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春を売る女


※この物語は多分フィクションです。


「あぁ、また、いるんだな。」

その女はいつもそこに立っていた。

俺が出勤する時も退勤する時も四六時中そこで立っている。

顔は決して可愛いわけじゃない。
素朴な顔立ちをしていてスタイルも至って普通だ。

話したこともない女だが何をしてるかは大体分かる。

おそらく彼女は俺と同じ業界の人間だ。

俺は店舗型で働き、彼女は個人事業主といったところか。

俺は知らず知らずのうちに彼女がいるかを目で追うようになっていた。

なんてことはない。
通学路にいる名物のおっさんと同じようなもんだ。

※※※

ある日、家を出てすぐ雨が降り始めた。
家から店まではおよそ3分。

今日はついてないな

そう思い俺は雨の中に走り出すことを決意した。

走り出す寸前に声をかけられる。


「傘、忘れたの?」


振り向くと傘をさして普段は見せない笑顔をしている女がいた。


「あ、はい。いきなり降ってきたんで。」


「天気予報見てないの?今日は雨だよ♪」


よく見ると女は長靴を履いていた。
準備万端というわけだ。


「傘、貸してあげる。帰りに返してね♪」


「え?いいの?」


「いいよ。相合傘したい人も多いからさ。」

悟ったような口調で女は答えた。
なんのことを言っているか俺は何となく察したが、そこに触れるわけにはいかない。

この女とはこの日初めて話したのだから。

「ありがとう。有り難く借りるよ。」


彼女の親切を無下にするわけにもいかないし、単に雨に濡れるのを避けれるので俺は傘を借りた。


仕事が終わり、店の鍵を閉め外に出る。

雨は上がっていた。

俺は近くのコンビニでシュークリームを買い、帰り道にいる女を探した。

女はいつもの場所にいた。

女は水溜りで履いている長靴に水を与えていた。

その姿がやけに愛おしく思えた。

「傘、返しに来たよ。」


女は驚いたような顔で言う。

「本当に来たんだ。来ないと思ってた。」



「借りたものはちゃんと返すよ。」


俺はお礼に買ったシュークリームを付けて女に傘を返した。

「律儀だね♪ありがとう!」

そう言って女は立ち去ろうとした。


俺は昔から傷のある女に惹かれる。
理由は分からない。

傷を舐め合いたいのか。優越感に浸りたいのか。

気付くと立ち去ろうとする女に無意識のうちに声を掛けていた。


「いつも、そこで何してるの?」


あぁ。やってしまった。
1番聞いてはいけないことを聞いてしまった。
俺はこういったところが本当になっていない。

女は不思議そうな顔をして答える。

「お兄さんと同じで夢を売ってるんだ♪」

女は少しだけ笑い、続けた。

「そんなストレートに聞いてきたのお兄さんが初めてだよ。」

ダムが決壊したように俺は質問を続けた。

「歳は?両親はいるの?」


女は遠くを見る目をして答える。

「お兄さんには、全部言ってもいいかもね」



そう言って女は俺の唇にそっと口付けをした。


「え?」

俺は呆気に取られていた。



「いらないかもしれないけど、お礼だよ♪」


眩しい笑顔で女は答え、小走りで去って行った。


「なんなんだよ。いきなり。」

彼女からの口づけは普段の生活にはない刺激だった。
俺の息子は異様なほどいきり立っていた。

普段ケバケバした女ばかり見ているから素朴な女に惹かれたのだろうか?
原因は俺にも分からない。

※※※

数週間経ち、店が忙しいことから俺は彼女のことを忘れていた。

正確に言えば思い出さないようにしていたのかもしれない。

彼女に会わないようにするため帰り道を変えていた。


そしてある日、俺は疲れ切っていたため無意識のうちに慣れているいつもの帰り道で帰ってしまう。

俺は性欲と不安と興奮の入り混じった何とも言えない気持ちでその場所に向かっていた。

気付いた時に引き返せばよかったかもしれない。
でももう無理だ。

身体は正直だ。
理性ではどうすることもできない。
本能が彼女を求めてる。

俺の顔の横で悪魔がそう囁いている。


そして居るべき人間は居るべき場所にいた。

「あれ?久しぶり♪元気だった?」

俺は精一杯自分を抑えて答える。


「元気だったよ。ところで、あんた名前は?」

上手く話せているだろうか。
その不安が胸をよぎる。


「ゆうこっていうの。よろしくね♪」


俺は質問を続けた。

「ゆうこ、か。良い名前だな。
仕事は儲かってる?」


「ん〜まぁまぁかなぁ。自分の身体を売り物にするのも楽じゃないよねぇ。」

彼女は春を売っている。
わかっていたことだが
ゆうこが他人と絡んでいるのを想像しただけで吐き気がした。

出来ることなら辞めさせたい。


「定職にはつかないの?」

就けたら苦労しないだろう。
なぜ俺はこんなにも気が使えないのだろうか。

「雇ってもらえるところがないよ。」


彼女は悲しい顔をして答えた。

「知り合いのパチンコ屋のワゴンレディに空きがあるんだ。良かったら働いてみない?」

「え?いいの?」

「俺にも傘のお礼させてよ。」



彼女は黙ってうなづいた。

こうして彼女は今、知り合いのパチンコ屋でワゴンレディをしている。


見事な転職を遂げたわけだ。


※※※

松井「と、まぁこんな感じよ。出会いは。」

俺「へぇ〜結構、劇的な出会い方ですね。」

松井「そうなんだよねぇ。」

俺「いやぁ〜松井さんの奥さんもと風俗嬢だったのか。結構驚きですわ。」


松井「え?これ愛人のゆうこの話だよ。嫁は街コンで知り合って結婚したよ。」


俺「あんたクソすぎるだろ。何やってんだ。」


松井は相変わらずクソだった。

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