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詩集

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練習帖ですが、よければご覧ください。
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2024年2月の記事一覧

春の夕暮れ

春の夕暮れ時 橙色の街灯の下を 勤めを終えた人びとが 緩んだ空気の中を おのおの向かうべき場所へ 歩いていく カフェへ? 愛する人のもとへ? それとも孤独の中へ?   春の浮き浮きした雰囲気に 人びとは溶け合いながら 春の夜の一つの情景になっている

春の歌

自由の歌を歌いませんか 涼しい木陰の やわらかな小道で 大きな酒樽を沢山積んだ 馬車の周りに集まって 緑や青のペンキを顔に塗った髭のじいさんや 頬が紅色に染まった女たちと一緒に ああ、風は青い山に吹くし 花吹雪が犬小屋に吹き込んでいる 春の歌を歌いませんか 今はいっときの悲しみはどこかに忘れて

春の朝

昨夜 春の嵐が 窓のシャッターをうるさく鳴らしていたが 今朝 嵐は去って  静かな朝だ ときおり思い出したような風が 竹林の間に吹き 音を立てている 空は晴れわたり まるで春が たった今 つぼみのようにいきいきとふくらんで 花ひらく準備をしているかのようだ

冬の朝日

水平線と黒く垂れ込めた雲とのわずかな隙間から 真っ赤な朝日が光っている 波は暗い夜の中で音もなく  寄せては返す 私は凍える朝に立ちつくしている ただ眼を透明にして 朝がここから開くのを心待ちにしながら 堤防の奥まで歩くと 巨大なテトラポットが 薄明りで神性を帯びている  私を見定めて その判断を先送りするのだろうか 海水が私の罪を清めるとは思えないが ドドーン――海水が堤防を越えて ひたひたと路面をぬらした 波は白い駿馬のように砂浜を駆け回まわる そんな夢のような一瞬が

山城賛歌

山城の竹林の隙間からお寺の大屋根が見下ろせた。 山を下りお寺の朱の楼門をくぐるとき 門の右隣の空き地の中を 軽トラックが弧を描きながら でこぼこの土の上を走っていた 「何やってんの?!」と、小学生くらいの弟の方が空き地の端から言った。 「地ならししてんの!」と、大学生くらいの兄の方が言って、 運転席からこちらを見た。 その視線には何やら敵意のようなものが 滲み出ているようだった。 こちらも相手が嫌になった 本殿まで、両脇に白い干支の彫り物が列ぶ、急な階段を上って行った まだ午