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砂絵 #14_23-24

「歩き回ってもらえば、それでいい。人工現実の中を」
「歩き回る?」
「そう。影を掴むこともできる。夏の海辺。陽の下で掌を広げると、砂浜に手の影が映る。その影で砂は掴むことはできない。現実には。でも、この人工現実の世界ではそれができる。始めよう」
「ええ。あっ、急に視界が明るくなりました。テストパターンが見えます」
「はっきり見える?」
「少しぼけて」
「調整しよう。グローブを持ち上げると、視界に黒い手の影が見える」
「ええ」
「その影で、視界の左端にあるダイアルを掴む。ボリュームを回す要領で、調節してみようか。映像がはっきり見えるまで」 
「こんな感じで?」砂絵は、ゆっくりと左手を宙に浮かせ指先を動かす。 
「それでいい。次にダイアルを引き上げてみよう」
「こんな感じで?」
「そう。人体図が映ったかな?鍼灸図みたいな」
「ええ」
「点滅する箇所ごとに、上半身を動かしてみて」  
 砂絵は、ぎこちなく上半身を動かす。人体図も同じように動き始める。 
「問題ないようだ」
 仮想現実の世界に、遊園地の全景が浮かんでいる。ゴーグルの視界。観覧車から見下ろした遊園地の全景が、いっぱいに拡がっている。
「観覧車からの眺め」 
「行きたい場所を見つめる。そこの視界が、パッと開ける」
「ジェットコースターへ」砂絵はゴーグルを左右に振る。砂絵の視界が、ジェットコースターへ移動する。