『戦略の要諦』(リチャード・P・ルメルト)
ビジネスの世界では「戦略」という言葉が好きな人が多い。しかしほとんどの場合、「戦略」という言葉を使うことで何を言いたいのかは異なっていることがある。本書は「戦略」とは何であるかを語ると同時に、いや、それ以上に「戦略」とは何ではないかを語っている点が興味深い。
戦略はゴール(目標)設定ではない
組織の戦略を立てようと集まった面々が、まずは5年後に達成するゴールを決めようと対話している姿は、誰もが創造できるだろう。
しかし、ルメルトは、明確に戦略は目標とは異なると断言する。戦略と目標は関連しているが、目標を達成するために戦略があるわけではないのだから、目標を最初に決めてはならない。
なぜ目標を先に決めようとするのか。おそらく、あるべき姿 - 現状 - 解決策という思考プロセスがビジネスで幅をきかせているからだろう。
しかし、戦略はあるべき姿から逆算する(バックキャストする)ものではない。戦略は、自らが完璧にコントールできない環境との相互作用で決まるからだ。それゆえ、戦略家は、目標ではなく、自らが置かれた状況をよく見なければならないのである。
戦略はプランニング(計画)ではない
コンサルティング・ファームで「中期経営計画」の策定の支援が「戦略ケース」と呼ばれて花形と目されることがある。
しかし、戦略はプランニングではない。なぜならば、重要な課題を解決しない計画はいくらでも作成することができるからである。また、計画と実行を分けて思考していることにも問題がある。戦略をプランニングだと誤解してしまうと、地に足のついていない妄想になる傾向にあるからである。
戦略とは核心(Curx)の攻略である
それでは、戦略とは何か。ルメルトは、戦略を「組織の運命を決するような重要かつ困難な課題」(=核心:Curx)の解決であると考える。戦略によって解決する課題は大きく3つの種類に分けられる。すなわち、(1)選択の課題、(2)デザインの課題、(3)途方もなく困難な課題である。上記のうち、(3)途方もなく、困難な課題とは何か。いくつかの特徴をルメルトは挙げる。
問題の定義が明確にできない。
複数の競合する目標がある。
複数の解決策が選択肢として考えられる。
取ることができる行動と結果の関係に不確実性がある。
例えば、マーベルが1997年に倒産し、1999年に再出発したときの事例がわかりやすい。ルメルトによれば、「かろうじて名の知れていたスパイダーマンとX-MEN以外をどのように価値あるものに生まれ変わらせるか」が核心をそす課題であった。そして、マーベルがとった戦略は「キャラクターを『マーベルグループ』としてまとめて大きな価値を作り出すこと」であった。
マーベルの事例を見て明らかな通り、財務的な目標は議論の本筋には関係がない。また、計画は戦略ができたあとに作成されるものであって、計画そのものが戦略なわけではない。しかし、数多くの会社では、財務的目標が最初に立てられ、それらが事業部に割り振られ、各事業部が計画を創るという作業に没頭している。そこには目標と計画はあるが、戦略はない。
戦略立案(=核心の攻略)の仕方
最後にルメルトが語っている「核心」の攻略の仕方をまとめておく。ここではあくまで考え方に絞ってまとめる。ここで挙げたものよりも、より具体的な手法は本文に譲る。どれも言葉にすると平易であるが、基礎基本だからこそ、組織としてできているところは少ないだろう。
組織にとって決定的に重要であるとともに、現実的に取り組み可能な課題(Addresible Strategic Challenge: ASC)を探索する。決定的に重要だが、手がつけられないように感じたら、解決可能なピースに切り分けることや手がつけられなくなっている要因を除けないかを検討する。
最大の利益が得られるところ(「勝てる」ところ)にフォーカスする。組織の強みがあるところにフォーカスするのではなく。
フォーカスしたところに対応して、役割・影響力・リソースの変更や転換を行う。そのための権力基盤を構築する。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?