恋愛小説「果実に憧れて。」

学校の帰り道。雪が降りそう降らない、なんだかもやもやした天気。途中まで下校ルートが同じの麻木君と帰る。仲がいいわけではない、だけど毎日顔を合わせていると慣れてくる、このぎこちない不思議な関係にも。

思春期、15歳。男女の違いをまだ理解もできない年頃。甘かったり、酸っぱかったり、苦かったり、大やけどをしたり。それでも、私たちは果実に憧れて。出会ってすぐの間は、こんなにぎこちない関係ではなかった。

麻木君とは同じ部活仲間だ。特別な関係ではないけれど、なんだかほっとけなくて、けれどどこか溝を感じている。きっとお互いに。近いようで離れている。離れているようで、近い。ずっと不思議なまま1年が過ぎた。

一緒に帰る頻度は減り、たまに一緒に帰っても何も喋らない。お互い恋人がいるから?けれど、そんな問題じゃないような空気。惹かれても、麻木君とは実らないと、感じてしまった私は、やけになった私は好きでもない同級生と恋人になった。心と身体がどこにあるのか、わからない。空気のように生きる。

父親を交通事故で亡くしていた麻木君は警察官になりたいと言っていた。お父さんが事故に遭った日は雨が降っていたそうだ。同窓会の飲み会でかなり酔っ払って、帰宅途中にそのまま道路の真ん中で寝てしまったとか。そして、そのまま・・・。

どんなに頑張っても埋まらない溝を知ったのは随分先のこと。

「私のお父さんと麻木君のお父さんは同じ学校出身で、その日、仲良しグループをだけの同窓会にいた。」みんなかなり酔っ払っていたらしい・・・。そういうこと。

麻木君のお父さんの身元確認に私のお父さんが呼ばれた話を知るのが遅すぎたけれど、知ったとしてもどうにもならなかった。もっと、ぎこちなくなって、もしかしたら部活も辞めて避けてしまったかもしれない。

季節が流れて、私たちは高校3年生になった。部活動はあと半年もない。総体に出れば、一緒に帰る日も無くなってしまう。時間の流れを強く感じながら、日々を過ごす。

今日は久しぶりに麻木君と途中まで一緒に帰ることになった。いつも、成り行き。部活が終わって、それから同じ方面の仲間が休みだったり早退していたり、部長会議で2人だけ居残りだったり。そんなことが起きれば、道場でどちらかが待っている。

「一緒に帰る?」なんて言葉はない。いつもは、各々帰っている癖に、2人になるといつも、先に帰宅の準備をできた側が下駄箱の前で待ってる。

この瞬間が私は好きだ。待っていてくれたんだと心がウルっときたり、私が先に待っている日は目が合ってホッとしたり。だけど、麻木君はどんな心境なのか、私にはわからない。

雨が降りそうな降らなさそうな、モヤモヤした天気。今日も何も喋らず、途中で「じゃあね。」「うん。」と話して別々の帰路へ着くと思っていた。

そう、思っていた。いつも通り、変わらない、地道な、普通な、平凡な・・・そんな毎日が良いのだと。正しいのだと、思っていた。

「スマホ・・・あれ?どこ?」

スマホが鞄の中にないことに気づく。もしかしたら、落としたかもしれない。焦った私は、ひとまず部室まで戻ることに。麻木君には「先に帰ってって。」と伝えようとした。伝えようとしたのに、麻木君は時々、変に優しい。出会ってから、いい感じになってから、それからずっと溝のあるぎこちない関係が続いてからも、時々、お互い顔真っ赤になることあった。今日は、私だけ顔赤くなってる。

「どうしたん?」

「一緒に探そ。」

麻木君と一緒に部室まで戻ったものの、見つからず、焦る私。

「電話鳴らしてみよ。」

ブーブーとバイブの音が静かに聞こえる。

結局のところ、スポーツバックの底に埋もれていただけで、無事見つかったのだ。

「わぁ・・・。ごめん。」

「なぁ。俺、卒業したら、警察学校に行くんだけどさ、三木はどうするの?進路さ。」

普段黙ったままの癖に、変な感じ。だけど、嬉しい。なんか微笑ましい。

「まぁ。金銭的に進学ができないし、とりあえず家業の手伝いをしながら、追々自分で起業もしたいよね。」

今日の麻木君はどうしたんだろう。なんで、笑ってるんだろう。出会ってから、溝を感じはじめるまでの頃の麻木君と私みたい。もし、溝がなかったら、きっと。きっと。

「麻木君はー」
「三木はー」

言葉が被った。

久しぶりに目がじっと合った気がした。ほんわかした時間と温かい血液が一瞬通った。ほんの数秒だけ。嬉しかったよ、麻木君。



もしかしたら、ここで行動をすれば、違った人生だったかもしれない。一緒にならずとも、わざわざ好きでもない人を恋人し続けることを辞めれたかもしれない。

もしも、はじめから溝なんてものがなれければ。

きっと。きっと。

脳内で何かを願ってる私がいる。いる。ここは、どこ・・・?

「・・・あれ?私なんで、進路が家業と起業?」

「それに、脳内ハッピーモードだけど、麻木君って結婚してたような・・・。子どももいたよね・・・。」

「何かが、おかしい。ここは夢の中・・・?」

回想すれば、私は大人の状態で、麻木君は高校生のままだった。夢からはっきり目が覚めて、私はしばらく抜け殻になった。

どんよりとした気持ちのまま、朝ごはんの準備をしに台所へ。頂き物の美味しいジャムとコーヒー、スーパーで一番安い食パンを冷蔵庫から取り出す。

「あぁ、甘酸っぱい果実のような、恋をしてみたかったな。」

貰ったままのジャムをグイっと開けると、ふわ~っと甘い香りが漂った。それから、焼き過ぎて焦げた食パンに4種のベリージャムを塗りたくりながら、これまでの恋愛を思い出す。

「焦げすぎた恋か。あぁ、あ。私もう38歳だよ。焦げすぎて、灰になってるって。バカバカしい夢。」

どんよりした気持ちから、イライラした気持ちに切り替わる。食パンからはみ出るほどジャム重ねて塗った。コーヒーはいつもよりたっぷりめ。朝からイライラのドカ食いだ。

甘いジャムのせいか、コーヒーが普段より苦く感じた。

「人生、苦いことばっかり。ほんと、嫌になる。」

「ほんと、あーぁ。あぁ。って感じ。」

「はぁ・・・。夢見が悪すぎだよ。バカバカしい。」

もう一度、寝室に戻って私は旦那をたたき起こす。「朝だよ!」「時間!」これを、ほぼ毎日。ちなみに、私たち夫婦に、子どもはいない。

子どもがいないから、嫌な人生ってことじゃない。私はまた、好きでもない人と付き合い、今度は籍まで入れちゃったこと。

「人生って、こんなものなのかな?」

自分で選んだ人生だけれど、打算の塊。行動しなかった結果。低めの平凡は手に入れることができた、幸いに。変化のない、地味な、ありきたりな。けれど、私みたいな人間はこれが最適解なのだと言い聞かせて、人生と食いつぶそうと思う。

思ったよりも、人生は短いから、このままズルズルと、あっという間に生涯を終えている気がする。

「ねー!起きてよ!」

夢の中の私は、何通りのあるパラレルの1つ。「if」を願って、実現した場合の世界。

「私、もう行くからね。あと、お願いね。」

支度をして玄関の鍵を閉めようとするが、鍵を回しても鍵がかからない。鍵を間違えたのかと思い、私は玄関のドアを開けると。

「ここはどこ」

※フィクションです。

あとがき

夢を全くみない人がいるように、夢を日常的にみる人がいる。全くみない人は夢が何なのかわからない。そして、日常的にみる人との乖離がおきる。病気よりも、きっと理解ができない事だと思う。全くみることない人にみせる技術があれば、いいのかもしれないけれど、熟睡するほうが良い。

何層にも重なった夢をみることもあれば、パラレルワールドに飛ばされることもある。あいにく私は、基本幸せな夢をみることがない。たまに眠ることが怖い日もある。けれど、夢の中の異世界はアイディアの泉、見たことのない景色をみることができる、そこに半分依存しているところがある。

脳に直接ケーブルをさせるようになったら、ぜひ面白い部分、異世界の部分を映し出して共有を試みたいものだ。

何かのヒントに。役立ててもらいたい。そして、私が私でよかったと思いたい。

蝉緒

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