金の斧と欲張りな木こり1

金の斧と欲張りな木こり 1

むかしむかし、あるところに正直な木こりと、欲張りな木こりと言う、二人の木こりがいました。二人の木こりは、ひとつの家で助け合って暮らしていました。

ある日のこと。木を切りに行った正直な木こりが家に帰って来ました。
正直なきこりが木を切りに行く日は、欲張りな木こりが家の掃除や料理、道具の手入れなどをする日なのです。欲張りな木こりは正直な木こりを出迎えました。

「ただいま~」
「おう、おかえり…って、どうしたんだ、その斧」
「いや、それがさぁ、聞いてくれよ」


家に帰って来た正直な木こりは、朝、家を出る時には持っていなかった、立派な金の斧と銀の斧を持っていました。正直な木こりは、その日あった事を正直に話し始めました。

金の斧と欲張りな木こり2

「湖の女神…?」
「そうなんだよ。俺、女神様ってのに会うのも初めてだったからさぁ。あんまりちゃんと話せなかったよ。すごい綺麗だった~」

正直な木こりが言うには、うっかり湖に斧を落としてしまったところ、湖の女神を名乗る女性が現れ、「お前が落としたのは金の斧か銀の斧か」と尋ねて来たので、「自分が落としたのは鉄の斧です」と答えたところ、「正直なお前には3本全ての斧をやろう」と、金銀の斧を貰ったらしいのです。

女神に会えて感激しているように手を組み合わせて上の空の正直な木こりを見て、欲張りな木こりはある事を思い付きました。

次の日。今日は昨日正直な木こりが切った木を、欲張りな木こりが里に下ろす日です。

「じゃあ行って来る」
「ああ、行ってらっしゃい…ってあれ? 今日、斧持ってくのか? しかも金と銀の斧まで…、今日は木を下ろすんだろ?」
「ああ、もちろん木を下ろしに行くけれど。悪いが借りてくぞ、この金の斧と銀の斧」
「そりゃ別に構わないけど…どうするんだ?」
「ちょっと考えがあってさ。確かめたい事があるんだ」
「そうか、わかった」

欲張りな木こりは金と銀と鉄、3本の斧を持って、正直な木こりが言っていた湖にやって来ました。そして、まずは金の斧を湖に落としてみました。
ですが、正直な木こりが言っていた湖の女神は現れません。

いくら待っても女神が現れないので、欲張りな木こりは仕方なく木を里に下ろす支度を始めました。しばらくしてまた湖に戻ってみると、湖のほとりに何か光るものがありました。金の斧です。
欲張りな木こりはそれを拾い上げると持ち手の部分を確認し、今度は銀の斧を湖に落としてみました。ですが、やはりいくら待っても湖の女神は現れません。

欲張りな木こりが里に木を下ろし終えてまた湖に戻って来ると、湖のほとりに銀の斧がありました。欲張りな木こりはそれを拾い上げます。そして、先ほどと同じように持ち手の部分を確認しました。

欲張りな木こりは、湖に落とす前に金の斧と銀の斧の持ち手に、それぞれ十字の切れ込みを入れていました。湖のほとりに置いてあった金の斧と銀の斧の持ち手にもやはり同じように持ち手に十字の切れ込みがあったので、同じ斧が返って来たのだと、欲張りな木こりは考えました。そしてついに、鉄の斧を湖に落としてみました。

するとどうでしょう、金と銀と鉄。斧を三本携えた女神が湖の中から現れました。金と銀の斧を落とした時には女神は現れず、ただ斧だけが返ってきましたが、鉄の斧を落とした時だけ、湖の女神が現れたのです。しかもまた新しい金の斧と銀の斧を持っているではないですか。

金の斧と欲張りな木こり3

欲張りな木こりはそれを見て「やっぱりだ…」と心の中で思っていると、
女神が口を開きました。

「お前が落としたのはこの金の斧ですか」
「はい、そうです」

欲張りな木こりがそう答えた瞬間、今まで柔和な笑みを湛えていた女神の顔が、一瞬にして曇りました。

「欲張りな嘘つきめ。お前が落としたのはこの鉄の斧だろうに。欲に目がくらんで嘘をついたお前にはこの鉄の斧を返す訳にはいかん。さらばだ」
「分かりました。それで構いません。ですが少しお話があるのですが」
「?」




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