デッサンの考え方

これは、デッサンというものがなんなのかよくわからないと感じる人に向けてヒントの一つを提示するものです。これから美大受験を経験する、あるいは受ける予定の人にはあまり参考になりません。デッサンを教えて生計を立てている人に直接聞くのがベストでしょう。

私は2011年に某、公立の美術大学に合格しました。(東京芸大ではない)高校二年の時から予備校に通い始め、美大受験の対策をしました。そこや大学で教わったこと、自分で調べたことを元に書きます。論文ではないので出典は明らかでないのはご容赦ください。いわゆる、絵画表現や、芸術性、美術とは少し違う内容です。才能やセンスも関係ありませんし、絵がうまくなる秘訣でもありません。

そもそもデッサンとは

鉛筆デッサン、という言葉を耳にしたことはあるだろうか。絵画の説得力や伝える力をつけるためのもっともポピュラーとされている方法だ。絵がうまくなりたい思っている人にとって、デッサンは時には有効かもしれない。

美大受験においてのデッサンは石膏像や静物画が主流だ。画像検索すれば出てくるが、鉛筆のみで描かれた白黒が基本である。色がついたものは着彩デッサン(ちゃくさいでっさん)という。試されているであろう力は次の通り。

・ものの形を正確にとらえられているか

・物を奥行きや高さのあるものとしてとらえられているか

・光が差してくる方向を意識して描けているか

・質感や肌触り、材質の”らしさ”を描写できているか

・重量感、重さを感じられるか

・鉛筆の濃さを使い分けるなど、画材や素材の特性を理解して使いこなせているか

↓ 着彩デッサンの場合

・暖色と寒色を理解しているか

・色みのバリエーションがどれくらいあるか

・光の強さによって変化する色を描き分けられるか

などである。評価する人によって違いはあるのでこれがすべてではない。表向きには受験とは公平なものであらねばならない。技術面を評価するとき、情緒や芸術性など人の好みに左右されやすいものではなく、客観的な視点が求められる。それなりに理屈っぽくて粘り強い性格の人は練習と的確な指導の下でデッサンが得意になることも可能だ。

つまらない、と思った人もいるかもしれない。そのとおりである。創造性や遊びの余地は少なく、正確さと理屈っぽさが求められる。ただそれは受験という特殊な環境下でのこと。本来は人間の、この世界をもっと知りたい、水の流れや生き物の体の仕組みを解明したい、そういう知的好奇心から来るものであることを忘れてはならない。楽しいものであり、哲学的でもある。

デッサンは科学だ。例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチはモナリザの作者として知られるが、科学者であり発明家でもあった。自然や人体の神秘をくまなく探りつくそうとして膨大なデッサンを残している。それは表面的な飾りとしての美を追い求める行為でもなければ、自己表現でもない。自然の神秘を、科学的事実を追い求めた結果である。

そんなことを言うと、「ラスコーの洞窟壁画はどうなんだ?」と反ってきそうだがここでは割愛する。時代が変化し、多神教が一神教になっても、科学が宗教にとって変わっても自然の奥深さに人は魅せられる。「自然に対する畏敬の念+知的好奇心」と言い換えたほうがいいかもしれない。実際、進化論で有名なダーウィンは敬虔なキリスト教徒であり、神が作った自然の素晴らしさ、奥深さ理解することで神に敬意を表していた。

”科学”というと現代社会では魔法のような、何でもできて人間を神のような存在に近づけるものとしてとらえられがちだが、それは科学技術、応用科学のほうだ。もともとの考え方はギリシャの自然哲学に端を発する。この世の仕組み、大地や海や空の不思議を、神話や宗教によってではなく、論理的な思考、観察と実験によって深いところまで知ろうとしたのだ。しかし、彼らの考え方もまだ宗教に近かった。現代では地球が平らだと思っている人は少ないが、丸いことを証明するには数学や測量など、情報を正確にとらえて管理する技術が不可欠であった。
素人には科学用語や数式はたくさんあって難しくて頭を抱えてしまうのだが、当の科学者たちにとっては情報を正確に把握、蓄積して管理することに大いに役立っている。数学は好きでわざわざ難しくしているのではなく、科学的なデータを他者に伝えたり取り扱いやすくしているのである。

スケッチやデッサンは正確に伝えるためにある、という意味では科学用語や数式と共通点がある。ただし科学用語とは違って視覚的に人に伝えるために活躍しているため、比較的、自由度が高く書き手の裁量が含まれる。

ちょっと詳しい昆虫図鑑を読んだことがある人はご存知かもしれないが、写真だけでなく、図鑑には絵もたくさんつかわれている。あの線描と点描の細かいやつ。写真撮ればいいじゃない?と思うかもしれないが、小さすぎる虫は写真にとれないし、撮ってもボケてしまうのでイラストが大活躍している。(イラストは漫画アニメとしてだけではなく、説明する為の図としての意味もある)

図鑑の絵はじっくり見ると情報の塊だ。そして時には写真よりもたくさんの情報を雄弁に語る。それは描き手のさじ加減で情報を取捨選択して必要なことだけを伝えたり、魅力を引き出したりしているからだ。その過程を楽しむことさえできればあなたにもできる。もし興味を持たれたなら考えるよりやってみるほうが早いだろう。

描く対象をよく知り、成り立ちや仕組みを理解していく楽しさを味わいたい人はぜひ。モチーフはガムテープや皿のような単純なものでは楽しみが少ない。サザエの貝殻やセミの抜け殻など、自然物を描いてみることをおすすめしたい。

上手くなくてもいい。じっくり見る、観察する、発見をする、ということが大切なのだから。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?