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『石狩湾硯海岸へ接近中』の全文公開 連載第201回 第167章 小春ちゃんの弟

 フランケンの腱の痛みはあの後さらに悪化していったが、勤務日を週に2日に減らしてもらったのが功を奏したらしく、次のスキーの季節までにほぼ完治した。その間の子どもたちの成長は信じられないほど早かった。親馬鹿を99%割り引いてもなお、わしの娘と息子こそが天才じゃけん、と飛び跳ねながら宇宙全体に大声で触れて回りたくなるほどだった。小春ちゃんはボクと同じサファイア高校に、その年の離れた弟は鉄道を間に挟んだライバル校のひとつジルコン高校に進学した。フランケンとその愛娘の小春ちゃんのことはすでに書いてきているので、この弟についても少し話しておかなければ不公平だろう。
 今は多くの高校に「bilingual trivia club=2カ国語トリビアクラブ」と「競技ドローンクラブ」が結成されている。前者の多くは、英語と日本語の作品群を作ってクラブのホームページで公開している。しかし、2つの言語を使いさえすればいいのだから、英和の組み合わせに限定されない。たとえば、日本語を母語とする生徒たちが、それぞれ初心者として学習を始めて日の浅い韓国語と中国語というウルトラCの2カ国語作品集を作ってみるのも可である。それどころか、そのような努力は大いに奨励されて然るべきだろう。私自身はフランス語とドイツ語の組み合わせで医学の話題中心のトリビアを週に2問のペースで自分のブログに発表している。すると、実際に「この何行目の〜という単語は今は古くさい感じです」などと、日本語学習中の見知らぬフランス人から日本語で指摘を受けたりして、啓発されるところ大である。
 ジルコン高は英語と日本語でのトリビアを2,000問も作成してインターネット公開し、ネット上での知識のやり取りだけでなく、世界中にいる日本語学習希望者にも同様のクラブ活動を提案し、発信者にとっての外国語記述部分をお互いに直し合う「共学」方式を提唱し、定着させた。部のホームページには、「こんにちは。この作品上の英文は、日本語を母語とする私たち札幌およびその通学圏内の高校生が書いてみたものです。きっと間違いがありますので、もしよろしければ英語のネイティブの方、その間違いを直してください。お礼に、その方の日本語学習をお手伝いします。また、北海道のスポーツや観光や生活に関する情報も提供できます。大人でない高校生だからこそ考えついたり、調べたりできる対象もあるはずです。どうぞよろしくお願いします」という呼びかけ文が、日本語の他、主要10カ国語ほどで書かれている。部の活動を通して、どんな問題集にも載っていない多様な英文を大量に書く能力と挑戦心を鍛えられるためか、部員たちの中で全国規模の模試の英語で高い点数を取る例は珍しくなくなっている。軽い気持ちでクラブの顧問を引き受けていた英語教諭の先生方も、生徒から事前想定を超える複雑さと分量の様々な英文の校閲を頼まれるので、死んだふりをするのに忙しくなっている。

第168章 2カ国語トリビアの実例集 https://note.com/kayatan555/n/nb459cf848361 に続く。(全175章まであります)。次回は少し変わった趣向の内容です。お手元に英和辞典をご用意いただいていた方が便利かも知れません。

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