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サッカーボール

駒沢大学駅から程近い駒沢オリンピック公園で開催されている、ラーメンショーに行ってきた。ラーメン屋をやっている友人が手伝いで来ていたので、一人で会いに行った。会場はたくさんの家族連れや友達同士、恋人達で賑わっていて、寒い中温かなラーメンを、食べ比べしながら半分ずつ分け合ったりしていた。

帰り道、園内の遊歩道で、遊んでいた親子連れのサッカーボールが勢いよく転がってきた。ボールは目の前の水溜りを通って私のすぐ横をすり抜けるところだったので、反射的に手がでた。止めたボールを男の子にゆっくり転がしてやると、男の子は、「わっ濡れてる!」と言いながらボールを拾った。

私がそのまま通り過ぎようとした瞬間、父親が男の子を叱った。「濡れてるのを知ってて拾ってくれたんだ、ちゃんとお礼をいいなさい!」すると男の子はほんとうに素早くちょこんと頭をさげてすぐに目をそらした。「なんだおまえ、照れてるのか」父親は、優しい顔で笑った。

 濡れてるのを知ってて。その一言が胸に響いた。もしも私なら、そのことに一瞬で気がつけるだろうか。自分はただ反射的に目の前のボールを止めただけだった。寄り添う恋人達と、家族。冷たい風がいつもより少し凍みた夕方に、一瞬温かな風が通り抜けた気がした。

日々の繰り返しの中で、自分の人生に、ほんの一瞬だけ関わる人がいる。二度と会うことのない人達。だけどきっと必要だったはずの小さな、小さな出来事。目には見えなくてもきっとそこにあるだろう確かなものに、いつでも気づけますように。

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