Afterウマ娘のソーシャルゲーム ~競輪娘は流行らない~

こんにちは。元気にうまぴょいしてますか? 私は相変わらずうまぴょいです。

さて。今回は攻略情報とか全く関係ない駄文奇文。私は一応ゲームクリエイターの端くれだったりするわけですが、ゲームクリエイターとしての視点を持って、ウマ娘が何故こうもヒットしているのか、そして、Afterウマ娘のソーシャルゲームは何を成せばいいのかと語ろうと思います。ゲーム制作に関わるプランナー及びディレクターの人に読んでほしい文章です。無料で最後まで読めた上で、最後に「こういう分析するプランナー雇ったろ」って企業向けの私のメールアドレスが500円で載ってます。

とりあえず、最初に結論から書くと、「競輪娘は流行らないし、今後のソーシャルゲーム業界は1つのパイを奪い合う戦争になる」ということを書いた上で、はじめていきましょう。

■1:Socialとはなにか ~快盗ロワイヤルとサンシャイン牧場~

ソーシャルゲームを、スマートフォンで遊べるゲームのことを示す単語だと思っているならそれは原点からして間違いです。ソーシャルとはSocial、生活であり、すなわち、生活に根付いたゲームをソーシャルゲームと定義します。この原点が、2009年の快盗ロワイヤルと、サンシャイン牧場です。1日何回、この時間と、決まったタイミングで簡単な作業をこなすと報酬がもらえる。すなわち、朝起きたら顔を洗って歯を磨いてサンシャイン牧場の手入れをして朝ごはんを食べる。そうした、生活ルーチンの中に根付くゲームが本来の意味でのソーシャルゲームです。

この中で、快盗ロワイヤルには課金と対人戦の要素が含まれ、課金アイテムによって他者よりも強くなれる、という要素を追加しました。これが今に至る、キャラクターガチャに続く要素です。生活に根付き、生活を楽しくするゲーム。それがソーシャルゲームといえるでしょう。


■2:歴史を変えたもの ~パズドラとFGO~

ソーシャルゲームの歴史の大きな変革点が、2012年のパズル&ドラゴンズと、2015年のFate/Grand Orderと言えます。パズドラは、それまで毎日決まった時間に画面をクリックするという「作業」を、「ゲーム」に変えました。FGOは、作業の中に人気作家である奈須きのこによる「読み物」を加えました。この2作のヒットは、型にハマりつつあったソーシャルゲームに、新しい要素を加えたことが起因されます。

パズドラのヒット後、多くのソーシャルゲームがその後に続きました。しかし、そのほとんどが今は名前も残っていません。これは、パズドラの模倣でしかないゲームでは、既に奪われた「生活」に組み込まれたパイを奪えなかったためです。一方、FGOの後に続くものはありません。これは、FGOというゲームがヒットした要因が、ゲーム性や商業モデルではなく、奈須きのこというヒット作家1人の力に起因しているためです。しかし、その後のソーシャルゲームが「ストーリー」に力を入れ始めたことは明白で、この点は2014年とFGO以前に始まっていたグランブルーファンタジーにも強い影響を与えているように感じます。

■3:Beforeウマ娘のソーシャルゲーム ~メキド・放置少女・このすば~

ソーシャルゲームはその媒体がスマートフォンであり、物理的なソフトを媒介しないダウンロード形態ということもあり、追加コンテンツの制作が極めて容易です。ドラゴンクエストは傑作ですが、ゲームクリアという終わりがあり、クリア後にストーリー展開は続きません。しかし、FGOもグラブルも、ゲームとして用意された部分をすべてクリアしても、持続的に新キャラ・新ストーリーが供給されることで、半永久的なプレイを約束しています。

それが「ソーシャル」という生活に根付いている以上、プレイヤーのパイはやすやすとは奪えません。さらには、課金という要素がそのパイの固定化を強固なものにします。実際問題、後発のゲームの方が出来が良いのは当然で、グラブルよりも2017年の「メギド72 絶望を希望に変えるRPG」の方がゲームとして優れており、面白いことはおそらく間違いないでしょう。しかし、それでも既にグラブルが生活に組み込まれ、かつ課金「してしまっている」という事実は、グラブルユーザーをメキドに誘引しようとする手を跳ね除けます。結果的にメキドを遊ぶユーザーは、生活パイに余りがあった者か、グラブルを始めるタイミングを逃したものだけでした。実際問題、新規のソーシャルゲームが狙っているのはその2点です。

そこを露骨についたゲームが、2017年の「放置少女〜百花繚乱の萌姫たち〜」です。放置ゲーと呼ばれるこのスタイルのソーシャルゲームは、パズドラが築いた「ゲーム」をあえて捨て去りました。何もせず、放置をするだけで物語が進む。朝に歯をみがくことがこれまでのソーシャルゲームであったのに対して、放置ゲーは歯を磨きながらアクアリウムを覗くようなものです。すなわち「パイを少しだけわけてください」「パイの端っこに置いてください」というスタイルでした。

一方、グラブルら他のソーシャルゲームに乗りそこねたユーザーは既に尽きていると言えます。メキドのみならず、アークナイツ(2019)をはじめ、多くの大型タイトルがリリースされた今、このタイミングで一切のソーシャルゲームに手を出していないユーザーはもうソーシャルゲームに手を出さないユーザーだといって間違いないでしょう。そんな中、既にグラブルなどのソーシャルゲームをプレイしているユーザーからパイを奪おうとしたのが、2020年の「この素晴らしい世界に祝福を!ファンタスティックデイズ」です。このゲームでは、ライトノベル・小説として人気のあったこのすばを餌に、ユーザーを引き込もうとしました。何かしらのアニメとのタイアップはパズドラでもよくされていますが、単独かつ大予算で作られたこのファンは、今のソーシャルゲームを語るにあたって外せない一本です。この他にも、「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」(2015)など、最初から特定の創作作品とタッグを組んだソーシャルゲームが多くリリースされ、ファンを誘引しています。

そして今、「盾の勇者の成り上がり〜RERISE〜」がリリースされました。これは人気作品である盾の勇者の成り上がりとタッグを組んだ上での放置ゲームであり、限られたパイを分け合い奪い合う現在のソーシャルゲーム界隈の最終形というべきゲーム・・・

に、なるはずでした。

■4:すべてのパイを独占するウマ娘

ウマ娘が破壊したのは、ソーシャルゲームの「ソーシャル」という概念です。今までのソーシャルゲームは前述の通り、朝起きて仕事や学校に行くまでの時間の中に組み込まれるルーチンでしたが、ウマ娘は「朝起きたらウマ娘をやってそのまま仕事にも学校にも行かずにウマ娘を遊んでね」を可能なものにしています。それが、1プレイ30~1時間というゲーム時間と、圧倒的に少ないスタミナ(ゲームをプレイするためのコスト)要求量です。同じCygamesのソーシャルゲームであり、現在もヒットしている「プリンセスコネクト!Re:Dive」(2018)は、1ゲームが概ね30秒程度で終了し、1時間ゲームを続けるためには数千円の課金を要求します。その一方、ウマ娘は無料で6時間遊べてしまうのです。これはもはや、「ソーシャル」ゲームではありません。

そして、それをさせるだけのゲームとしての面白さがウマ娘にはあります。極めてクオリティの高いストーリーは、FGOに引けを取りません。3Dモデルの出来も極めて高い。ゲームとしては、アプリでもリリースされている実況パワフルプロ野球のサクセスモードに近いものですが、育てたウマ娘に後に引き継ぐためのデータが構築され、それをかけあわせることでより強いウマ娘を育てるというシステムは、多くのゲーマーを未だに深い沼の底から離さないポケットモンスターの孵化厳選そのものです。面白いゲーム、そして、それが後への面白さを加速させる。ウマ娘はもう止まりません。

そして、その面白さが口コミで広まりました。口コミというものはどんな予算をかけた宣伝よりも強力です。結果、すべてのソーシャルゲームを遊んでいたユーザーがウマ娘に誘引され、ウマ娘の魅力を持って、それまで数個のソーシャルゲームで分け合っていたパイそすべて貪られた今に至ります。放置ゲーなどもう記憶の彼方です。

■5:ゲームクリエイターの好き! ~アイドルマスターに無いもの~

そんなウマ娘にパイを食われずに残っているのが、アイドルマスターシリーズです。アイドルマスターは、ウマ娘に限りなく近い形態を、ウマ娘以前に構築していました。そして、声優やリアルでのライブを絡ませたプロモーションは、ユーザーに「俺がアイドルを育てている」という心を強く持たせ、ウマ娘にも食われないパイを残しているのです。

しかし、ウマ娘とアイドルマスターをゲームとして比べた場合、圧倒的にウマ娘に軍配が上がると言わざるをえません。その理由が、現実の競馬を題材にした設定と物語。そして、ゲームクリエイターの「好き!」が見えることにあります。

先日、Amazonにおけるアニメウマ娘のDVDに☆5つのレビューがつきました。内容をかいつまんで説明すると、レビュワーは競馬ファンであり、最初は「ウマ娘などただの競馬のガワをかぶった萌えアニメだ」と甘く見ていたものの、視聴するにしたがって、クリエイターがどれだけ競馬を愛し、リスペクトを込めてウマ娘のストーリーを作ったかが見えてしまい、最終的に拍手喝采の元☆5つをつけた、という内容です。そうです、アイドルマスターには「原作」がありませんが、ウマ娘には「原作」があるのです。

史実とは常にエキサイティングなものであり、それはいかなる創作にも勝ります。つまるところ、ウマ娘のストーリーは0からの創作ではなく、既に面白い競馬史を再構築したにすぎないのです。それがソーシャルゲームにおける「ストーリー」にフューチャリングし成功した先駆者であるFGOよりも面白いストーリーとなりました。奈須きのこという天才が成し遂げた空想の生産ではなく、完成された物語の整理。FGOを越えるのは奈須きのこ以上の天才ではなく、現実だったわけです。

アイドルマスターは素晴らしいコンテンツです。しかし、アイドルマスターにはAKB48も小泉今日子も登場しません。感動的なエピソードを多く含む史実のアイドルのエピソードは、版権という高い壁に阻まれ、オマージュに留めることしかできない宝の山を見せています。しかし、現実の壁を打ち破ったウマ娘は、今後、ナリタブライアンをはじめとし、多くの名馬を残しています。そして、ここまでの覇権をなした今、版権的に不可能と言われたディープインパクトすら、現実の物として見えてきています。そして、その夢を見せているのが、クリエイターの「好き!」という熱意だったのです。

■6:Afterウマ娘のソーシャルゲームを作る

今、多くのゲームディレクターが、クリエイターに「第2のウマ娘を作れ」と号令していることでしょう。では、どうすれば第2のウマ娘をリリースできるのでしょうか。

まず1つに、ゲームとして手を抜かないこと。単純に面白く、永遠にプレイできるゲームを作る。それも課金=強さであってはいけません。ウマ娘は、課金したら面白いではなく、面白いから課金してしまう、であったのです。ゲーム性もストーリーもグラフィックもサウンドも。すべてにおいて手が抜けません。多くのゲームディレクターの要求する「低予算」「短期間」という寝言は無視せざるをえません。放置ゲーを生み出した姑息さ(かしこさ)ではなく、それらをすべて奪い取る暴虐さが要求されているのです。

そしてなによりも大事なのはクリエイターの「好き!」を形にすることです。競馬が流行ったから競輪や競艇だ、という話ではないのです。実際に好きであり、楽しんでいる趣味に、最大限のリスペクトを持ちつつ元ネタとするのです。

古くからのオタクの覇権コンテンツから考えるなら、戦争と鉄道は真っ先に思い浮かびます。戦争は好きと言いにくいため、艦隊コレクションやアズールレーンのような、兵器のみにスポットを当てた作品が作られていますが、その実、戦争の中のエピソードはどれもエンターテイメントになってしまえるだけの魅力を持っています。ただ、未だに第二次世界大戦の記憶が消せないだけです。その点で大河ドラマは、既に記憶の彼方であるが故に、人殺しの物語をコンテンツにできています。コーエーの信長の野望、三国志は強敵ですが、もしも戦史が「好き!」なクリエイターが集まれば、決して悪い勝負にはならないはずです。鉄道もまた同じです。既に「ミストトレインガールズ~霧の世界の車窓から~」というゲームはありますが、これは所詮は艦これに続く擬人化物。撮り鉄、乗り鉄、そういった鉄道オタクの心を揺さぶるに至らないのは、そこに含有されている「好き!」が足りないためです。連れてくるのはラノベ作家ではなく、熱心な鉄道オタクだったんですよ。

こういった形の成功を考えるに、異世界転生小説「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」が思い浮かびます。これは原作者である柳内たくみが、自衛官の経験があったからこそ書けた作品です。手塚治虫という天才はブラックジャックを書くにあたって医学を勉強しましたが、それはあくまで手塚治虫が天才だったから出来た所業。ブラックジャックは本来、医師を経験した漫画家が書くべき作品であり、それこそブラックジャックによろしくだったわけです。

ともあれ、Afterウマ娘のソーシャルゲームに必要なのは、経験から構築された強い「好き!」と、手を抜かず自重もしないクリエイターの熱意です・・・が。

そんな環境でゲームが作れたら苦労しないんだよ!

というのが全ゲームクリエイターの叫びです。しかし、もはやそれでしかウマ娘は越えられない。だからこそ、ウマ娘という壁は、今後3年は越えることができないでしょう。

■7:3時間後になにがある?

知らんのか。ウマ娘のメンテが開ける。(2021年3月29日13時現在)

ソーシャルゲームは、Afterウマ娘(AU)という新時代に入りました。この後、競輪娘だの競艇娘だのっていうパクりが流星の如く流れ去り、順番にアイマス・グラブル・FGO以外のソーシャルゲームが滅びます。そして、ウマ娘が世界の王者として君臨し、それは今の常識で考えれば「きちがい」としか言えないゲームディレクターの登場まで続くことでしょう。願わくば、そんな「きちがい」の下で働けることを祈り、課金領域に私のメールアドレスを書いて終わりにします。


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