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ノウワン 第十一段 漆黒(パート6)

    わたしのお父さんは家族思いの優しい父親だった。
 「お前の父が土地を明け渡すからだ。」
 「わたしの家族が何処かにつれていかれた、元々はといえばお前の父が!」
 ある日、父がいなくなった。みんなから石を投げつけられ元の形をとどめていない。私たちの集落の人々が私の父を私刑の末、死亡させたのだ。
 「君が天叢雲(あまのむらくも)の神憑りか。その能力を使えば君のお父さんの名誉を回復できるかもしれない、私たち宿禰衆は協力を惜しまないよ・・・。」
 あの男はそう言った。私は子供で、何も判ってなくて。そして私たちの集落は死んだ。
 私は父のことも皆のこともあの場所のことも大好きで、何とかしたくて、一生懸命頑張って、そして私のせいで私の故郷は死んだ。

 こんなことが許されてたまるか、何でお前たちは全てが無かったことにするんだ。私は許さない、お前たちがしたように何を利用しても私は復讐する。今度はお前たちが犠牲の羊になる番だ。

 「羿白さん!」。リリテウの声でグエン パイは目覚めた。どうやら少し嫌な夢を見ていたようだ。
 「リリテウ?わたしなにか、酷い・・・めを」。
 「矢島の『ど腐れ』がやらかしやがったんですよ、糞が!あいつは山草博士や羿白さんがいなければ何も出来ないくせに恩知らずで傍若無人です!許せません。」
 リリテウは怒っても綺麗な顔をしているなぁ。そう思いながら羿白の脳裏では凌辱された故郷のことが鮮明に再生されていた。
 忘れない。
 同時に医務室の扉が開かれ木幡研究所の職員がこの部屋に一斉に溢れかえった。殆どが男どもである。
 「羿白さん、大丈夫ですか?」
 「矢島の野郎、本当に許せねぇ」
 「私らはみんな羿白さんの味方です!」
 「何がパンティを奉る会だ!あんな奴はウチに要りませんよ!ど変態が!!」 
 「あいつは逆さ釣りにして股裂きにするべきだ。」
 「いや、身体中にはちみつを塗りたくって蟻塚に縛りつけろ!」
 「みんな落ち着け、矢島をコモドドラゴンと同じ檻に入れて生活させようではないか。あいつにはそれがお似合いだ、そうだろ?」
 世界には色んな処刑法があるなぁ。
 羿白は着ぐるみの頭部を脱ぎ去ると長い髪の毛を掻き上げた。途端に医務室が静まり返る、羿白の顔にはとりたてて特徴がないのだが、だからこそ中性的な柔和な表情が引き立てられ、そこに男性の庇護欲を引き付けてやまないな魅力があった。リリテウと並ぶと一枚の名画のような壮観な美しさがあり、男は誰しも心を打たれてしまう。

 「みんな、心配かけたみたいね。わたしは大丈夫。」
 どれほどの犠牲を払っても私はやる。
 「でも皆仲良くしなきゃ嫌だよ、喧嘩はダメ。」
 どんな代償も厭わない、すべてを偽り犠牲に捧げても構わない。
 「矢島はど変態だけど、アレにはアレの考えがあるのでしょうよ、必要であれば私が自ら処分するわ、簡単だもの。だからみんな、大丈夫、心配しないで。」
 やはり第六の神憑りも『時間改変』が使えるのか。だから矢島は私を会議室から追い出した?。熱心党の人間の前でもし私が感情的になったら素性がバレるかもしれない、いや、そんな必要はないか。矢島にそんな繊細さがあるわけないし、あいつ何でいきなりスーパーセクシーになったのよ、腹が立つ。
 「新しい顔を持ってきてくれるかしら、矢島のドクサレに負けないフルフェイスのやつを。」
 医務室がどよめいた。
 「羿白さん!」
 「リリテウ、私は大丈夫。気を使わなくてもいい、今回の会議は長引くわよ。わたしは最後までいなきゃいけないの。」
 特に丸山君は純粋だから。


 「もしかしたら別の時間では私はそこにいる丸山と『パンティー泥棒を憐れむ唄』を小さなライブハウスで歌っているかもしれません。時間はそれほどまでに不確定で複雑であらゆる可能性で満ち溢れているのです。」
 「おいおい、矢島。いくらなんでも流石にそれだけはねぇよ。」
 「無い?そうなのか?。」
 「ないない。流石にそれはない。もしかして俺たちバンドとかやっていて、俺ベースとか弾いていて、お前はドラム兼ボーカルなのか?絶対にないよ。あり得なさすぎて流石にツボにはまって笑いが止まらないよ。面白すぎるよ。」
 「そうか?。。。確かにな。さすがにそれはない。のか?」
 「あるわけねぇだろ!お前本当に馬鹿だなぁ。」
 「そっか!ないか!!」
 あっはっはっはっあっはっはっはあっはっはっはあっはっはっはあっはっはっはあっはっはっは(*^▽^*) (*^▽^*) 。


 「地下、11階?」 
 「半年前からよ、御屋形様の命令で私と時田さんが作ったの。地下30階まであるし回廊を設けて日高見まで繋がっているわ。」
 「流石は天叢雲の神憑り。」
 「リリテウ、前に言わなかったっけ?わたしはあまりその呼び名が好きじゃないの、控えてくれないかしら。正直、気に障る。」
 「すみません。」
 羿白は完全に顔が隠されたフルフェイスの猫の頭部を着用していた、表情が読めない。マスターキーを回すとエレベーターは地下に向かって作動した、ずいぶんと簡素な作りだ。
 セキュリティーに問題はないのかしら?「いや羿白さんが作るものに並なものはないか」。リリテウは羿白を見つめる。全身着ぐるみになってしまっているけど、この人は仮に全世界を敵に回しても、たった独りで上手く立ち回ってしまえるだろう。羿白さんが味方でいる限り誰も安易にはアラハバキに手を出せない。
 「ねぇリリテウ、私は御屋形様の全知には及ばないわ。」
 「(それはそうでしょうけど)何でそんなことをいうんですか?」
 「生理的に受け付けないのよ、アイツを、どうしても。」
 アイツ?

 木幡研究所の地下11階には秘密基地が存在している。リリテウはそのことを今初めて羿白から聞かされたのであった。


 会議室では山草博士が長い鼻をふらつかせながら『零子生命体』について話をしていた。
 「矢島の云う零子生命体というのは不安定になった精霊のことじゃよ。特に鬼、嘗て大和の国を乱そうとした牛神信仰のなれの果て、人の心を操り惑わすことに秀でたそれらは太古の昔に犯した罪を償うために神憑りに使役されることがままあるということじゃ。のう?熱心党の方、違うかね?」。
 大中と佐伯が驚きの表情で『御屋形様のご友人』を凝視した。熱心党の男は微動だにしない。
 「第六の神憑りが西横堀川工事予定地で堀を築いた際、人も車も誘導されるようにその道を開けたという、おそらく鬼が人々の心を操ったのじゃろう。しかし考古学者としての立場から言わせてもらえば、これは本来の神憑りや鬼の生業ではない。」
 神憑りの本来の役割とは宇宙数多に存在する可能性を統合し、そこにバランスと秩序をもたせることである、人助けではない。寧ろこのような奇跡を大規模に人々の前で行うことは秩序を乱すことになりかねない。
 「誰かが神憑りを利用して、むやみにこの世の秩序を乱そうとしておるようにしかワシには思えんのじゃが、心当たりはないかの?熱心党の方よ?」。
 「貴方によく言っておきます。我々は神々の声に忠実に従うだけです。神々に従うことはその声に耳を傾けることから始まるのであって、いたずらに神具を集めることではないのです。あなたは秩序を語る前に神の声に耳を傾け忠実になることから始めるべきでしょう。」
 「とんだ詭弁じゃな。それにワシの一族は何千年も前から祭祀を続けておるよ。」
 「お二人ともおやめください。御屋形様はお二人が口論するのを望みません。」
 時田は二人の会話を制止した。
 「ここにいる皆様に御屋形様からの指令があります。おそらくこの場で説明しても理解が及ばない方々もいらっしゃると思います。場を移しましょう。別室にてそのことをお伝えしますので、わたくし時田についてきてくださいますか?」 


 エレベーターの扉を潜り抜けると長い回廊が続く、歩みを進めながら羿白はリリテウに話しかける。
 「ねぇ、リリテウ。山草博士から今日の会議の趣旨を何か聞かされている?」。
 「?西横堀川のテロ、第六の神憑りに関してのことじゃないんですか?」
 「そうよね、わたしもさっき丸山に何も言えなかったから山草博士の気持ちはわかるわ。言いたくないわよねぇ。」
 回廊の奥にある扉のドアノブをひねり、扉を開放する。
 「ようこそ、リリテウ、スーパーブラック団に。」

 そこは300㎡に及ぶ広大な地下空間であった。5色に分けられた作業服を着た無数の隊士はおのおのの役割をこなし中央の巨大な鳥型の機械を囲んでなにやら整備をしているらしい。LEDのライトが室内を照らす中、目立つのは一面岩壁を模して造られた壁である。さも地下を掘り進めて言った結果、偶然にもここに広大な空間を見つけました、と言いたげな風情だが芸が荒すぎて見る者を情けない気分にさせる。明らかにポリエチレンだ。
 「なんなんですか、ここ。」
 「リリテウ、聞いて、貴女はいまからスーパーブラック団の幹部になるの。」
 「あの中央の鳥の形をした嘘の塊はなんなんですか?まさか羿白さんがつくったんじゃ?」
 「鉄巨獣。わたしが作ったのよ。」
 「なんなんですか?スーパーブラック団って?」
 「悪の組織よ。おねがい、リリテウ。これ以上は説明したくない。」
 「貴女は私に悪の組織の幹部になれと言っているのですか?」
 「そう、私は貴女に悪の組織の幹部になれと言っているの。」
  リリテウは頭(かぶり)をふって拒絶をする。
 「山草博士の許可は頂いているわ。」
  え?わたし、売られた?

 突然だが皆様は『大改造!!劇的ぴフォーアフター』という朝ぴ放送のドキュメンタリー番組をご存じだろうか?ご存じの方はどうかしばらく加藤みどりさんのナレーションを脳内で鳴らしつつ楽しんでほしい。知らない方はサザエぴんの声優といえば分かっていただけるだろうか?それでは3,2,1,ぴ!

 木幡研究所の地下、約10メートルに位置するスーパーブラック団のアジト。そこには5000人以上の団員が生活しております。団員の食事・睡眠・レクレーションなどはここで賄われており、働く人たちに快適な居住空間を与えるべく匠の技があちらこちらに生かされているのです。それでは皆様、今週の匠である時田 琢磨の御業を堪能しようではありませんか。
 まずは何といっても電力、電力は巨大な設備の根幹です。自然エネルギーでは到底作り出しえない強い電圧、電圧が全てを解決するのです。おやこちらに重厚感漂う扉があります、愛くるしい黄色と黒のツートンカラー、扇風機を模したようなマークがデカデカと貼りつけられ、存在感の強さを印象付けられます。さぁ少し中を覗いてみましょう。まぁなんということでしょう、真っ白な防護服を着た作業員たちが生き生きと働いているではないですか。検知器の針があまりの匠の技に大きく反応しています。びくんびくん。
 続いてリビングに参りましょう。300㎡に及ぶ大空間、その中央には鳥を模した鉄巨獣が今か今かと出番を待ち続けております。甚だ実用性に疑問を持たざるを得ない巨大兵器に無数の作業員が取り付いて整備をおこなっています。まぁなんということでしょう!鉄巨獣の真下に収納スペースが!巨獣をメンテナンスするため高さを自由自在に変えれます、快適な作業を行うために考えられた匠の心配り。作業員も思わずニッコリです。つづきまして。。。。。。

 いやよ、こんな所にいきなりつれてこられて、悪の組織の幹部になれ?どうかしているわ。なんなのよ、羿白さんも山草博士も勝手すぎる。
 「初めまして、リリテウ ラム君。」
 誰?
 「リリテウ、私たちの新しいボスだニャン。越中 一樹 総統閣下。」
 元特撮監督のテロリスト。天頂部に取り付けられた指令室に管内マイクを使用し話しかけてくる。遠目で確認しずらいが、どうやら頭部に触覚を取り付けた白色の全身タイツを着用し顔もしっかりペインティングされている。
 「早速だが、着替えてもらおう。安心したまえ、選択肢は用意してある。選べ!①深田恭子②長澤まさみ③黒木メイサ。どれがいい?どれも素敵だぞ。」
 なにをいっているの?
 「リリテウ、選ぶニャンよ」。
 猫の着ぐるみが、話しかけてくるなぁ。なんか顔が怖いよ。いきなり変な所に連れ込んで着替えろ?性加害じゃないかなこれ?
 「他の人間には無理だ。サイズは君に合わせてある。」
 知らんがな。
 「着替えるなら早くしろ、でなければ帰れ!」
 え?いいの?
 「着替えるニャン、リリテウ。」
 羿白さん、せっかくだけど私帰らせていただきます。
 「リリテウ、なんのためにここに来たニャン?」
 あなたに連れられてきたんだけど。ながれのまま。
 「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ。」
 越中さん、勝手にアテレコしないで欲しいなぁ。帰れといったり逃げるなといったりあなた滅茶苦茶だよ。

 「強制はいかんよ、二人とも。」背後から話しかけてきたのは山草博士だ。リリテウは期待した、この偉大な考古学界の巨匠が私を助けてくれると。だがそれは間違いだった。山草博士はやおら自分に近づくと説得を始めたのである。「ワシは狡く男を手玉にとる女も好きなんじゃが、やはり少し隙を見せてしまう女の方がいいと思うんじゃ。そうじゃろ?」やがて会議に参加していたメンバーがこの地下基地に集合したころ、リリテウは不承不承決断した。
 「①深田恭子で。」
 消え入りそうな、弱々しい、か細い声で言った。

                             つづく

 

 逢坂紀行
 ①ドロンジョ様②サソリオーグ③峰 不二子です。
 
 

 

 
 
 
 
 


 
 
 
 

 

 
 


 


 
 

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