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細野晴臣・おっちゃんのリズム考 〜Youtube寄せ集め編

細野晴臣の「泰安洋行」を高校のときに聴いて、雷に打たれたようなショックをうけ、かれこれ25年くらい熱心に聴いて・分析して・演奏してみるがまだまだ全然できない。

自由研究・Yellow Magic Carnivalをひとりで全部演奏する

このところ、細野さんのいろんな解説・伝記が出版されてます。六本木での50周年の回顧展もふくめてブームと言ってもいいんじゃないでしょうか。個人的には「トロピカルダンディ」「泰安洋行」「はらいそ」のいわゆる「トロピカル三部作」に注目がいくのは嬉しいかぎりです。

細野さんのリズムを語る上で、2つの重要なキーワードがあります。

おっちゃんのリズム
1拍子のリズム

ただ、どの本にも「絶妙になまった、かっこいい&ルーズ、でもタイトなグルーヴ」という感じで紹介されてます。実際にドラムを演奏していた林立夫さん、伊藤大地さんのインタビューにも、細かい記述はみられないです。口で言ってもわからんのでしょう。

とうことで今回は、Youtubeと書籍からいくつかの証言と映像を編集して「おっちゃんのリズム」「1拍子のリズム」について、僕なりの解釈と発見を書きたいと思います。


1. 林立夫の証言

林立夫「1拍子というのはお経だと思えばいい。 〜中略〜 ビートとビートの間を8分っぽく割るか、3連ぽく割るかはそこに流れるメロディや雰囲気で変わっていきます。」「ずっと1拍子でリズムをキープする。だから終わったあとは、曲調のわりにはヘロヘロです。」

「追憶の泰安洋行」より



2. Eテレ スコラでのリズムの解説

YMOは、テクノ的なジャストのリズムだけでなく、シャッフルを数字で分析しコンピューター(ROLAND MC-8)に打ち込むことで人間のフィールを機械で再現しようと試みた。喜納昌吉の「ハイサイおじさん」のハネ方は14:10。

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シャッフルを「タッタ タッタ」と表現するときに、「タッ タッ」の太字の部分がアクセントになってて、ズレの幅でシャッフルが決まる。これはごく一般的な理屈です。

ここで注目したいのが、2つある赤い四角の左側。このタイミングはとりあえず不動という点です。「基準」というか「アタマ」というか。「いっち にっい さっん しっい」とカウントするときの「っち っい っん っい」の太字の部分ですね。基準がないとズレもクソもないので、何度も書きますが、アタマは動かない。

スクリーンショット 2021-03-19 9.23.57のコピー

もうちょっと話を広げます。ジャズ関連のYoutubeを引用します。


3. ジャズのリズムの取り方 宇田大志さん

スコラの動画では、線で表現していたビートを、ここでは円で表現してますね。この動画はすごいわかりやすいです。3:40からがキモです。ジャズのソロ演奏は、ロック(ex.ハイサイおじさん)とちがって、「っち っい っん っい」のアタマの拍の場所が移動するんです。この動画の中では「レイドバック」と呼ばれていますね。特にソロ演奏で、アタマの拍をずらして、演奏そのものはシャッフルせずに弾くのがジャズでいう「スイング」なんですね。シャッフルの「タッ タッ」という裏のアクセントを感じつつ、フレーズ自体は「タタ タタ」とハネずに弾く。動画でもやってますので見てみてください。超シンプルにいうと「音の出し始めを常に遅れて気味に弾く」ということです。


4. 大橋巨泉(ジャズ評論家)のスイングに関する見解

もう一例。ピアノソロでおなじことをやると、左手=伴奏と、右手=メロディを1人でやるため、右手と左手のリズムがズレる。それがスイングを生むというケースです。

左手はアタマ拍をズラさず弾いておいて、右手のメロディはアタマ拍から微妙に遅れるように演奏する。巨泉さんは「ビハインド・ザ・ビート」って呼んでますね。宇田さんの動画でいう「レイドバック」。「右手と左手のタイム感がちがうから、汗びっしょりかきながらやってる」みたいなことも言ってます。ここは林立夫さんの「演奏おわったらヘロヘロ」に通ずるものがあります。そして、大橋巨泉の物言いは、ほんとに横柄ですねw

スクリーンショット 2021-03-19 9.23.57


5. ジャズミュージシャンが「アタマを遅れて弾く」ことに関する、坂本龍一・高橋幸宏の見解

坂本龍一さんのラジオ番組「radio Sakamoto」に幸宏さんがゲスト出演したのを聴いたことがあるんですが、Saravah!という幸宏さんのファーストソロアルバムのホーンの録音を振り返って、

坂本龍一「ジャズの人ってさ、どうして、あんなにアタマを遅く弾くんだろうねー。何度言ってもアタマがズレるから、いつもテープ編集でアタマを詰めてた、でも編集すると音質が悪くなるでしょ・・・」

みたいなことを言っていた記憶があります。ジャズの人(宇田さん、巨泉さん)のいうアタマ拍の遅れは、当時のクラッシクの人(坂本龍一)、ポップスの人(高橋幸宏)にとっては、ただのモタモタした演奏。絶対的にわかりあえなかったようです。

おまたせしました。ついに細野さん登場です。

6. Roochoo Gumboのリズムのオリジナリティ

アルバム「泰安洋行」の4曲目「Roochoo Gumbo」。この曲は、沖縄・ニューオリンズ・エキゾを混ぜ合わせた細野晴臣の真骨頂です。

矢野顕子さんはこのアルバムをよく海外のスタジオミュージシャンに聴かせるらしいのですが、やはりRoochoo Gumboだけは、誰も再現できない独特のリズムだと言われるそうです。この曲のリズムの再現性の難易度の高さは、各楽器がそれぞれが違った、アタマ拍のタイミング、シャッフルをしていて、それが奇跡的なバランスで1つになって成り立っているという点です。

・ベース(細野晴臣)&キック(林立夫)
全体で「ドッ ドーン」。アタマ拍は遅れない。曲全体の基準になっている。

・ピアノ(佐藤博)&ギター(鈴木茂)
ピアノはマイペースなニューオリンズスタイルを貫く。ギターは沖縄フレーズで、リズムは一部イーブン。コード・フレーズ感など全体として、ニューオリンズ&沖縄のミクスチャーを2人一組でつくりあげている。

・カスタネット(浜口茂外也 ?)&ハイハット(林立夫)
基本、裏拍のアクセントをかなり強調して演奏している。「タッ タッ」「」。アタマ泊は演奏しないか非常に弱い。たまーに「タ」というイーブンのおかずを叩くときがあるがランダムというかその場のノリっぽい。

・スネア(林立夫)
アタマ&アクセントが遅れて演奏されている。「タタ タタ タタ タタ」と、イーブンに近い、シャッフルしない。イントロなどは、マーチングバンドのスネアロールのように、まったくシャッフルしない16分音符のフィル。

・マリンバ(細野晴臣)
ビハインド・ザ・ビート / レイドバックを大きくとった、明らかにアタマ拍が遅れた演奏。シャッフルはほとんどせず、13:11くらいのイーブン。トレモロ(連打)もハネない、16分音符。ただし、2番の女声が入ってきたタイミングだけ、なぜかアタマの拍は遅らせずに、シャッフルしてる演奏している様に聴こえる。これは女声のボーカルにハネかたに合わせて、細野が(天然で)ノリを調整しているものと思われる。

各自がシャッフル・レイドバックを調整しているが、基本的に下にいくほど、つまりマリンバに近づくほど、アタマ拍が遅れて、シャッフルしない演奏になっている。

もちろん注目すべきは、この2人のパートである。

・林立夫
キック、ハイハット、スネアのパーツを別のフィールで演奏している。しかも同時に1人で・・・天才的なセンス、集中力の塊。これはヘロヘロになります。

・細野晴臣
ビートの一番前=ベースと、ビートの一番うしろ=マリンバをひとりで演奏している。「追憶の泰安洋行」の回想では、林が録音した時点ではマリンバは入ってなかったらしい。つまりベーシック録音の時点では林のスネアが一番「遅かった」。そこに「さらに遅い」マリンバをオーバーダブしている。このアンサンブルのアイデアは最初からあったのだろうか?計算していたんだろうか?どちらにしても神がかっている。そして、マリンバの入った仕上がりの音を聴いたミュージシャンたちはびっくりしたと思う。「細野さんが狂った」と。

ぜひ、Roochoo Gumboを再度聴いてみてください。意識したら、マリンバとスネアの演奏のアタマ拍の遅れ(この2つも明らかに違う遅れ方をしている)が、絶妙なグルーヴを出しているのを聴きとることができるでしょうか?これが「おっちゃん」「1拍子」の真髄ではないかと思うわけです。

ちなみに、細野さんのオリジナル以外にも、久保田麻琴さんのカバー、細野さん自身のセルフカバーもいくつかあるのですが、どれもアタマ拍の極端な遅れ、シャッフルとイーブンが共存するグルーヴは聴くことができません。2021年の最新版の細野さんのライブ盤「あめりか」では、極端におそいBPMで演奏されてました。

「おっちゃんのリズム」「1拍子のリズム」は、1974年のティン・パン・アレイだからこそできた、奇跡のリズムだといえます。

もし反響があったら、続編として、打ち込みで各楽器のアンサンブルを再現して、バラバラに再生できるようにして、リズムの秘密をさらに研究してみたいです。

他の記事とのつながりがまったくないまま、今日はおわり。

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