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『将棋図巧化』総集編


 以前詰パラの読者サロンに不定期連載した将棋図巧化(しょうぎずっこけ)を採録しました。ブログへの連載が終わったので、総集編としてここにまとめておいておきます。


将棋図巧化第1番 詰パラ1980年12月号より

 右図はわが風家に代々伝わる「将棋図巧化」の第一番である。 まずはトックリ御鑑賞下さい。

作意は……

第1番


5八角(イ)同銀成、46飛成、5二香、同角成、同歩、2六香、1六玉、23香成、2五玉、2六龍、3四玉、2四龍迄13手詰
と推定され、傑作の名に恥じないものである。
 ところが(イ)3六歩の妙手があり、以下不詰の疑問局、近眼であった作者の見落としであろう、というのが今までの経過。
 しかし、今回小生の研究により(イ)3六歩にはそれを上まわる妙手「4七飛生」があり、これにて玉万打歩詰の禁手により反則負、変化はキレイに割り切れている事が判明した。この4七飛生は現在に於ても「新手」であり、それを変化にかくすあたり作者の偉大さがうかがえる。
 第二番の研究報告が待たれるものである。

将棋図巧化第2番 詰パラ1981年12月号より

 下図はわが風家に代々伝わる「将棋図巧化」の第二番である。
 

第2番

従来の研究では—
32桂成、同玉、31桂成、同玉、33飛左成以下7手詰不完全作とされていた。
 しかし今回、小生の研究により33飛左成に対し「32王合」の妙手があることが判明した。
攻方の王さんは「後手の持駒:残り全部」の中に含まれていたのだ。(どうりで見当たらないと思った)
人質を盾に延命を計ろうというわけである。恐れ多くも己れの王将を取るわけにもいかず、以下–
42角成、21玉、22歩、同王、31龍、同王、
22歩、同玉、33飛成、21玉、22歩、同王、
31龍、同王、33桂、22玉、34桂迄23手詰となる。

 清貧図式でもあり、後世に残る傑作であろう。

 この研究は、誰もが心の片隅に抱く「うちの王サンは何処?」という疑問に答えるものである一方、多くの既発表作に「合駒見落の不詰」という烙印を押すものである為、発表をためらった。しかし、平和と真理を愛する詰棋人として、この図を闇に葬ることはできなかった事をお許しください。


上は詰パラの読者サロンに40年以上も前に投稿したものであるが、つい最近、余詰指摘をいただいた。

  1.  初手から14桂、同歩、32桂成、同玉、31桂成、同玉、33飛左成、32王打、42角成、21玉、13桂迄

  2.  7手目から42龍、21玉、22歩、同玉、33飛成、21玉、22歩、同王、31龍右、同王、33桂迄

 こんな投稿を覚えていてくれて、しかも検討までしてくださったのはかの神無七郎さん。さらに修正図まで作ってくださった。ありがたやありがたや。

第2番修正図

将棋図巧化第3番 詰パラ1984年12月号より

 下図はわが風家に代々伝わる「将棋図巧化」の第三番である。

第3番

 詰図に於る玉方の持駒の簡便な表現として「残り駒全部」というものがあります。とてもうまい表現でして全駒図式の場合、実際には玉方持駒なしなのですが、数学的には間違っていません。

 とすれば攻方の持駒が飛車三枚であったとしても、玉方の持駒に飛車マイナス一枚があると考えれば辻褄があうのですが……。

51飛、43玉、54金、42玉、43金、同玉、
54飛成、同玉、52飛、43玉、42金、同歩、
54飛成、同玉、51飛、同馬、44迄17詰。

 短編名作選の二上作、長谷川作を合成したような妙手順ですね。本図には近代詰将棋の観点からすればもう一つの問題点(42桂)がありますが、これについての見解はまたの機会に譲ります。

将棋図巧化第4/5番 詰パラ1985年3月号より

 下図はわが風家に代々伝わる「将棋図巧化」の第四番である。


第4番

46馬、同玉、24角成、35角合、同馬、56玉、
46馬、同玉、13角、35角合、同角生、56玉、
65銀、同香、57歩、45玉、56角迄17手詰。

 これが我家の秘伝古図式の第四番の近代的解釈による作意です。

 と書けば、恐らく読者の皆様「13角に対して24歩合とすればどうなるのか?」
と質されることでしょう。ごもつとも。24歩合こそが原作者の作意と思われるのです。

(推定作意)13角以下、24歩合、同角成、35角合、同馬、56玉、46馬、同玉、13角、24歩合、同角成、35角合、以下145手歩16余る。

角合18回のハガシ趣向(但し玉方の盤面配置駒をハガすのではなく持駒をハガす点が特異)本図の正体でした。

 第五番は図面のみ紹介いたします。百手を越す変化を秘めた玄妙な三手詰です。


第5番

将棋図巧化第6番 詰パラ1985年6月号より

 箪笥の奥でみつけました古図式を不定期ですが紹介させていただいております。今回の図は従来「不詰」「15歩攻脱落か」といわれていたものです。


第6番

 43歩は初手44角の余詰に対処した配置であろうというのが従来の見解でした。しかし、15歩では11角以下の三手詰。あまりにも初心詰であり、小生は疑念を抱いておりました。

 先日バックナンバーを読んだ際に田宮大兄の「光角の旅」見つけ、ついに長いこと抱いていた謎が解けました。この図の角は光角なのです。なお、光角とは盤端でキキが反射する角のことです。

32金、23玉、78角まで3手詰。

 43歩の配置は、初手より32角成、同玉、87角、33玉、34金以下の余詰に対処した駒だったのです。一枚の角による両王手は近代詰将棋では味わえない古き良き趣ですね。

将棋図巧化第7番 詰パラ1985年7月号より

 風家の蔵の奥から発見されたこの古図式『将棋図巧化』は、まだ将棋のルールも未確定の時代に作られたものらしく、作意も記されていないのでその解明は難解至極。多くの研究者が挫折してきた歴史を持っています。本図も長いこと不詰の烙印を押されていたものですが、小生が苦心の末に作意を発見したものです。


第7番

 本図は詰将棋のルールがまだ確定されておらず、変動を含んだ曖昧な時代に作られたということを理解しなければ解明は不可能です。「二歩禁」ルールが決められた際に、「自らの歩の配置が二枚になれば負け」と解釈されていた地方もしくは時期があったのではと小生は気づきました。

 現在玉方の歩の配置は三枚。これが二枚になったら負けなので、攻方は王手しながらこの歩を取る、玉方は取らせないように応じるという攻防が展開されるわけです。

99飛、同角成、28馬迄3手詰。

 39飛では29銀成ぐらいで詰みません。しかし作意のように99飛と王手をすれば、これを同歩成とはとれません。なぜならその瞬間に玉方の歩の配置が二枚になるため「二歩禁」により許されないからです。不成と取ることも「利きのない駒の禁」で許されません。仕方なく同角成となり28馬で詰みというわけです。

 2手目どこかに合をすればどうなるのか。例えば29銀成としてみましょう。
以下18馬、同玉、98飛、88歩合、同飛、78歩合、…48歩合、同飛迄歩6余り。

 手余り容認の時代ゆえ、この幻想的な歩の連合こそ原作意かもしれません。


追伸:「将棋図巧化」は「しょうぎずっこけ」と読みます。


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