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ルートイン開発訴訟の争点(その4)

本来は、土地利用基本計画の立地基準に適合していない開発行為を、「ただし書」を適用して市長が例外的に許可する。その場合の判断基準は『「開発行為等に関する立地基準」の運用に関する指針』(平成26年11月、篠山市)の「3.開発行為等に関する立地の基準に適合しない場合の個別判断」に定められています。本件開発行為の許可は、この「指針」の判断基準に整合しているでしょうか。

今回は、既存のホテル営業との関係について考えてみます。

令和元年11月2日の市民説明会で、市内でホテルを経営されているAさんが意見を述べられました。この意見のなかに3つの重要な論点が含まれていましたので、以下に紹介します。

1点目。市内で30年間宿泊業を営んでいる。開発について最初に相談を受けたのは事実だが、賛成の訳がない。昨年から今年にかけての1年半で3軒の旅館・ホテルが廃業した。今、丹波篠山市の客室数は約300室。それが100室増える。既存の事業者も企業努力は必要だが、そのリスクを考慮しないのはナンセンスである。供給過多で、既存店も含めて首の締め合いになることは目に見えている。昔から丹波篠山で多くのゲストを迎えて、多くの丹波篠山のファンを作ってきた宿泊施設がこれ以上なくなるのは困る。

2点目。ルートインは50名を雇用すると言っているが、どこに50名もの人材がいるのか。掃除する人がいないと泊まれない。それが篠山の現状である。

 3点目。客室数105室に対して駐車場は60台の計画。ホテルスタッフの駐車場も別に必要である。私のホテルは篠山口駅に近いが、それでも1室あたり1台の駐車場が必要である。この計画では駐車場が足りないことを市は理解しているのか。

このうち3点目は(その3)で検討しましたので、今回は触れません。

まず、1点目の地元の同業者との競合の問題。
一般に、地域の商圏に外部から新規店舗が参入することの是非、それを規制することの是非については、議論があるところです。地元の既存店舗の立場に立てば、新規立地を規制することに理がありますが、自由主義的な市場経済の原理に立てば、新規参入を拒否する理由はありません。ただ、同じことを地域の企業が実現できるのであれば、地域の企業で地域経済が循環する町をつくりたいところです。

では、この点については「指針」の判断基準はどうなっているのでしょうか。
指針に「配慮事項③ 産業の発展・振興への配慮」があり、「商業系の用途にあっては、既存の店舗の事業とのバランスを最大限考慮したものであること。」と規定されています。
市も事業者も、既存店舗と競争するのではない、新規需要を呼び込むので影響はない、と説明して、外部からの新規参入の是非の議論そのものを避けていますから、少なくとも「既存の店舗の事業とのバランス」を「最大限考慮した」とは言えないでしょう。

また、本件開発許可の事前協議申請が行われたのと同時期に、開発地近くに市が所有している「王地山公園ささやま荘」(旧国民宿舎)の指定管理者が経営難を理由に撤退しました(令和元年8月末)。驚くことに、現在、市は、ホテルルートインの許可手続きを特例で進めながら、ささやま荘の新規事業提案を募集しています。異様で奇妙な事態と言うしかありません。「最大限の考慮」はどこにあるのでしょうか。

なお、私も世話人のひとりである市民団体が本件開発行為のあり方に意見を述べていることに対して、市長は市の広報誌等で「NIPPONIAの関係者が反対」と繰り返し述べて、競合他社が反対しているとの印象操作を行ってきました。
まず、これは事実ではありません。そして、篠山城下町ホテルNIPPONIAとホテルルートインでは、コンセプト、顧客層、価格帯が全く異なっており、営業のうえで競合するところはありません。

次に、2点目のスタッフ雇用の問題。
地域活性化のためには雇用創出が必要であると一般に考えられていますが、問題はそう簡単ではありません。有効求人倍率が高水準である局面(人手不足)での新規雇用は必ずしも地域経済の活性化につながりません。今回のようなホテルスタッフの大量募集は、Aさんが指摘したように、地域人材の奪い合いになります。
地域活性化のためには、これまで地域になかった種類の雇用、その土地でしか実現できないクリエイティブな仕事を創出することが重要で、こちらであれば若者の移住定住や内発型の産業創造に繋がると考えられます。

有効求人倍率

さて、「指針」の判断基準として「配慮事項③ 産業の発展・振興への配慮」があり、「市民の雇用創出や次代を担う世代の定着に強く寄与するものであること。」
と規定されています。今回の開発が「次代を担う世代の定着」に「強く寄与する」とは言えないでしょう。

以上、例外として開発を認める根拠はどこにもないと考えます。

既存店舗とのバランス




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