近隣住民のうち約半数の世帯(8名)が開発反対の意見書を裁判所に提出しており、うち1名は原告に加わることになりました。

意見書には、説明を受けていない、説明会の案内もなかった、日陰になる、眺望や景観が悪くなる、日常生活への影響が心配、開発地南側の生活道路(幅員2.3m)の拡幅を要望しているが市は無視している、ささやま荘を廃止しておいて新しいホテルを認めるのはおかしいなどの意見が書かれています。

事前協議に先立って、事業者が自治会単位で説明会を開催したようですが、1回だけの説明会ですから出席できなかった住民も多いと思います。そもそも説明会の案内が届いていないという方もおられます。開発に際して隣接する住民に丁寧に説明することは当たり前ですが、事業者と市はこれを怠っていたのです。

条例で定める周辺住民(開発地から300mの範囲)についても推して知るべし。事業者が説明会を開催したのは対象となる9自治会のうち4自治会だけでした。しかも説明会の案内が届いたのはそのうち一部の住民でした。

4.事実とは異なる説明を繰り返してきた

本件開発が立地基準に適合していないこと、市長の特例として許可するものであることについて、被告は市民に対して説明をしていませんでした。市長はその事実を知らなかったのですし、担当部局は伏せていたのですから、当然そのような事態になるかと思います。私が指摘してからも公式な説明をしないまま開発手続を進め、事前協議回答書を交付してしまいました。

また被告は、市民説明会やまちづくり審議会において、地域住民は合意していると説明してきました。これは3で書いたとおり事実ではありません。

さらに被告は、景観分野で第一人者の西村幸夫教授から高い評価を得たと説明しています。西村教授に伺ったところ、それは事実誤認であるとの「意見書」をいただきました。被告は先生の発言の都合の良いところだけ拾い集めたようです。
先生は「意見書」のなかで、「安っぽいものになるだろう」「丹波篠山の価値を高めるよう多面的な議論が必要」「そもそもこの場所にビジネスホテルを誘致することが不適切」と述べられています。

以上は例示であり、このような虚偽の説明を挙げはじめるとキリがありません。

5.市民が提訴する権利を認めない

被告によると、まちづくり条例に基づく市民への説明や近隣住民の同意などの手続きは、広く市民全体の合意形成を図るものであって、個々人の意見を聞くものでない。よって、私たち原告に訴訟を起こす権利はないとのことです。
これでは市が間違えたときに、誰もそれを咎められません。

丹波篠山市の最高規範である自治基本条例は、「市内に居住する者、市内で働く者、学ぶ者、活動するもの及び市内で事業を営むもの」を「市民」と定義したうえで、「市民は、まちづくりの主体であり、まちづくりに参画する権利を有する」と規定しています。
被告はこれを否定しているのです。

6.市民の声を封じ込める

私は、本件に関する「まちづくり審議会」を傍聴していた際に(その時にはまだ提訴の考えはありませんでした)、意見書を提出したことについて、市長から名指しで批判されました。市長は、発言権のない傍聴者を一方的に批判しても良いと考えているようです。

また、市長は、ホームページの「市長日記」や広報誌を使って、私に対する攻撃を行いました。市が実施することに反対意見を言う者があれば、その個人名は公の書面で晒してもよいと考えているようです。丁寧にフルネームで、ルビまで振ってありました。

ここに、市長の「市民の声を封じ込めようとする姿勢」が見て取れます。市民参加を実現すべく意見表明をした市民に対して個人攻撃するようなことがあれば,他の市民は意見することに委縮してしまうでしょう(これは他の事案でも見られることですし、体感された方も多いと思います)。

まとめ

私たち原告は、市長特例として開発を認めるだけの条件整理ができていないとして、開発許可の差し止めを求める訴訟を提起しました。
しかし、以上のとおり、それ以前の問題であることが明らかになってきました。市長の独善的な行政運営が問われなければならないと考えています。次号からは上に書いたことを、より詳細に報告したいと思います。

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