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ポジティブな選択肢

僕はその前日Perfumeのライブを観に東京ドームへ行っていた。2月に入ってからの新型コロナウィルス感染症の報道も加熱してきていて、正直行くかどうか迷ったけどい思い返すとまだ感染のリスクは然程現実味を帯びていなかったように感じる。
しかしその15時間後に僕は感染のリスクを最優先に考えることになった。

1年前の2020年2月26日、卒業生作品展の搬入が始まってから僅か2時間後に開催中止が決まった。
僕が働くデザインの学校は表現の場を設けることよりも「死なない」ことの方が大事であると判断したわけだ。
いや、判断ではなくて再確認だったのかも知れない。

書き始めてすぐだけど、話は少し横道にそれる。
僕自身は30年近く表現の現場に関わって来ているし、誇張でもなく、死を恐れることよりも表現する欲求を優先して判断してきた場面は幾つかある。誰よりも高いところへ、誰よりも深いところへ、誰も知らないところへ、誰も見たことなもい場所へ、とにかくヤバイ場所へ、そういう所へ行って写真を撮りたいと考えていた。

閑話休題
デザインを含む表現は、何かを幸せにするし、何かを傷付ける。美しいことを伝えるし、醜いことも伝える。そうやって観る人の心を震わせるし、新たな一歩を後押しする。でけど決して「死」に向かって進んでは行けないということを1年前に再確認したわけだ。

もちろん中止の決定には当事者である学生たちだけでなく私たち教職員も酷く落胆した。
目の前で呆然とする学生たちにかける言葉も無いし、してあげられる事だってほとんどなかった。
準備された白い壁や床には中途半端に飾られた卒業制作が並んでいた。
その日から私たち教職員は卒業してゆく学生たちに何をしてあげられるのかを考え始めるのだが、逆に私たちは学生たちに勇気付けられることになる。
SNSで #桑沢2020 #かってに卒展 が盛り上がりを見せる。
https://twitter.com/hashtag/%E6%A1%91%E6%B2%A22020?src=hashtag_click
非常事態の最中、軽やかに自分たちで発信を続けてゆく。実際彼らのアクションは全国放送で紹介されるところまで拡がった。

一方、私たちは安全を優先しながら幾日にも分散して学生の作品を展示しては撮影をすること繰り返して、約1ヶ月後に(希望者のみの)オンライン展示として卒業生作品展を発表をした。
https://www.kds.ac.jp/sotsuten/2020/works/

また当時の所長が、このオンライン展示の準備と並行してコロナ禍が収まるであろう頃に学校校舎を使って「夏に代替展示の卒展をしよう」と学生へメッセージを残した。
未曾有の状況の中で社会への一歩を踏み出す学生たちの背中をおす一言だったと思う。
4月になり僕は前委員長から「夏の代替え展示」と共に卒業生作品展実施委員長を拝命した。

to take small steps everyday in order to (new)ordinary life.

こうして今年度の私たちの仕事は<2つの卒展を開催すること>となった。
2年続けて学生たちに悔しい思いをさせたく無いし、当然僕もそれを望んでいない。

しかし開催中止となった卒業生作品展<桑沢2020>の夏の代替え展示は、思ったようには進まなかった。私たち教職員は慣れないオンライン授業をすることでかなり疲弊していたし、ご存知のように政府は大学をはじめとする教育機関への適切な判断は行わず、夏が近づいても私たちが大手を振って「学校で展示をします!」と宣言できる雰囲気にはならなかった。そもそも前期の間は学生は誰一人学校へ入る事さえ許されなかったのだから、振り返って見れば夏の展示は非現実的だったということになる。
ところが素晴らしいタイミングで、同じ渋谷の地で長年カルチャーを牽引してきた西武渋谷店が「百貨店を会場に展覧会を一緒にやりましょう」と声を掛けてくれた、まさに「渡りに船」だ。
もちろんこの様な形式の展示は学校としては初めてだし、そもそも卒業生たちが百貨店で展示することを望んでいるのかも判断できなかったが、やると決めてからはかなりスピード感を持って対応していくことになった、教育機関と百貨店との判断のやり方に戸惑うことも多かったが、とにかく卒業生たちに胸を張って「卒業した」と感じて欲しかったので、結果的には委員会のみならず学校全体を巻き込んで教職員総動員で対応した。
結果的には「秋も深まった頃の代替え展示」となりはしたが色々な意味で多くのインパクトを残すことができたと感じている。
https://study.bijutsutecho.com/archives/1079

2019年度の卒業生作品展を「秋も深まった頃の代替え展示」として開催するのと並行して、今年度(2020)の卒業生作品展の準備も行ってきた。委員会が動き出した当初に私が考えていたのは、この先の見えない状況下で卒業生作品展というゴールをどのように設定するのか?ということだった。
中止の判断をした2019年度とそれまでに当たり前のように開催してきた卒業生作品展の間には様々な判断の可能性が存在していた。

小さな環境だがその中でさえ当然様々な意見や考え方がある、私たちデザインの学校ができる選択とはなんなのか?
学校としての判断もあるが私が個人的に考えていたのは、何れにせよ最悪のパターンが訪れる可能性は最後まで付きまとうので、そうならば最悪にも対応できる準備をすること、そしてその時に「例えどのような状況であっても《よりポジティブな》選択肢を増やしておくこと」だった。
パターンAに対してパターンBやCを準備するのはデザインの鉄則だけど、今回はパターンA,B,Cそれぞれにさらに選択肢A’,B’,C’を準備していく。
ずっとそういうことを考えながら準備してきた。

もうすぐ、あれから1年。あの日ことを考えると今でも胸がギュッとなる。
結果的にはとても沢山の人を巻き込んでここまで来たけど、みんな前向きに関わってくれるのでとても嬉しい。本当少しでも手を抜いたら駄目だなって…。

卒業した学生たちはどうやらちゃんと生活しているし、今年度の学生たちは最後まで作品を良くするために、頭も手も動かしている。
去年も今年も私にとっては大きな意味を持つ卒業生作品展になる。

ドサクサに紛れて色んなもの詰め込みました。
「みんな観に来てくれよな」なんて大声では云い難いですが、ぜひ気にかけて欲しい。
3月末以降に Website を訪れてくれてもきっときっと楽しめます。
https://www.sotsuten-archive.kds.ac.jp/
#桑沢2021

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桑沢2021
ご協力いただいた皆様
Website
Art direction , Design : 吉田結 @yuiyoshida_design
Development : 田島真吾 (Lucky Brothers & co.)
Logo design : 米山浩太郎 @ricemountain
Illustration : YUTAKA NOJIMA @yutaka.nojima
VR撮影:徳永雄太(ARCHI HATCH) @archihatch

印刷
Design : 米山浩太郎 @ricemountain
Illustration : YUTAKA NOJIMA @yutaka.nojima
Printing:誠晃印刷

映像
Direction : Kotaro Yoneyama @ricemountain
Illustration : YUTAKA NOJIMA @yutaka.nojima
Animation & Editing : Yuta Yoneyama @eqnoob
Animation : Yasuka Shimoji @shimomoji
Sound & Music : Kohei Watanabe (Un / Schuwa Schuwa) @kohekohe Voice : Teruko Konse (Un / Schuwa Schuwa) @teruko112



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