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カサンドラ・ウィルソン “Blue Light 'til Dawn” (譜例あり) (2004.07.30)


“Blue Light 'til Dawn” Cassandra Wilson (1993)

まず、音楽に集中出来る環境を作って欲しい。可能な範囲で最も高いクォリティの音響機器を使用し、十分な音量レヴェルを確保して欲しい。そして、このCDをプレイヤーにセットし、冒頭から再生する。眼は閉じても閉じなくてもいいが、視覚的情報は断ち、聞こえてくる音に全神経を集中させて欲しい。楽音だけでなく、喉を通過する息、弦の軋み、弓の擦り音、木の響き、それらの全てを、一音たりとも聴き逃さないで欲しい。そうすれば、この音楽の奇跡が、あなたにも見えるはずだ。


ヴォーカリストのアルバムではあるものの、これはギタリスト必聴の作品である。トラック1 “You Don't Know What Love Is” は、様々なジャズ・アーティスト達によって歌われ、奏でられてきたスタンダードナンバーだが、ギタリスト ブランドン・ロス Brandon Ross のアレンジ/演奏によって、新たな命を吹き込まれている。「オープンE♭aug (♭9)」とも言うべき変則チューニングによって繰り出されるコードフォームの、独創的な響き。アクースティック・ギターの可能性がこれでもかと追求され、開拓されている。以下に、イントロ部分を譜例として引用し紹介しておく。

1、2弦は、弾かない時でもミュートしないこと。
括弧()内の音はピッキングせず、左手のスライディングのみで鳴らすこと。

これもまた、2、3弦の半音程を強調した響きである。左手が弦を擦り上げる音までも、音楽として取り込んでいる。解放弦の煌めきと、中低弦ハイポジションの妖しい暗さとが織り成す、危険な陰影。


このアルバムは全てが素晴らしいが、特にトラック2 “Come on in My Kitchen”、トラック5 “Hellhound on My Trail” は、数あるロバート・ジョンソンのカヴァー作品の中でも、ベスト・レンディションと言えるものである。

(2004.07.30)


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