再考ツイステ4章

I.最初に

4章好きなんですけど、けっこうわかりづらい章だと個人的に思ってて、(まあそんなこと言ったらどの章も多少なりとも解釈は割れるのかもしれんけど)、一回4章の文脈ってこういうことだったんじゃないか?というのを個人的に整理したいと思って書いてみました。
あといい機会なのでちょっとnote使ってみようかなと。

タイトルに再考とありますが、基本的には今までちょくちょくふせったーとかに書いたり呟いてきた解釈とそんなに変わらないです。なので、クソ長い割にそんなに目新しいことは言ってないと思ってください。

ただオクタと監督生とカリムの最果てde talkに関してはちょっと理解がぼやっとしていたのでそこは今回改めて整理してみた形になります。

解釈の上でいくつかのことを決め打ちして進めてますが、あらゆる可能性を拾ってるとキリがないっていうのと、私の頭で考えてここが限界でしたっていう代物でしかないので恣意的になっていない保証は無いです。

なので反対意見とか指摘があればまあそれは送って貰って結構なんですが、逆に異論が思いつかなくてもこれを盲信したりはしないでくださいね、大きく的外してるかもしれないので。あくまで現時点での私の考えなので。とだけは言っておきます。

II.本題

今回、主に焦点したいのは以下5点。

  1. ジャミルがカリムに抱く悪感情はどういうものなのか

  2. なぜジャミルはカリムに悪感情をぶつけたのか

  3. なぜジャミルはカリムを追い出そうとしたのか

  4. オクタと監督生の主張はどのようなものか

  5. なぜカリムの態度が焦点になったのか

主にそれぞれが何をどう主張しているのかに軸を定めて考えたいと思います。

が、一点注釈しなければならない点があり、今回は「カリム側の心理(カリムはなぜ、どんな背景でそう思っていたのか?何でこんなことを言ったのか?)」まではあんまり考えられていません。
それをやろうとすると4章の範囲を超えてカリムの言動を洗う必要がありそうで、もはやカリムのキャラクター解釈みたいになりそうだったので。
なので今回主に取り上げるのはジャミル、オクタ、監督生あたりになります。

※なお〈〉内はゲームからの引用です。

1.ジャミルがカリムに抱く悪感情とはどういうものなのか

タイトルについて、「4-31 決壊エンデュランス!」でのカリムに対するジャミルの発言を洗いながら考えたいと思います。

まずはこれ。
〈こっちの苦労も知らないでヘラヘラしやがって!!〉。

苦労=カリムに関わる仕事、従者業の負担
と解釈すると、「カリムが仕事を任せすぎたのが原因」かのように思えます。が、私はその解釈は採用していません。

ジャミルの仕事の量や種類や忙しさって、4章で重要な焦点になっているように見えないんですよね。

確かに、「4-23 押売グッドウィル!」でジャミルの忙しさについては言及されています。
が、オクタが代わりにカリムの世話や食事の準備を請け負う〈ジャミルお助け隊〉は、黒幕を炙り出す作戦の口実として利用されているだけで、カリムがジャミルの負担を除くための方法としては結果的にはあまり的を射ていないものとして扱われていると思います。

計画の邪魔になるから、という理由があるとはいえ、ジャミルは負担軽減を喜ぶような様子も、自分の負担を慮る行動をとったカリムに対する認識を改める様子もなく、4章終盤やその後に、カリムが今後の反省としてジャミルの負担を減らすと明言する描写もない。
そもそも、カリムは〈オレもジャミルの仕事が楽になる方法はないかとずっと思っていたんだよ〉と言っているので、ジャミルの忙しさについては前々からカリムなりに懸念はしていたことになります。
ということは、もしここが主な原因ならジャミルの〈気づけ〉は発生しなかった可能性が高い。

奔放な上司と振り回される苦労性の部下、みたいな属性はギャグ的に扱われることもあるので、スカラもそれくらいの温度感で描かれているのかなと思います。

※あくまで「ジャミル主観だとそこまでシリアスな問題ではないのでは?」という話であって、読者としてそういう描写が気になってしまうならそれは仕方がないことだと思いますが、読者の印象=ジャミルの感情 では無いことには留意するべきだと思います。

じゃあ、ジャミルの言う〈こっちの苦労〉とはいったい何を指すのか。

4章で提起されているのは、どちらかというとこっちです。
「4-18 宿命シャドウ!」にて、ジャミルが家の事情を説明したときの監督生の選択肢
〈それは子どもに背負わせていい責任ではないような……〉/〈なんだか板挟みでかわいそう……〉

4章中盤で説明されているのは、「従者だから主人には逆らえない」ジャミル側の事情です。
そしてジャミル側の主観が回想として明かされるのが「4-36 渇望アプローバル!」ですが、これの内容をまとめると以下のような感じ。

  • 物心ついた頃から〈カリムやカリムの両親にペコペコと頭を下げる両親の姿〉を見るのが〈大嫌いだった〉

  • 〈カリムに合わせてなんでも"出来ないふり"をし〉ていた

  • 〈能天気〉で〈鈍感〉なカリムに対する、〈俺がお前に勝ちを譲ってやってるんだ〉という苛立ち

  • 大人はみんな〈君ならわかってくれるだろう?〉と言うが、〈なら、誰が俺をわかってくれる〉のかという不満

  • カリムがいるだけで、ずっとカリムに譲って生きていかなければならない

これらは仕事の内容や量というよりも、自分とカリムの立場の違いにより不本意な言動を強いられることへの不満です。

つまりジャミルが言う〈苦労〉とは、
立場の差により忖度を強いられる、安易にカリムの命令には逆らえない、そのことに不満があっても主張を許されない(あるいは、主張したとしても退けられる)、自分がやらかせば家族にも影響が出る
というような、立場の低さに由来する〈苦労〉である。

それを強いてきたのは大人たちですが、カリムにも嫌悪が向いた理由は、そういった立場の低さ由来の苦労をカリムが〈知らないで〉、〈能天気な顔〉していたため。

つまり、ジャミルがカリムに対して悪感情を抱いた主な原因は、「ジャミルが常に神経を使わなければならない二人の立場の差に、カリムが無頓着だったから」ということになります。

そして会話の流れが前後しますが、カリムの〈だってオレたち……親友だろ!?〉に対する
〈そういうところだよ〉
〈俺はな……物心ついたときから、お前のそういう能天気でお人好しで馬鹿なところが……大っっっっっ嫌いだったんだ!!!〉
も、同じような理由による発言と解釈できるのかなと思います。

ジャミルが嫌いだと言っているのは、カリムの〈能天気でお人好しで馬鹿なところ〉。

これについては、単に性格が合わないから気に入らない、という意味もあるとは思います。
正気に戻った後、ジャミルはカリムに対して
〈考えなしで大雑把、間抜けで不器用、超がつくほど能天気で傲慢、デリカシーなしのボンボンが〉
〈利害関係が無いなら1ミリたりとも関わり合いたくないね〉
と言っているので、これが正常な状態での本音だとするなら、価値観の違いや性格差による相性の悪さはある。少なくともジャミルの方はそう考えている。

が、上記のような、正気な状態のジャミルのカリム観というのは、〈対等な立場で言わせてもらう〉とした上での発言なので、従者という立場を取り去った幼馴染としての見解であるはずです。
仮に相手がカリムじゃなく他の同級生でも感じ得るようなことで、例えばアズールに対して「胡散臭いんだよ」と言うようなこととあんまり差がない。

しかしオバブロ直前に言ったことは、それとはだいぶ意味が違ってくる。
なぜなら、このときのジャミルの発言にはおそらく背景が存在しているから。
そしてその背景というのが、ふたりの立場の違い。

馬鹿はともかく〈能天気でお人好し〉は、言い換えれば長所にもなると思います。
でもジャミルはその言葉を、純粋に欠点として使っている。しかも状況や言い方からして、かなり強い否定感情を持っていると考えられる。

それは、カリムの〈能天気でお人好し〉な性格こそ、自分たちの立場の違いに気づかなかった原因だ、と考えているからではないでしょうか。

"能天気でお人好しな部分が悪く働いた結果、自分たちは親友ではなく主従なのだということや、主人と従者では置かれた立場や境遇に大きな差があること、立場の低い側はどうしても不本意な言動を強いられるのだということに、カリムは気づけなかった"

という風に、たぶんジャミルは認識した。
だから、そういう能天気でお人好しで馬鹿なところが大っ嫌いなんだよ、になる。

2.なぜジャミルはカリムに悪感情をぶつけたのか

それをカリムにぶつけることは正しいのかというと、二人の今後のことを考えるなら結果的にはそれで良かったのかもしれませんが、伝え方自体は道徳的には是ではないはずです。
じゃあ何でジャミルはそんなことしたんだよと言うと、
精神的に追い詰められた状況で、カリムに見事に地雷踏まれたのでキレたという、単純にそれだけなんじゃないかなと。

「決壊エンデュランス!」の流れを確認しておくと、まず今までカリムを操っていた黒幕が自分であることがバレました。
この時点でだいぶ平静ではないでしょうが、アズールを操って強引に黙らせることで乗り切ろうとする悪足掻きはしています。
ですが、アズールにかけたはずの洗脳も実は効いていなかったことがわかり、更には「刃を向けてはいけない主人」であるカリムにも事が露見したことでジャミルは窮地に陥ります。
そして、その状態でカリムから出てくるのが、〈親友だろ!?〉という発言。

たとえば、カリム自身に何も思うところが無ければ、たぶんジャミルはここで激昂することはなかったんですよね。
それでも自分を信じたそうにしているカリムを言いくるめようと試みるくらいはしたかもしれない。
実際、「決壊エンデュランス!」のジャミルは、ジェイドに悪事を看破されてからもけっこう諦めずに粘ってます。カリム相手にも、最初のうちはなんとか言い訳しようとしている気配がある。
でもそのときカリムが〈(省略)だってオレたち、親友だろ!?〉と言い、そしてその発言はジャミルには地雷だった。
なぜなら前述したように、ジャミルは常々、二人の立場の違いに気づかないカリムに対して、表に出すことのできない悪感情を抱いていたから。

着目すべきはジャミルの〈もう取り繕っても意味がない〉〈俺も、家族も……なにもかも、どうにでもなれ!〉。
最もバレてはいけない相手である主人に事が露見した。
裏切ったことはもちろん、今まで隠していた、従者としては許されざる(とジャミルは認識している)本音まで知られてしまった。
なので〈取り繕っても意味がない〉し、自分がしでかせば家族にも処罰が行くという認識のため〈何もかもどうにでもなれ〉と自暴自棄になった。

このときのジャミルの発言は、確かに自暴自棄になったゆえの暴言ではあります。
ただ、だからといって「冷静でなかったときの発言だからあてにならない」と一蹴するべきものではなく、むしろ極端な精神状態に陥って初めて露呈した本心である、かつここでジャミルの本性が露呈することには作劇上の意味がある、と私は受け取っているため、「1.ジャミルがカリムに抱く悪感情とはどういうものなのか」で詳しく解釈しています。

信用していた親友にいきなりそんなことを言われたカリムは気の毒ですが、立場としては2章のラギーや、あるいは3章で暴走したアズールから能力を奪われた生徒に近いのかなと。
つまり、オバブロ直前の人間はあと一押しで理性を失くすという瀬戸際におり、冷静な状態ではない。
たまたまその場にいたり、あるいは言動が地雷を踏んだりしたことによって、そういう状態の人間に危害を加えられたのだ、と捉えるべきかと思います。

3.なぜジャミルはカリムを追い出そうとしたのか

わかりにくいのは、確かにオバブロ直前にぶちまけた上記のことは「ジャミルがカリムを嫌いと思う理由」には他ならないのでしょうが、逆に言えば「嫌いな理由」でしかないということ。

どういうことかと言うと、それが解消される、つまりカリムがジャミルの状態に気づいて、ジャミルのカリムに対する好感度が上がったからと言って、ジャミルの問題が根本解決するわけじゃないんですよね。

なぜならジャミルの欲望の要は〈俺だってーー 一番になりたいのに〉だから。

カリムのジャミルに対する態度が著しく違った場合、ジャミルからカリムへの好感度は全く違ったものになっていたかもしれない。
ひょっとしたらブロットの溜まり方も違って、結果的にオバブロもしなかったのかもしれない。

かもしれませんが、だからといって「俺だって一番になりたい」がそれで叶うわけではないから、全部解決とはならない。
そして、おそらく、だからこそ、ジャミルは当初カリムを追い出そうとしたのかな、と。

ジャミルが願いを叶える方法は主に以下の2択です。

  1. カリムがジャミルの所属コミュニティから物理的にいなくなる

  2. ジャミルがカリムに勝ってもよくなる

この条件は、ジャミルがカリムのことを好きでも嫌いでも変わりません。

そして、なんだかんだあった結果、本編では「2.ジャミルがカリムに勝ってもよくなる」寄りの結末に落ち着きますが、ジャミルのもともとの計画自体は「1.カリムがジャミルの所属コミュニティから物理的にいなくなる」を目指しています。

ジャミルがカリムに対して抱いていた嫌悪とは別のところに、ジャミルが実力を発揮できない根本原因はあった。
その根本原因に対してのアプローチとして、ジャミルはカリムが学園からいなくなるよう仕向けることを選んだ。

つまりジャミルの計画は、目的達成の手段として有効か否か、というだけの話をするなら、「それは"アリ"だ」ということになる。
ただしリーチ兄弟の言葉を借りれば〈卑劣〉かつ〈マジでサイテー〉な行為なのでやっちゃ駄目ってだけ。

そしてもう一つ、手段として2ではなく1のカリムを追い出すことを選んだということは、
ジャミルは自分の〈苦労〉を「カリムの存在に起因するものだ」とは思っているでしょうが、「カリムの言動によってはなんとかなったはず」とは考えていないんじゃないでしょうか。

確かに、カリムがその場にいることで、ジャミルは自動的に立場が低い者となり、〈苦労〉が発生してしまう。
そういう意味では、カリムは立ち位置という点では2章のマレウスや5章のネージュに近いと言えるかもしれません。
だから、ジャミルからすると〈お前がこの世に存在する限り〉〈お前がいるだけで俺は…〉となる。

でも「存在自体が俺に都合が悪い」と考えているということは、逆を言えば「もっとこう行動してくれたら解決するのに」みたいな方向では、あまり無いんじゃないかと思うんですよね。

例えばですけど、「アジーム家次期当主として権力構造にメスを入れろよ」とか、「こいつが大人を説得してくれたらいいのに」とか、そういう風にはたぶんジャミルは思ってないんじゃないか。

ジャミルからカリムに向けた要求として唯一〈気付け〉とは言っていますが、カリムが「気づい」ても変わるのはジャミルのカリムへの好感度です。
それでジャミルのストレスは減ったとしても、実力を出せるようになるわけではない。
なのでやはり、自分が強いられている抑圧自体については、カリムなら何かできるはず、してほしい、とはジャミルは思っていないんじゃないか。

ジャミルはおそらく、カリムがどう動こうが自分は解放されない、あるいはカリムにはそもそもそういった動きは出来ない、そう言った動きをカリムにとらせることは不可能だ、と頑なに思っていた。
(ついでに言うならカリムだけでなく、自分の親、その他の大人についてもそう考えていたんじゃないかと思います。誰かが自分の環境を改善してくれるという発想が、ジャミルには希薄な感がある)
それがどのくらい妥当な判断なのか、あるいは規範を内面化したジャミルの固定観念なのかは明瞭じゃありませんが、とにかくジャミル自身はそう信じていた。

オーバーブロット後にジャミルの意識が戻った後、カリムが言った〈だからもう、今日からはやめよう。親の地位とか主従関係とか、そういうことで遠慮するのは〉に対して、ジャミルは〈…………は?〉と返しています。
実際問題、カリムが一言「やめよう、無しにしよう」と言ったところでそう単純に解決はしない、という考え(固定概念)があったからこそ、このリアクションなんじゃないかなと。

だから、〈お前が存在する限り〉。

ジャミルがカリムを嫌悪する理由はカリムの言動でしたが、「一番を手にする」ための実質的な障害は、カリムの言動ではなくて存在である、と認識していたんじゃないでしょうか。

ここまでの整理

ちょっと長くなったので、ここまでの話を整理します。つまり私の考えだと、ジャミルのオーバーブロットの原因は以下2つ。

  1. 実力を出すことを許されない、立場の低さゆえに我慢を強いられる環境

  2. 上記から派生した、カリムの態度に対する悪感情

行動したのは1に対して。その手段が「カリムを追い出す」。
暴走して予定外にカリムにぶちまけたのが2。

回想を読むとジャミルは、「自分が従者だからという理由で譲っていることに気づかないカリム」と「自分を分かってくれない大人」の双方の態度に挟まれて感情的に追い詰められたように読めます。

だから、カリムにジャミルオバブロの原因があるとしても、それは一部である。

ただジャミルの場合、2章や5章と違い、オバブロする直前のガタガタの心理状態のときに、直接原因の一部分であるカリムにそれをぶつけられる状況にあった。
そして他ならぬカリムの発言に地雷を踏み抜かれため、結果的にはカリムに感情的な矛先をも向けることになったんだと思います。

3.監督生たちが「カリムが追い詰めた」と言っているのはなぜか?

今までの私の解釈だと、

  • 4章カリムの立ち位置は2章のマレウスや5章のネージュ(+レオナがオバブロする直前のラギーetc)が近い

  • カリムの態度は、ジャミルが精神的に追い詰められた原因の一端。ただ、ジャミルの願望が叶わない原因自体はカリム以外のところにあり、ジャミルがそこに対してアプローチしようとしたのが4章

ということになります。

カリムは原因の一端かもしれないが一端でしかなく、また原因だとしても、責任まで求められるかは別の話です。

じゃあなんで、砂漠に飛ばされた後のオクタや監督生たちはカリムを責めてるように見えるのか?

ここでまず、焦点になりがちな監督生のセリフをとりあげます。

〈そういうところが彼を追い詰めたのでは?〉

でもこれ、2択のうちの1択なんですよね。
話の流れ上、このセリフが言いたいことは、もう一つの選択肢とそう変わらないはず。
もう一つのセリフは〈いいヤツは友達をこんなところに飛ばしません〉です。

つまりどちらの選択肢でも監督生は、「ジャミルは悪いやつだという事実をあなたは受け入れるべき」と主張していることになる。

それを前提としたうえで、「そういうところが追い詰めたのでは?」の方のセリフの意味するところを考えたいと思います。

ジャミルが暴露した「能天気さやお人好しさゆえに、二人の立場の差に気がつかない」点、
4章で見せた「裏切られてもなお、"親友だからそんなことしないよな"と主張する」点

これと符合するのが、カリムが今まさに監督生の目の前でやっている
「砂漠に飛ばされてもなお、ジャミルはあんなことする奴じゃない、本当にいいヤツなんだ、だから自分のせいだ、と主張する」
です。

もちろんそれらの事象は厳密には別物ではあるんですが、「自分とジャミルの立場の違いをわかっておらず、自分の思うジャミル像を信じ続けようとしている」点では同じ現象である。少なくとも、監督生にはそう見えていた。

カリムの「親友だろ!?」やその後のジャミルのリアクションを監督生は見ているので、
それらの一連のカリムの言動に共通性を見出して、「そういうところ」が「彼(ジャミル)を追い詰めた」んだな、と認識したのかなと。

じゃあリーチ兄弟はどうなのかというと、

フロイド〈俺も小エビちゃんと同意見〉〈いいコちゃんすぎるっていうか……なんつーか、ウザい〉
ジェイド〈もし僕があんな裏切り方をされたら(省略)海に沈めます〉〈いいヤツを通り越してちょっと気持ち悪いです〉

ここら辺、ジャミルの言う「能天気でお人好しで馬鹿なところ」とちょっと符合するかなと思うんですが、
リーチ兄弟がウザイとか気持ち悪いとか表現しているのは、どうやってもジャミルを好意的にとらえようとするカリムの姿勢なんですよね。

そしてその、「ここまでされてまだ、梃子でもジャミルを好意的にとらえようとするのってどうなの?」というスタンスは、前述した監督生の指摘と重なるので、フロイドは「小エビちゃんと同意見」と言ってる。

このリーチ兄弟のセリフで重要なのは、二人が結果的に
「考え方や感性が違いすぎるせいで、自分たちはカリムの態度に理解が及ばないし、なんならあまり良い印象を持たない」
ということをカリムに伝えている点だと思います。

なぜなら、現状カリムには理解できない挙動をしているジャミルも、おそらくリーチ兄弟たちと同じ側の人間だから。

それを明示したのが続くアズールの台詞だと私は思うんですが、これが結果的にけっこう解釈が難しい台詞になってしまっているのか意見が分かれてますね。

以下に私の解釈を書きます。

アズールは何を言いたいのか。
このやりとりの末にカリムは〈……そうか。ジャミルは、悪いヤツ……なのか〉と、今まで否定してきた「ジャミルが悪いヤツであること」を認めています。
いったいどこに、カリムがそう納得できるような要素があったのか。

台詞の全文引用はしないため必要ならアーカイブとかで確かめてほしいんですが、アズールが言っていることって要するに

「ジャミルはカリムとは全く異なる人間(悪いヤツ)であり、感性や価値観がまるで違う。その違いを認識できないカリムの態度は、ジャミルにとっては苦痛だった。ゆえにジャミルは裏切った」

ということだと思うんですよね。

アズールは〈カリムさんの他人を信じ切った良い子ちゃん発言は(省略)嫌味を言われているような気にすらなります〉と明言することで、
良い子ちゃんのカリムさん - 捻くれた僕たち、という対立軸を作り出し、両者は感じ方が違うということを説いています。

これはリーチ兄弟が言ったことと内容的にはほぼ同じですが、アズールは〈僕やジャミルさんのようにひねくれた〉として自分とジャミルを同種の人間とすることで、ここではジャミルの代弁者になっています。

つまりカリムからすると、アズールの言うこと=ジャミルの内心。
そのアズールが改めて自分たちの「違い」をはっきり示すことで、初めてカリムは

  • ジャミルと自分は全く種類の違う人間であること

  • 違う種類の人間であるゆえに、無自覚にジャミルからすれば好ましく思われない態度をとっていたこと

  • ジャミルはこれまで自分がそうと思い描いていたような人間(いいヤツ)ではないこと

を納得したんじゃないでしょうか。

つまり監督生とオクタとカリムの会話の主旨は、だいたい以下のようになると思います。

カリム「ジャミルはいいヤツだから、本当ならこんなことするはずがない。だから追いつめたオレのせいなんだ」

監督生・リーチ兄弟「本当にいいヤツだったらこんなことしない。いい子ちゃんすぎて理解できない。むしろ、そういう自分の見方でしか受け取ろうとしない姿勢こそ良くなかったのでは。これだけのことをやられたら自分ならジャミルにやり返すけどな」

アズール「カリムさんこういうことなんですよ。まず僕とジャミルさんは似た人間です。そしてそんな僕からすると、あなたの良い子ちゃんな態度は嫌味を言われているような気分にさえなります。それがずっと続いたので、ジャミルさんは追い詰められてあなたを裏切ったんでしょう。この場合あなた自身に責任があるってわけじゃないんですけどね」

カリム「そうか、ジャミルはオレとは全然違う人間で、オレの言動はオレの想定とは全然違う受け取り方をされていたんだな。同じように、オレはずっとジャミルのことを勘違いしていて、あいつは本当はみんなが言うような"悪いヤツ"だったのか……」

厳密には、ジャミルは主に「主従と従者という立場の差」について語っており、一方で監督生とオクタは「ジャミルとカリムの人間としての種類の違い」みたいな話をしているので、細かいことを言えばそこはちょっとズレているのかもしれませんが、とにかくジャミルとカリムは違う人間である、カリムのジャミル理解は正確ではない、みたいなところをカリムと共有できればよかったのかなと。

以下、ちょっと脱線しますが、ついでにアズールの発言についていくつか補足しようと思います。
本題とは関わり無いのに字数を食っているので、興味ない人は5.なぜカリムの態度が焦点になったのかまで飛ばしてください。

まず「嫌味を言われているような気分にさえなる」という発言。
これは、オバブロジャミル撃破後の回想の、例えば「テストの点数が自分より低かったジャミルを励ます」というようなカリムの態度に対して、ジャミルが抱いた感情と符合させてあるのではないかと思います。
この励ましはカリムが屈託ない"良いヤツ"だからこその行動ですが、点数調整させられていたジャミルからすると無自覚な煽りでしかなく、素直ゆえ何も知らない・気づかないカリムのそういう態度こそ、ジャミルからすると〈嫌味を言われているよう〉だった、と。
だから、ここでのアズールのジャミル解釈が著しくズレている、ということは無いのかなと思います。

「ですがあなたは何も悪くありません」はそのまま、感性や性格や考え方が自分たちとは違うこと、それを今までカリムが認識できなかったことについては、カリム個人に主たる責任はない、という意味だと思います。
(アズール自身はもしかしたら皮肉も込めて言ってるかもしれませんが、だとしてもここで「カリム自体に責任がるとは限らない」という観点のフォローを入れておくことが流れの上で重要なのかなと。
誰かに「責任がある、ない」という判定は結局、個人の価値観によりがちなので、この話で追及するのはそこではないよということでしょう)

またカリムのそうした性質について、アズールは大富豪の息子という環境起因だと思っているようですが、ジェイドは〈カリムさんの場合、生来天真爛漫な性分でらっしゃる気もしますが〉と言っているので、ここは解釈の余地を残す形かなと。
つまり、〈生まれながらに〜素直に真っ直ぐ育った〉のあたりはアズールの解釈であり、本当に環境起因なのか、それとも生来の性格なのかまでは確定させてないんじゃないかってことですね。少なくとも私はそう思いました。

ここまで考えると、物議を醸しがちな〈無自覚に傲慢である〉の意味も見えてくる気がします。
ここで〈傲慢〉とされているものは、
ジャミルに言わせると〈能天気〉〈お人好し〉〈鈍感〉、アズールに言わせると〈素直で真っ直ぐ〉な性分ゆえに、
主従間に格差があることや、下の立場の人間が抱える〈苦労〉に気づかず、無自覚に「ジャミルと自分の立場にさしたる違いはない」「ジャミルも自分のことを親友だと思っているに違いない」と信じ切っていたこと。
そして、ジャミルの悪行が明らかになっても、張本人に面罵されても、しばらくそれを認めることができず「いいヤツ」像を信じ続けようとしてしまったこと。
暗に、「無意識なんだろうけどそれは結果的にジャミルという人間を都合よく捉えていることと同じでは?」というようなニュアンスを含むので、この表現になったんじゃないかと思います。
それを〈傲慢〉と表現するのは悪意があるかもしれませんが、アズール自身が言っているように〈捻くれた〉人間による表現だし、無自覚=本人にそのつもりはなかった、というのがミソなのかなと思います。

5.なぜカリムの態度が焦点になったのか

ここまでカリムとジャミルのすれ違いの話をしていますが、
あくまで「捻くれた人間にはカリムのそういう点が気に触るんですよ」という話しかしておらず、
じゃあそれに気づかなかったカリムだけが全面的な原因か?というとそれはまた話が違ってくる。

繰り返しますが、4章の件について仮にカリムに原因があるとしても、それって一部分です。
ではその一部分がなんでここまでクローズアップされる会話になったのか?というと、それは「あの場ではカリムに認識を改めて、納得してもらう必要があったから」なんだと思います。

この会話の目的は、カリムに「現状を正しく認識してもらうこと」。
だから「ジャミルとカリムの関係性」にのみ焦点が当てられていて、監督生やオクタによる指摘は、ジャミルがオバブロ直前に暴露した本音と符合する部分がある。

そしてカリムは最終的には「ジャミルは悪いヤツなんだ」と認識を改めているので、目的は達成しています。

他方、ジャミルが親や学園長から忖度を強いられてきた等の、カリムに由来しない原因については、このパートではほとんど触れられていません。(それが明らかになるのは2戦目ジャミル撃破後の「渇望アプローバル!」)

なぜなら、それらの詳細は基本的にジャミルだけが知る事情であるのと、かつ、あの場でカリムと監督生たちとオクタというメンバーでするべき話でも無いから、ではないでしょうか。
あのパートは、対カリムの説得に特化したやりとりだったためにああなった、ということなんだと思います。

ただそのせいか、この会話が「ジャミルが4章の計画を企てオーバーブロットしたことの全責任がカリムに有る」というような話だと受け取られているのを散見します。

私としてはそうではなく、これは「ジャミルが言っていたこととはどういうことなのか? なぜジャミルは裏切ったのか?」をカリムに説明し、納得してもらい、先に進むためのパートなのではないかと思います。

むしろ、状況を正しく把握していないカリムが言う「オレのせいだ」が監督生に否定されることにより、
「ジャミルが4章の計画を企てオーバーブロットしたことの責任は主にカリムにある」という解釈自体は、否定されているのではないでしょうか。

あの場ではカリムに認識を改めてもらう必要があったからカリムに色々言う必要があっただけで、カリムに主たる責任があるとはっきり主張している人間は、実は作中には一人もいない(正確には、カリム自身以外にはいない)んじゃないかな、と。

Ⅲ.まとめ

色々書きましたが、まとめると、

1.ジャミルがカリムに抱く悪感情はどういうものなのか
→ 能天気でお人好しな性格ゆえに、カリムよりジャミルの方が立場が低いのだということや、立場が低い人間のしている〈苦労〉に気づかないことに対する嫌悪

2.なぜジャミルはカリムに悪感情をぶつけたのか
→計画が露呈し、追い詰められて自暴自棄になる寸前だったときに、カリムに地雷を踏まれて悪感情が爆発したから。

3.なぜジャミルはカリムを追い出そうとしたのか
→カリムの態度がジャミルにとって好ましいものになろうとそうでなかろうと、ジャミルが実力を発揮できない問題は解決しないから。
かつ、カリムさえ最適な行動をとれば事態が解決するとはジャミルは思っていなかったから。
思っていなかったからこそ、カリムの態度や行動を変えさせようとするのではなく、カリム自体を追い出す必要があった。

4.オクタと監督生の主張はどのようなものか
→砂漠の果てに飛ばされた監督生とオクタは、1でみたようなジャミルの台詞を踏まえたうえで、
「卑劣な手段を使ったジャミルが明らかに悪い」
「でもこの期に及んでそれを認めようとしない、良い子ちゃんすぎるカリムの態度にジャミルが追い詰められて暴挙に出たのは理解した」
「だからひとまずそういうジャミルの性質とか受け取り方を、カリムに説明して納得してもらおう」
と思って行動を取り、なんとか成功している。

5.なぜカリムの態度が焦点になったのか
→ジャミルが「自分を裏切った悪いヤツ」であることにひとり納得していなかったカリムに納得してもらうためのやりとりだったから。

Ⅳ最後に

以上が私が頑張って解釈した結果ですが、思うのは、彼らは別にディベートしてるわけじゃないんですよね。

なので普段そういうキャラでもないのに過度に理論立てたような話し方はしないし、各自思ったことを自分の言葉で好き勝手に言ってる。

絶賛発狂中のジャミルは言わずもがな、監督生もリーチ兄弟も懇切丁寧にカリムに一から説明したりはしないし、唯一説明的なアズールも本心の見えない言い回しをしがち。
(そもそもアズールは純粋に論点整理をしたがるというよりは、自らの目的に基づいて意識的に言葉を選びがちなところがあるキャラだと思うので、そういう部分も含めて一見してわかりづらかったのかもしれない)

キャラクターの台詞でストレートに作品としての答えを喋らせるという行為は、芸がないとか説明的だとして忌避されがちなので、
監督生とオクタとスカラ各人の個性、その大筋は共有してるけど微妙に噛み合ってなさ、を出しながらの会話としてはけっこう秀逸だなと個人的には思うんですが、読む方からすると言ってることの接続がわかりにくいという問題はあるかなと思います。
(そのせいか最近は単純な説明台詞が多くなってきている気もする)

以上
2022.03.08 新規
2022.03.09 表現微修正、整形