仕事

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「あっ、これ…」

夕方のファストフード店で高校生たちの元気な声とフライドポテトが揚がったことを知らせる音が静かに響き渡る。

「でさ〜化学の授業で竹下がキレたわけ!田中が〜黒板の数式が間違ってるとかしつこく言っちゃったからさ!竹下がムキになって授業やめて出て行っちゃったんだよw」

窓側の席で地面を勢いよく打ちつける雨を眺めながらボーッとしていたら斜め向かいの席から女子高生たちの話が否が応に自分の耳に入ってきた。

「うける!で、それからw」
「自習だよ!w だって誰も竹下のこと追いかけないんだもんw」

もし職場の上司を私の意地のせいで怒らせてしまったらどうするだろう?というシチュエーションに当てはめながらずっと女子高生たちの話を聞いていた。

「ママ!ここ空いてるよ!」

幼稚園の制服を着た5歳くらいの男の子とベビーカーを押したお母さんが一緒に入ってきた。ベビーカーの中では弟か妹か性別はわからないがまだ小さい子がぐっすり眠っているのが見える。

「ここで食べよう!」
お母さんが押すベビーカーのフックには隣のスーパーで買い物したビニール袋いっぱいになった荷物がかかっていた。
家に帰って食べる予定だったのかファストフード店で買ったものはもう茶色の紙袋に入ってお母さんが持っている
「いやだ!家に帰る頃には冷たくなっちゃうじゃん!」
この頃の子どもというのは親の事情もつゆしれず自分のわがままを通したがる。自分も小さい頃は母親を困らせたものだと昔の自分を見てるような気持ちになった。

「じゃあポテトだけ食べたら帰ろう!」

斜め前の席では相変わらず女子高生たちが内容もないような話を延々としている。
仕事を進めようとファストフード店に入ったのはいいが時間帯を間違えてしまったなと後悔していた。

「あっ!ちょっと!ゆうき!待って!」

さっきまで駄々をこねていた子どもが腹が満たされもう用がなくなったのか店の外に出てしまった。このファストフード店は大きな道路に面していて車通りも多い、お母さんは急いでベビーカーを押して外に飛び出した。

「じゃあポテト“だけ”食べたら帰ろう!」

その言葉を聞いていた自分はテーブルの上に残された茶色の紙袋をお母さんに渡そうと中身を確認した、専用のペーパーに包まれたハンバーガーと三角形アップルパイとこぼれたフライドポテトが数本入っていた。

「私もこのフライドポテトみたいに社会の定員から溢れたのだ…」

無事にお母さんに茶色の紙袋を渡して、自分の席で仕事を進める。
自分では「仕事」と言っているが実際そうではない。「仕事に就くための仕事をしているんだ」

100円のコーヒーだけで毎日のように何時間もファストフード店で私は私の仕事をしている。

カヤフォン

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