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ノウワン 第七段 漆黒(パート4)

 「タケルくん。君は知らないだろうがこの世界はSFでは語りきれないのだ。むしろSFではなくSとMで語れることのほうが多いまである。ふふふ、ヒューマンネイチャー。。。」
 パンティーを頭頂部に被った矢島隼人の変身は厳かに続けられた、それは夏の明け方に繭を抜け出し羽を広げようとする蝶のように。まずネクタイが小気味の良い音を立てて首筋を離れ、次にジャケットが床にするりと落ちる、Yシャツがヒラリと宙の中を泳ぎこれもまた静かに床に着地する。矢島隼人はYシャツの下には何も着用しない主義だ、腋毛はフサリと刈り揃えられており、これは彼が紳士であることを示している。胸毛は永久脱毛されており、これは矢島が周囲の動植物に敵意を表さぬ姿勢を示している、友好の証だ。来客用のスリッパの踵を揃え、最後に靴下を器用にも両足の小指を用いて脱ぎ散らかし蝶は羽ばたいた。これは裸族の業界では正当な作法であり、作法の中にこそ真の自由があることを彼が知っていることを表していた、つまり矢島はエレガンスなのである。この時既に矢島隼人は禅の最高位の境地にいる。たぶん。
 「パイルダーオン」。静かにそう呟くと矢島隼人は頭頂部のパンティーを顔面中央にまでずり下ろし、そして天井を仰ぎ見て声も上げずに泣いた。両目から大粒の涙が次から次へと絶え間なくこぼれ落ちている。
 「時田、あの教授。。。全裸になって泣いている。ママの下着(らしきもの)をかぶって泣いているよ。」
 「タケルさま、あれは傷ついた大人の男の姿なのです。矢島教授はパンティーを被り全裸になる時、あまりの羞恥心に耐えかね涙を流さざるを得ないのです。」
 「そんなに恥ずかしいんだったら最初から脱いだり被ったりしなきゃいいのに。」
 「いいえ、それが矢島隼人という男なのです。そして我々といえどあの状態になった矢島隼人から目を背けることは許されない。それが作法だからです。」
 「作法?」
 「大人の作法です。タケルさま。」
 大人ってなんなんだろう?戸惑いつつも我妻 タケルは時田の教えに従った。時田とタケルの間には我々民衆には想像もできないほど高度な帝王学がある、そうに違いない。

 「タケル君のいうマルチバース、小宇宙と小宇宙の交流は現時点において膨大な神憑りのエネルギーをもってしても不可能と言わざるを得ません。あれはSF映画の世界でしか有り得ないと思ってください。理由は2つ、①神憑りと言えども現実的にイメージできないものは動かせない。現在の人類は小宇宙の外側(外宇宙)について何もわかっていない。②別の宇宙からの接触においても物理学的に不可能と言わざるをえない。超高度な生命体が仮に居たとしても大宇宙全域を見渡しその中からこちらの小宇宙の座標を特定できる可能性があまりに低すぎる。
 また別の小宇宙が我々と同じ物理法則に従っていると仮定しても我々と同じ生命体がそこにいて、我々と同じ文化を営んでいる可能性はもっと低いです。寧ろ原子核が一種類しかない小宇宙が誕生している可能性の方が遥かに高い。悲しい、悲しすぎる。」
 「時田、この裸の教授つまんないよ。」
 「タケル様、お静かに、ここからが本番です。」
 「では神憑りの能力とはなんなのでしょう?今から私、ヤジマは7年前に下関大学ユコ博士が提唱した ユコ時空零子理論を皆様に提示したく思います。これからの私は物理学者ではなく、パンティーを崇める会のカリスマとして話をさせていただきましょう。物理学の枠や人の枠を離れた存在、それが私、人呼んでスーパーセクシー。パンティーを崇める会のカリスマなのです。ふふふ始めますよ。」


 「スーパーセクシー。アイムセクシー。ノーノーノノノノー。アイムスーパーセクシー♫」
 「矢島、いいから始めろ。」
 「丸山。矢島って誰だ?まさかお前、俺を矢島だとおもっているのか?」
 「いいから始めろよ!スーパーセクシー!!!」
 「よかろう。只今から私スーパーセクシーはトップギア、いやトップブラに入る。」
 「お待ちください、スーパーセクシー様。このようなこともあろうかと時田はこのような物を持参してまいりました。」
 「おお、これは素敵だ。時田さん、ナイスパンティー!」
 時田がスーパーセクシー(※矢島教授です)に手渡したのは一式のトランプ52枚であった。
 「冒頭に矢島が皆様に問いた質問を覚えていらっしゃいますでしょうか?この小宇宙が何次元であるか?という問いです。実のところ最新の物理学をもってしてもこれは解き明かされておりません。粒子物理学と一般相対性理論の相性が悪いため、これを整合させるには膨大な数の次元が必要となるからです、あまりに現実からかけ離れ過ぎています。しかし、一つの小宇宙の中に次元ではなく、時空の数が膨大にあるとすればどうでしょうか?例えばこのトランプのように、一つの小宇宙の中に様々な時間が場となり重なりあっていたとすれば?その重なり合っている一式の厚みをもったカードの塊を時空間と解釈した場合どうでしょうか?」
 「スーパーセクシーさんさぁ、時間の不可逆性を知らないの?ドラえもんじゃないんでしょ?SFじゃないんでしょ?さっきから話がつまんないよ。」
 「タケルくん。時間が不可逆性を持っているのは時間というものが物質ではないからです。今のわたしは既にスーパーセクシー、物理学者ではありません。時間はあらゆる電磁気力・光子・核力などのチカラに左右されたりエネルギーに還元されたりすることもない、つまり物質ではないのです。ただ宇宙誕生以来進み広がり続けるだけの空間。ちなみに私スーパーセクシーは下関にあるアマノヌマホコの唯一の探検者なのですが、あれがあらゆる検査機器になんの反応も見せないのはアマノヌマホコが時間の塊であり、超空間だからです。あれが我々に巨大な棒・もしくは塔に見えるのは三次元空間からみた錯覚に過ぎません。」
 「アマノヌマホコ!スーパーセクシーは、まさかあれの世界唯一の探検家なの?僕は、この僕ですら噂話としてまともに相手をしていなかった。ほんとうに?。」
 我妻 タケルは衝撃を受けた、そして頭の中で不意に懐かしい音楽『機動戦士ガンダムZZー夢を忘れた古い地球人よ』が大音量で流れ始めだした。子供がどれだけ薀蓄を縦並べても大人の経験には優らない、この戸惑いと止まらない苛立ち!これがもしや。。。。。思春期?
 「トランプのカード一枚一枚が過去現在そして不確定な未来を総括したものなのです。別に過去のカード・現在のカード・未来のカードなどがあるわけではありません。」
 「時田が質問します、スーパーセクシー殿。わたくし共の常識では一つの宇宙に一つの時間。これが当たり前となっています。私が聞く所によると一つの宇宙に無数に時間帯・時間平面があるというユコ博士の理論には多くの批判がなされたとか、貴方はこれにどう反論するのでしょうか?」
 「反論はありません、一つの小宇宙に時間は一つですよ。しかし説明の必要はありますね。今から実演致しましょう。」
 スーパーセクシー(※矢島教授)に残された最後の一枚の着衣、黒に染められたブリーフなのだが、この後背部には山口県のマスコットキャラクターであるチョルルがプリントアウトされている。チョルル、とても穏やかな5色、庇護欲を掻き立てられるか弱い姿、首を傾げたその風情が愛らしい。山河と海が調和した山口の姿を見事に擬人化しているといえよう。スーパーセクシーはそのチョルルと己のケツの間に52枚のトランプを挟み込んだ。そして一枚のカードをケツから抜き取り、と思えばまたパンツに挟み込み、挟み込んだと思いきやまた一枚別のカードをケツから抜き取る、そしてその行為を幾度もなく繰り返してみせた。
 「わかりましたか?」
 アラハバキ首脳部の大中が流石に怒鳴らざるを得ない。
 「わっかんねぇよ!つかさっきからずっとわかんねぇよ!なんでお前は今パンイチなんだ?全部説明し直せよ!スーパーセクシーはまだいいが前回のラストでお前が言った台詞は明らかにアウトだ!何考えてんだ!!」
 スーパーセクシー矢島はパンイチではない。頭に被せたものを合わせるとパン2ということになる。
 「諦めろ。」
 佐伯投馬が大中を羽交い締めにする。だが大中は執拗に続けた。
 「さっきお前の仲間の猫の着ぐるみが泡吹いて運ばれていったぞ!あの白目が忘れられねぇ!俺はポカンと見つめていたよ、事の成り行きをよ!意味わかんねぇよ!最初から説明し直せよ!!」
 「わたくし時田が説明しましょう。この宇宙で動いている時間は一つ、52枚の時間平面の中で動いているのもその中の一枚の平面に過ぎない。しかもそれはランダムで選ばれている、そしてその他の51枚のカードはブリーフの中に隠された状態にある。時間平面は物質ではないから動いている時間の中からブリーフの中に隠された動いていない51枚の時間平面を観測することはできない。しかしながらこれが本当に行われていると仮定した場合、私たちは。。。」
 「はい、私たちは幾度もブリーフの中で時間を停止させられては現れたりを繰り返しています、死んだり新しく生まれ変わったりをこの一瞬の間にカードの交換が行われるたび無数に繰り返しているのです。時間が一つの流れだと感じるのは我々の錯覚にすぎません。何度も何度も途切れては作り直されているのです。」
 矢島教授の両目から鹿威しの如く水が溢れ出した。この宇宙は別に我々人類にとって都合よく作られているものではない、まさに一切無常である。
 我々はたまたま生かされているに過ぎないし、その生も甚だおぼつかない、我々の一生は確証がないものであり塵に等しいのである。
 「それは流石に納得いかねぇ。俺たちが何をやっても意味がなくなるじゃねぇか。」佐伯投馬が呟いた。
 「近々、貴方達も思い知るでしょう。多少なりとも神憑りと関わってしまえばその影響から免れるわけにはいけないのですから。佐伯さん、大中さん。」
 スーパーセクシーの涙が溢れて止まらない眼をじっと二人に差し向けた。
 「なんだよ?。」
 「神話の世界にようこそ。」
 スーパーセクシーは言い放った。

                             つづく

逢坂紀行

 猫F伝は現在の物理学を否定する立場ではありませんし、むしろそれをスーパースピリチュアルな詐欺商法に展開する連中を激しく憎む立場です。 
 このお話はあくまでもフィクションです。あらゆる団体や宗教とかその他諸々、一切関係ありません。嘘っぱちなんで其の辺宜しくお願いいたします。ただ、一方でみんながみんな同じ世界観、物理で物語を描くのは面白くないと思ってます。自分の世界を創り描く、それがモノ創りをする人の悦楽なのではないでしょうか?
 流行り廃りは結構ですが、みんながみんな同じって気持ち悪いと思います。

 


 
 


 
 
 
 

 


 


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